第九十七話(月詠篇)

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名前(デフォルト:音莉〔おとり〕)
スタンドからの呼ばれ方(77話で使用)

~no side~


満月が煌々と照らし、賑やかな音が鳴り響く吉原桃源郷。


そんな街を一望できる建物から、月を眺めている男がいた。


(?)「思いもしなんだ」


その男が放った言葉に、先程まで共に戯れていた女が髪をとかしながら振り返る。


(?)「まさか吉原で…月が見れるようになるとは……」


「やだ、何言ってるんですか? 旦那が吉原に来るようになったのは吉原が解放されてからでしょ?」


女が男の腕に自分の腕を絡める。


(?)「…いや」


「えっ?」


(?)「遠い昔に…あったのさ」


女は男を不思議そうに見上げる。


(?)「天井は閉じていたが…だがその頃にも月はあった。小さくとも健気で美しい月が」


男は満月を見ながら、一人言のようにそう呟いた。











その頃、吉原の街ではとある騒ぎが起きていた。


「「待てェェェェェェェェ!」」


「はぁ、はぁ…」


百華の者達から逃げ回る、一人の男。


するとその前に…


「………!」


(月)「………」


月詠が現れ、男は足を止めた。


「はぁ、はぁ…」


前には月詠、そして後ろを振り返れば百華の女達。


「くっ…」


挟み撃ちにされた男は歯を食いしばる。


だが男が再び前を見ると、そこには月詠の姿はなかった。


と次の瞬間…


バシッ…


「っ……!」


バタン…


瞬時に男の背後に回った月詠が男の首のツボを攻撃すると、男はその場に倒れた。


そして百華の女が男の懐をまさぐる。


(月)「…またか」


月詠がそう言うと、百華の女は男の懐から取り出した、袋に入った白い粉…非合法薬物を月詠に見せる。


「今月に入ってもう七件目です」


(月)「最早捨て置くワケにはいくまい。このままでは吉原は取り返しのつかない事になる」


「それと…」


もう一人の百華の女が月詠に何かを耳打ちする。


(月)「…そうか」











そして男を捕らえた月詠は街を巡回し始める。すると…


ドン!


すれ違いざまに店から出てきた男…先ほど月を仰ぎ見ていた男とぶつかる。


(?)「申し訳ない」


(月)「いや、こちらこそ」


そしてそのまま何事もなかったかのようにすれ違う二人。


(?)「立派になったな…月詠」


その男の言葉は月詠には聞こえなかった。


だが月詠が振り返ると、その男の姿はもうなかった。


(月)「ふー…」


月詠はその男が消えた先を見つめながら、キセルの煙を吐いた。


そう…月詠はすれ違いざまに見たのだ。あの男の首の後ろに…蜘蛛の入れ墨があるのを…。







───月明かりが照らす吉原桃源郷。そこに張り巡らされた蜘蛛の巣…その主は、捕らわれた獲物を食らおうとしていた。
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