子どもを納得させる為のあの場限りのでまかせで、本当に来るとは思っていなかった。
もう会う事はないだろうと考えていたから。
バイトを辞めてからあの時まで姿を見かける事すらなかったんだ。
それなら、あの場を収められたなら、約束は果たされなくとも不思議ではないと……


ある日の昼下がり、ピンポンと家のチャイムが鳴った。
普段あまり鳴る事がないチャイムの音に、宗教の勧誘でも来たのだろうかと思いながらそっと玄関のドアを開いた。

「急に訪ねてきてごめんなさい。先日はお世話になりました。バルトくんニケルくんと遊ぶ約束をしたので」

あっけらかんと言う彼女と目を合わせながらも、予想外の来客にオレが口籠っていると、不安になったらしい彼女は、さっぱりとした笑顔を少し曇らせて言った。

「……連絡先を聞くのを忘れていたので、適当な時間に来てしまいました。……迷惑でしたか……？」

「いや、迷惑なんて事は……でもまさかあの時の約束を律儀に守るとは正直思っていなくて……」

数週間ぶりに会った彼女は元気そうだった。
浮気現場を目撃してしまったというその彼氏とは、その後どうなったのか。
気になるところだが、親しい間柄でもないのにプライベートについてずけずけと尋ねて良いものだろうか？
そんな事が頭をよぎっていたところ、彼女の方から話があった。

「この間はありがとうございました。彼氏とは……さよならしたんです。知ってしまったら、やっぱりうまくいかなくなってしまって……」

「そ、そうか……だが、思っていたより元気そうで安心した」

笑顔だが複雑そうな表情の彼女にそれ以上言葉をかけられなかった。
玄関でオレとやり取りしているのが約束した彼女だと気が付いたバルトとニケルは、夢中になっていた遊びを止め、どちらともなく俺たちの元へ飛んできた。
2人とも嬉しそうな顔をして、お姉ちゃんこっちこっちと手を引いて、早速遊んでもらおうとしている。

「こらこら、2人でそんなに引っ張ったらお姉ちゃん、困っちゃうだろう？こんなところで立ち話もなんだから上がってくれ」

狭い部屋で悪いが……と最後に付け加えた。


その後は、弟たち2人は前回遊び足りなかった分、存分に彼女に遊んでもらった。
時々オレも混じえて。
休みなく弟たちと遊ぶ彼女に悪いなと思いつつ、弟2人が楽しそうにしている姿が、この時はただ嬉しかった。