第二百十九話(歌姫消失篇)
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侍の国。この国がそう呼ばれていたのは、今は昔の話。
かつて侍達が命を賭して護った江戸の空には、再び異郷の船が飛び交う。
かつて侍達が命を賭して護った江戸の街には、再び異人がふんぞり返り歩く。
虚との戦いを終えて、あれから1年半。
戦いの爪痕を深く残しながらも、江戸は一歩ずつ以前の姿に戻りつつあった。
倒壊したビルはほぼ建設が終わり、ターミナルもまた、修繕が完了される目前であった。
あちこちで話声が聞こえてきては、笑い声が響き、その間を人間ではない…天人達が行き交う。
そんな中…ある男は、一件のファミレスを訪れていた。
「バカヤロー! だから違うって言ってんだろうがァァァァァァァァ!!」
店内ではレジ打ちをしていた冴えない少年が、店長にぶたれて説教を食らわされていた。
「オメー、レジ打ちなんて今時ゴールデンレトリバーでも出来よ!!お前人間じゃん! 一月も勤めてんじゃん!なんでんな事も出来ねーんだよ、バカヤロー!お前みたいに使えねェ奴前にもいたな! とっくにどっかでのたれ死んでるだろーがよォ!」
しかしそこに口を挟んできたのは、豹の顔をした天人四人組…茶斗蘭星大使だ。
「オイ店長、その辺にしておけ」
「小僧、レジはいいから牛乳を頼む」
「は、はい……」
「ちょ、ちょっとダンナ。甘やかしてもらっちゃ困ります…」
「いやいや、最近の侍を見ると何やら憐れでな…。全宇宙を敵に回したあの戦いから1年と少し。辛くも滅びを免れ、皮一枚で首を繋いだままではよかったが、戦で疲弊しきった国に、残骸になった国土を建て直す力はなく、他国の協力無くしては、ろくに民も食わせられぬ有様」
「生きさらばえるため周りにこびへつらうその姿は、まるで生きる屍のようだ」
「そんな姿を見せられるとつい…」
しかし牛乳を運んできた少年の足を、男達は足をふいに出してひっかけ、転ばせ、その場に牛乳をぶちまけてしまう。
「手だけでなく足も出したくなる!」
そしてその場に、天人共の汚い笑い声が響き渡る。
だがそんな時、その天人達の後ろの席にいた男は…その少年の無様な姿にかつての自分を重ね……そして、そんな時に現れた男の事を思い出しながら、後ろ手で下品な笑いを響かせる男達の頭をガシリと掴んだ。
(?)「あの…すいません」
そして男は宙返りをしながら天人の男達の頭を机の上に叩きつけ、男は茶斗蘭星大使達のテーブルの上に降り立った。
「なんだ? 貴様は! 我等を茶斗蘭星大使と知っての狼藉か!」
天人達は男に銃を向けるも、メガネをかけたその男は、耳にかけていたイヤホンをとり、言った。
(?)「ギャーギャーギャーギャー…静かにしてもらえませんか?発情期ですか?」
「なんだ!? 貴様は!」
(?)「寺門通ベスト、新八エディションに雑音が入ってくる。迷惑です。即刻店から出て行ってください」
……戦から一年半。髪の流し方も変わり、銀時の羽織を着て…メガネは相変わらずだが、大人びたあの頃の少年……新八はそう言い放った。
(新)「僕は彼のような少年を放っておくワケにはいかない。何故なら…僕も彼だったから」
牛乳まみれになる少年を見ながらそう言った新八は、腰の木刀を抜く。
(新)「だから君も…きっと強くなれる!」
その木刀を振り上げるも…
「人の店で何暴れてんだ、クズ共がァァァァァァァァァァ!!」
……それより先に店長からの飛び蹴りを茶斗蘭星大使達と共に受け、吹き飛ばされてしまった。
「茂助、大丈夫か!? てめーら、よくもやっと引きこもりから脱し、働き始めた息子を…!」
そして店長は、床に転がった大使の胸倉を掴んで、拳を振り上げる。
「どこぞの星のお偉いさんか知らねーが、ここは俺達の国! 俺の店だ! もうでっけェツラはさせねェ! 俺達ゃ戦で色んなものを失った! だが代わりに失くしちゃならねーもんも知った!そいつを教えてくれた、そいつを護ってくれた侍達を侮辱する事は許さねェ! このメガネ星人が!!」
……しかし店長が殴っていたのは、大使ではなく、新八であった。
「おとといきやがれ!」
と、新八は大使諸共外に放り出されてしまう。
「おのれ地球人…! 戦依頼すっかり生意気になりおって!」
「覚えていろ!」
「国際問題にしてやる!」
そしてまた大使達も、地面に転がる新八達を何度も蹴り、リンチにしてからそんな捨てセリフを吐いて去って行った。
ボロボロになりながらも、新八は転がったメガネを拾い上げ、なんとか立ち上がる。
(新)「いい店になりましたね、店長…」
フラフラと歩き始めたものの、新八は顔を伏せたまま、上げる事が出来なかった。
(新)「アレ? おかしいな。前が…嬉し涙かな……きっとそうだ………」
それから、ふぅ…と思わずため息に似た息を吐き出した。
(新)「(やっぱり、あの人みたいにはいかないな…)」
自分が同じ目に遭った時…そこに突如現れた銀髪天パの男の破天荒ぶりを思い返し、新八はそんな事を思ってしまった。
(新)「(今の江戸を見たら、あの人は何と言うだろう? みんな強くなった。みんな逞しくなった)」
そして新八が階段を上がり、扉を開き……辿り着いたのは、継ぎ接ぎで建て直した万事屋……いつもはその銀髪天パの男が座っていた、社長椅子に座る。
(新)「相変わらずベソかいてんのは僕だけです、銀さん」
机の上に飾った写真立て…そこに写る四人と一匹の写真を見ながら、そう零した。
(新)「(あの日、僕らは地球と共に滅んだ。そして共に生まれ変わったのかもしれない。そんな事を思ってしまうのは、江戸が…以前の姿を取り戻しつつも、どこか違う景色に見えてしまうせいだろうか)」
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