第百一話※R-18表現アリ
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舞台は雪の降る寒い寒いとある街。
(あ)「パッチはいりませんか? あの…一本だけでいいんです! パッチはいりませんか?」
街にジングルベルが鳴り響く中、ボロボロの服を着た少女が街ゆく人に声をかける。その後ろにはまたもやパンツ一丁の新八が両手を広げて片足立ちしていた。
(あ)「(私はどこの街にもいるごくごくありふれた、ただの新八(パッチ)売りの少女)」
(新)「パッチ売りの少女ってなんだァァァァァァァ! どこにもいませんよ、そんなもん!」
(あ)「(今日はクリスマスイブ。街ゆく人はみんな華やかに着飾り楽しそうにしているけれど、私はいつものようにパッチを売るだけ。そうしなければ生きていけないから)」
(新)「だからパッチってなんだ! さっきと扱いほとんど変わってねーじゃねーか!」
(あ)「あの、パッチは…」
(妙)「いらねーよ」
(あ)「あの、パッチ…」
(妙)「何の役に立つんだ、そんなもん」
道行く人役のお妙達に声をかけるも、みんなして通り過ぎていってしまう。
(あ)「やっぱり今日もパッチは売れない…」
(新)「(なんかヘコむんだけど…。パッチが何か知らないけど全否定されてるよ! しかも全員姉上が役やってるし)」
(あ)「こんなんじゃお家に帰れない。お家に帰ったらまた…」
(神)「パッチを全て売りきるまで家にはいれないって言ったハズよ! さっさと私のコロナミンC代稼いできなさい! このクズ!」
(長)「さっさと酒代稼いでこい! この役立たず!」
(新)「(そうか。ロクでなしのお父さんとお母さんにこき使われてるんだ。こりゃ帰れないですね)」
(あ)「もう…もう泥棒(神楽)とゴキブリ(長谷川)だらけの家には帰りたくない!」
(新)「(コイツもかい! ていうか泥棒だらけって…その家のセキュリティーどうなてんだ! つーか音莉さんをクズとか役立たず呼ばわりすんな!!)」
やがて風は強くなり、雪が吹雪いてきた。
(あ)「寒い…(夜も更け、疲れ切った私の身体に容赦なく寒風が吹きすさぶ。私は凍える体で必死にパッチを売ろうとしたけど、もう身体は言う事を聞かなくなっていた)」
(新)「どっちが凍えそうだと思ってんですか! パッチはほとんど裸ですよ!?」
(あ)「(遠のく意識を必死に繋ぎとめ、私は一本だけパッチを使ってみる事にした。売り物を私的に使うなんて泥棒と変わらないいけない事だけど、今日位…神様も許してくれるよね? 私から私へのプレゼント……)」
そして音莉は寒い寒い冬の空気をそっと吸った。
(あ)《神様がくれた その名前をなくして
地位も名誉も栄光も 失ったんでしょ
疎まれて馬鹿にされ それでも笑い飛ばして
気付けば歳だけ重ねて まだ笑ってた
サヨナラの その意味がわかるまでの間
あなたは平気なフリをしてたね ねぇそうでしょ
奇跡を起こす力はないけど
そんなのよりもずっと
ねぇ 欲しいものがあるの 聞いてくれる
靴下に入れておいてよ ねぇいいでしょ
奇跡を起こす力なんかより
大事なものを見つけたよ
あなたが教えてくれたよ》
神様に届くよう、新八の前で歌いながら目を瞑って祈り続けた音莉。
(新)「えっ…パッチって暖をとるものだったんですか? うん。いいよ。それだけ寒いならどうぞ使えばいい。いい歌も聞けたし。その歌ならきっと神様も笑顔で許してくれますよ。で、何すればいい…」
(あ)「うおりゃああああああああああああああ!」
バコッ!
(新)「はがっ!」
突如、音莉が新八の頬を思いっきり殴った。
(あ)「とお、はっ、やぁっ!」
バコッ、ボコッ、ドゴッ!
次々に新八を殴っていく音莉。
(新)「パッチただのサンドバックじゃないですか!」
(あ)「(パッチを使うと、身体が暖かくなった)」
(新)「身体動かしてるだけですよね!?」
バコッ、ボコッ、ドゴッ!
(あ)「(心も身体も不思議とぽかぽかしてくる)」
(新)「こんな冷徹な事やっといて何ぽかぽかしてんですか! つーか音莉さん、ツッコミに戻ってきてくださいィィィィィィィィィ!」
バコッ、ボコッ、ドゴッ!
(あ)「(すると不思議な現状が起きた。パッチを使う度に、クリスマスのテーブルを彩る様々なディナーが姿を現したのだ)」
バコッ!
(新)「ゲボッ!」
新八の口からゲロが吐きだされる。
バコッ、ボコッ、ドゴッ!
(あ)「(それはただの幻影だったのかもしれない。でも私は嬉しくて夢中でパッチを使い続けた)」
バコッ、ボコッ、ドゴッ!
(あ)「(次々現れる幻影…ネギ、こんにゃく、もんじゃ焼き、シラタキ、もんじゃ焼き、もんじゃ焼き、もんじゃ焼き)」
(新)「つーかほとんどもんじゃしか出てねーだろ! もうゲロしか出てねーだろ!」
バコッ、ボコッ、ドゴッ!
(あ)「(でも手を止めると幻影もまた現れるのを止めてしまう。私は一本しか使わないと決めていたのに、いつの間にか二本三本とスパーリングをし続けていた)」
(新)「スパーリングって言ったよね? 今スパーリングって認めましたよね!?」
(あ)「おりゃあああああああああああ!!」
バコッ!!
(新)「ふごっ!」
(あ)「(体力は限界を越え、意識が遠のいていく。それでも私は最初で最後のクリマスパーティーをやめるつもりにはなれなかった)」
バコッ、バコッ!!
(新)「(死ぬ! このままじゃパッチもパッチ売りの少女も死ぬ! マッチ売りの少女パターンだよ! マッチを全部燃やしつくした少女は死んでしまうんだ!)」
とその時、屋根の上に人影が現れた。
(新)「サンタさん! お願いだからこの少女をツッコミに戻してあげて! そしてパッチを助けてあげて!! お願いだ、サンタさん! なんとかしてくれ!!」
その人影…九太クロースこと九兵衛はその様子を見てこう言った。
(九)「それは…何でも出るのか?」
(新)「はぁ!?」
(九)「君のそれは望むものなら何でも…妙ちゃんでも出るのかと聞いている!!」
そう言いながら九兵衛は真っ直ぐ新八の方へと飛び降りてきた。
(新)「へっ!?」
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そして次の日の朝。
(あ)「(翌日、イブが明け、街を行く人々が見つけたのは、パッチの燃えカスと吐瀉物にまみれながらも幸せそうに眠る、真っ白な灰になった二人のボクサーの屍であった)」