第五話
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~銀時side~
桜が散り、緑の新芽が木々につき始めたこの季節。
今日はもう4月の終わり頃……音莉の誕生日まで、残り一週間。
この日、俺は大事な任務を果たそうとしていた。
「お前が20歳になった時……本当の意味で、家族になろう」
音莉が生きることに迷った時、彼女が生きる希望を持てるようにと約束したそれを叶えるために。
その約束を叶えるために必要なもの…今日はそれを買いにきたのだ。
ティファニーとか、そんなお洒落な店の名前ではないが、少し錆びれたその宝石店に入っていけば、カウンターには見慣れた顔のジジイが新聞を読みながら午後のひと時を楽しんでいた。
(銀)「よォ」
「おっ、銀さんじゃねーかい」
声をかけるとジーさんはこちらに気付いて顔をあげる。
このジーさん、昼間はこうして宝石店を営んではいるが、夜は飲み屋を開いているジーさんで、その飲み屋が俺の行きつけでもある。
だからこうして顔見知りってワケだ。
音莉にピンクサファイアの指輪や婚約指輪を渡す時も、このジーさんに世話になってる。
だからジーさんは何故、俺がここに今日来たのかを分かっているのだろう。
「ここに来たってことは……ようやく身ィかためたってことかい」
ニヤリと笑うジーさんに、俺は短く「ああ」と返事をした。
俺がここに来た理由……それは音莉との結婚指輪を見繕うためだ。
5月1日…それは最愛の彼女が生まれた日であり、両親共々故郷がなくなっちまった命日でもある。
誕生日の日が両親の命日……自分のことより他人のことばかり考えちまう音莉にとっちゃ、その日は喜ばしいことというよりも、悲しい出来事が起こった日だと受け止めてしまうだろう。
勿論その出来事を忘れろとは言わねェ。だけどその日がきたときに涙を流すのではなく、笑っていてほしいから……そのためには、その5月1日という日を笑顔に出来るような特別な日にしたくて。
だから俺はその日に指輪を渡して、籍を入れて…5月1日という日を二人にとって大切な日にしたいと思った。
結婚指輪ってのは本来なら二人で選びに来るものなんだろうが、プロポーズはサプライズにしたくて、今日は一人で来たというワケだ。
「しっかし銀さん、指輪なんて買う金あんのかい」
(銀)「心配すんな、充分買えるくらいにはあるよ」
なんせ、ババアの家賃攻撃から逃れながらも必死でこの日のために夫婦貯金してたからな。
「だったらティファニーの指輪でも送ってやんなよ」
(銀)「その金はねーよ…」
……ま、夫婦貯金してたってドヤ顔で言ったが、実際はブランドものを買える余裕はねェ。
要はカツカツギリギリの予算ってこった。
(銀)「さて、どれにするか…」
ぶっちゃけ俺のセンスで選んだものが、一生二人の揃いのものになると緊張しそうになる。うわ、しそうになるとか言ったけど、現在進行形でメチャクチャ緊張してきたわ。
(銀)「(やっぱり、サプライズとかにせず音莉を連れてきて選んでもらった方がよかったか…)」
そう思いながらキラキラ輝く指輪を一つずつ見ていた時。
(銀)「おっ…」
思わず目にとまったものがあった。
(銀)「これ……」
俺が目にしたその指輪は、キラキラと輝くシルバーのリングに、桃色と水色の桜がついた……まさしく、俺と音莉が並んだような、そんなリングで。
他のものにも目を移してみるが、最終的にはどうしてもその指輪に目が戻ってしまう。
(銀)「……これしかねーな」
直感が…本能が、これ以外はあり得ないと言っている気がして。
音莉と出会った時に一瞬で惹かれてしまった時と、同じような感覚……だとすれば、この直感は大当たりなのだろう。
(銀)「ジーさん、この指輪…いくら?」
「お、これかい?これはな…」
そして提示された値段を見てみると…
(銀)「……ちいっと足りねーな」
どうやら他の指輪よりちょいと値が張るらしく、思わず眉間にしわがよる。
(銀)「なんでこれだけ高いの。なに?嫌がらせ?」
「んなワケないじゃろ。むしろ顔見知りサービスしてこの値段さ」
(銀)「つーかこれならブランドモンのちょいと安めの指輪と大して変わんねーんじゃねーか?」
「まあそうかもしれんがな。通常の指輪ってのはシンプルなデザインでダイヤがちょこっとついてるだけだが、そいつは桜模様が二つ並んでるだろ?その二つにダイヤが使われてるから高いんじゃよ」
(銀)「………」
この値段では今の貯蓄では買えない。かと言って俺に他の財産があるワケがない。
けれど、どうしてもこれがいい…これじゃないとダメな気がする。
「なんだい、銀さん。これ気に入ったのかい」
(銀)「ああ。けどちいとばかし足りなくてな」
「これまでの飲み屋のツケ、払ってくれるんならもうちょっと負けてやってもいいぞ?」
(銀)「飲み屋のツケ払う金あんだったら、この指輪もすぐにお買い上げ出来てんだよ」
他の指輪……なんて考えもよぎるが、その考えもすぐに打ち消されてしまう。
やっぱり、これじゃねーと納得出来ねェ。心のどこかでこれだと決めてしまった自分がいるから。
(銀)「ジーさん、これ…5月1日まで置いといてもらえるか」
「そりゃ別に構わんが……どうするんじゃ?」
(銀)「一週間でなんとか金かき集めてくらァ」
「……お縄になんじゃねーぞ」
(銀)「ちげーわ! ちゃんとまっとうな方法でかき集めてくるわ!」
「………カツアゲ?」
(銀)「アンタにゃ俺がどんな風に見えてんだよ……」
「ほぼほぼ犯罪者みたいなもんじゃろ」
(銀)「どの辺がだよ! どう考えても善良な市民だろうがよ!」
「じゃあツケ払えよ」
(銀)「ツケのことは忘れろ! 今すぐ忘れろ!! 頭ぶつけてくれ、頼む…!」
などというやりとりを続けて息が切れた後、ジーさんは「まぁ…」と言葉を続ける。
「それでも…そんな銀さんが、たった一人の惚れた女のために、これまでやろうとも思わなかった貯蓄を何年もかけて続けて、いつもは死んだ魚みてーな目をかっぴらいて緩んだ表情を引き締めて……真剣に指輪を選んでたんだ。最初は音莉ちゃんもこんな男に引っかかって災難だと思っていたが……どうやらわしの思い違いだったらしい。変わったな、お前さんも」
(銀)「……変えてもらったんだよ、その音莉に」
正直、これまでは生きることに執着なんて出来なかった。何かを抱え込む気になんてなれなかった。
だけど……そんな俺に生きたいと思えるくらいのたくさんの幸せを与えてくれた。
好きや愛してるの言葉の本当の意味も、愛情も、キスも身体を重ねるその意味も………全部全部、音莉が教えてくれたから。
だからその分、俺は音莉に返さなきゃならねーんだ。
一生かけても足んねーかもしれねーけど……それでも、俺を鬼から人に還してくれた、音莉に。
彼女を笑顔に出来るだけの幸せを……ありったけ詰め込んで。
そうやって彼女を幸せにすることが、また俺の生きがいになった。ずっと隣にいたいって思うようになったんだ。
音莉が笑っていてくれるだけで、俺は素直に生きたいって思えるくらいに幸せになれるから。
(銀)「とにかく、残り一週間…」
幸せのほんの一かけらだけど…それを音莉にプレゼントするために、足りない金額をなんとか集められる、その方法は……。
(銀)「……行くか、あの化物の巣窟に」
思いついたのは、夜に羽ばたく蛾の集団が掬うその場所だ。
そうして俺は、あまり気が向かないが真昼間の今も酒を飲んでどんちゃん騒ぎしているであろう、オカマの巣窟へと足を向けた。
桜が散り、緑の新芽が木々につき始めたこの季節。
今日はもう4月の終わり頃……音莉の誕生日まで、残り一週間。
この日、俺は大事な任務を果たそうとしていた。
「お前が20歳になった時……本当の意味で、家族になろう」
音莉が生きることに迷った時、彼女が生きる希望を持てるようにと約束したそれを叶えるために。
その約束を叶えるために必要なもの…今日はそれを買いにきたのだ。
ティファニーとか、そんなお洒落な店の名前ではないが、少し錆びれたその宝石店に入っていけば、カウンターには見慣れた顔のジジイが新聞を読みながら午後のひと時を楽しんでいた。
(銀)「よォ」
「おっ、銀さんじゃねーかい」
声をかけるとジーさんはこちらに気付いて顔をあげる。
このジーさん、昼間はこうして宝石店を営んではいるが、夜は飲み屋を開いているジーさんで、その飲み屋が俺の行きつけでもある。
だからこうして顔見知りってワケだ。
音莉にピンクサファイアの指輪や婚約指輪を渡す時も、このジーさんに世話になってる。
だからジーさんは何故、俺がここに今日来たのかを分かっているのだろう。
「ここに来たってことは……ようやく身ィかためたってことかい」
ニヤリと笑うジーさんに、俺は短く「ああ」と返事をした。
俺がここに来た理由……それは音莉との結婚指輪を見繕うためだ。
5月1日…それは最愛の彼女が生まれた日であり、両親共々故郷がなくなっちまった命日でもある。
誕生日の日が両親の命日……自分のことより他人のことばかり考えちまう音莉にとっちゃ、その日は喜ばしいことというよりも、悲しい出来事が起こった日だと受け止めてしまうだろう。
勿論その出来事を忘れろとは言わねェ。だけどその日がきたときに涙を流すのではなく、笑っていてほしいから……そのためには、その5月1日という日を笑顔に出来るような特別な日にしたくて。
だから俺はその日に指輪を渡して、籍を入れて…5月1日という日を二人にとって大切な日にしたいと思った。
結婚指輪ってのは本来なら二人で選びに来るものなんだろうが、プロポーズはサプライズにしたくて、今日は一人で来たというワケだ。
「しっかし銀さん、指輪なんて買う金あんのかい」
(銀)「心配すんな、充分買えるくらいにはあるよ」
なんせ、ババアの家賃攻撃から逃れながらも必死でこの日のために夫婦貯金してたからな。
「だったらティファニーの指輪でも送ってやんなよ」
(銀)「その金はねーよ…」
……ま、夫婦貯金してたってドヤ顔で言ったが、実際はブランドものを買える余裕はねェ。
要はカツカツギリギリの予算ってこった。
(銀)「さて、どれにするか…」
ぶっちゃけ俺のセンスで選んだものが、一生二人の揃いのものになると緊張しそうになる。うわ、しそうになるとか言ったけど、現在進行形でメチャクチャ緊張してきたわ。
(銀)「(やっぱり、サプライズとかにせず音莉を連れてきて選んでもらった方がよかったか…)」
そう思いながらキラキラ輝く指輪を一つずつ見ていた時。
(銀)「おっ…」
思わず目にとまったものがあった。
(銀)「これ……」
俺が目にしたその指輪は、キラキラと輝くシルバーのリングに、桃色と水色の桜がついた……まさしく、俺と音莉が並んだような、そんなリングで。
他のものにも目を移してみるが、最終的にはどうしてもその指輪に目が戻ってしまう。
(銀)「……これしかねーな」
直感が…本能が、これ以外はあり得ないと言っている気がして。
音莉と出会った時に一瞬で惹かれてしまった時と、同じような感覚……だとすれば、この直感は大当たりなのだろう。
(銀)「ジーさん、この指輪…いくら?」
「お、これかい?これはな…」
そして提示された値段を見てみると…
(銀)「……ちいっと足りねーな」
どうやら他の指輪よりちょいと値が張るらしく、思わず眉間にしわがよる。
(銀)「なんでこれだけ高いの。なに?嫌がらせ?」
「んなワケないじゃろ。むしろ顔見知りサービスしてこの値段さ」
(銀)「つーかこれならブランドモンのちょいと安めの指輪と大して変わんねーんじゃねーか?」
「まあそうかもしれんがな。通常の指輪ってのはシンプルなデザインでダイヤがちょこっとついてるだけだが、そいつは桜模様が二つ並んでるだろ?その二つにダイヤが使われてるから高いんじゃよ」
(銀)「………」
この値段では今の貯蓄では買えない。かと言って俺に他の財産があるワケがない。
けれど、どうしてもこれがいい…これじゃないとダメな気がする。
「なんだい、銀さん。これ気に入ったのかい」
(銀)「ああ。けどちいとばかし足りなくてな」
「これまでの飲み屋のツケ、払ってくれるんならもうちょっと負けてやってもいいぞ?」
(銀)「飲み屋のツケ払う金あんだったら、この指輪もすぐにお買い上げ出来てんだよ」
他の指輪……なんて考えもよぎるが、その考えもすぐに打ち消されてしまう。
やっぱり、これじゃねーと納得出来ねェ。心のどこかでこれだと決めてしまった自分がいるから。
(銀)「ジーさん、これ…5月1日まで置いといてもらえるか」
「そりゃ別に構わんが……どうするんじゃ?」
(銀)「一週間でなんとか金かき集めてくらァ」
「……お縄になんじゃねーぞ」
(銀)「ちげーわ! ちゃんとまっとうな方法でかき集めてくるわ!」
「………カツアゲ?」
(銀)「アンタにゃ俺がどんな風に見えてんだよ……」
「ほぼほぼ犯罪者みたいなもんじゃろ」
(銀)「どの辺がだよ! どう考えても善良な市民だろうがよ!」
「じゃあツケ払えよ」
(銀)「ツケのことは忘れろ! 今すぐ忘れろ!! 頭ぶつけてくれ、頼む…!」
などというやりとりを続けて息が切れた後、ジーさんは「まぁ…」と言葉を続ける。
「それでも…そんな銀さんが、たった一人の惚れた女のために、これまでやろうとも思わなかった貯蓄を何年もかけて続けて、いつもは死んだ魚みてーな目をかっぴらいて緩んだ表情を引き締めて……真剣に指輪を選んでたんだ。最初は音莉ちゃんもこんな男に引っかかって災難だと思っていたが……どうやらわしの思い違いだったらしい。変わったな、お前さんも」
(銀)「……変えてもらったんだよ、その音莉に」
正直、これまでは生きることに執着なんて出来なかった。何かを抱え込む気になんてなれなかった。
だけど……そんな俺に生きたいと思えるくらいのたくさんの幸せを与えてくれた。
好きや愛してるの言葉の本当の意味も、愛情も、キスも身体を重ねるその意味も………全部全部、音莉が教えてくれたから。
だからその分、俺は音莉に返さなきゃならねーんだ。
一生かけても足んねーかもしれねーけど……それでも、俺を鬼から人に還してくれた、音莉に。
彼女を笑顔に出来るだけの幸せを……ありったけ詰め込んで。
そうやって彼女を幸せにすることが、また俺の生きがいになった。ずっと隣にいたいって思うようになったんだ。
音莉が笑っていてくれるだけで、俺は素直に生きたいって思えるくらいに幸せになれるから。
(銀)「とにかく、残り一週間…」
幸せのほんの一かけらだけど…それを音莉にプレゼントするために、足りない金額をなんとか集められる、その方法は……。
(銀)「……行くか、あの化物の巣窟に」
思いついたのは、夜に羽ばたく蛾の集団が掬うその場所だ。
そうして俺は、あまり気が向かないが真昼間の今も酒を飲んでどんちゃん騒ぎしているであろう、オカマの巣窟へと足を向けた。
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