第二百十六話(銀ノ魂篇)
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~no side~
「……でも、それでいいじゃない。私はその痛みと一緒に生きていきたいの」
大きな墓の前に、二人の男女が佇む。
一人は圓翔、そして…一人は彼の妻だ。
「だってそれは、あの人がこの世界に生きていた証。私の中にあの人がまだ生きている証だもの。でもこんな思いになれたのは、アナタとこの子が一緒にいてくれるから」
そう言いながら、彼女は新たな命が宿っている膨らんだ腹をさする。
「だから圓翔、私を置いて戦場で死んだりしちゃダメよ。アナタには私より長生きしてもらって、私がいなくなった時……うんと苦しんでもらうんだから」
彼女の言葉を最後まで隣で聞くことなく、圓翔は身を翻して去っていく。
だがそれが…圓翔が妻と交わした最後の言葉であった。痛みと共に生きていく……だがしかし、その痛みがどのようにして生まれたのかも知らずに。
時はこの出来事の少し前に遡る。
圓翔は故郷の星へ戻り、住民達の盛大な歓声を受けながら…それでも顔色一つ変えず、兵を引き連れて歩いていた。
そして、現れたのは彼の兄…圓翔とは違い、にこやかな笑みを浮かべる男であった。
「よくぞ帰った、硝煙の皇子…いや、我が自慢の弟よ! お前こそはまさに、この武嶺を護る守護神だ!」
兄が告げると、集まった住人達もまた、ひと際大きな歓声を浴びせる。
そんな兄の隣には、圓翔の妻。
……いや、この頃はまだ圓翔の妻ではない。別の男の妻であった。
そして兄は、彼女の肩に手を置き、彼女もまた、にこやかな笑みを浮かべる。
そう…圓翔の妻は、以前は彼の兄の妻であったのだ。
この頃から、圓翔が彼女をどう思っていたのか、誰も知らずに。
・
・
・
・
「心配いらぬ! これは戦を起こさぬための同盟を結ぶ旅。危険な事など起こりようもない」
「ええ……」
軍事のため宇宙に旅立つ旦那…圓翔の兄を心配そうに見つめる彼女だったが、そんな彼女に愛おしさを覚え、兄は心配するなとばかりにキスをお見舞いした。
「それに私には英雄、硝煙の皇子がついている!」
……見上げた先には、船の甲板でそんな二人を見つめていた、圓翔が立っていた。
しかしいざ宇宙に旅立った時、兄の乗った宇宙船で爆発が起き、船内が大きく揺れた。
「き、奇襲だと!? バカな…この同盟の話は罠だったと!?」
そしてすぐに「敵に包囲された! 至急応援を……」を圓翔に通信で呼びかけるも、圓翔はその画面を険しい顔で眺めたまま、なにも返す事はなかった。
「圓翔? 圓翔ォォォォォォォォ!!」
無情にも、圓翔はモニターの前から姿を消し………そして、兄は帰らぬ人となった。
協会の祭壇で…思いもよらなかった最愛の人の死に、真っ黒なドレスに身を包んだ彼女は泣き崩れていた。
そんな彼女の肩に圓翔は手を置き、彼女もその手の上に自分の手を重ねようとすると、ふと…圓翔は彼女の手を取ったのだ。
そのまま圓翔は彼女を背後から抱き締め……彼女の手から、花束が落ちる。
圓翔には最初から、彼女のために誰かを憎む資格などなかった。
……彼女の仇は、圓翔自身だったのだから。
「……でも、それでいいじゃない。私はその痛みと一緒に生きていきたいの」
大きな墓の前に、二人の男女が佇む。
一人は圓翔、そして…一人は彼の妻だ。
「だってそれは、あの人がこの世界に生きていた証。私の中にあの人がまだ生きている証だもの。でもこんな思いになれたのは、アナタとこの子が一緒にいてくれるから」
そう言いながら、彼女は新たな命が宿っている膨らんだ腹をさする。
「だから圓翔、私を置いて戦場で死んだりしちゃダメよ。アナタには私より長生きしてもらって、私がいなくなった時……うんと苦しんでもらうんだから」
彼女の言葉を最後まで隣で聞くことなく、圓翔は身を翻して去っていく。
だがそれが…圓翔が妻と交わした最後の言葉であった。痛みと共に生きていく……だがしかし、その痛みがどのようにして生まれたのかも知らずに。
時はこの出来事の少し前に遡る。
圓翔は故郷の星へ戻り、住民達の盛大な歓声を受けながら…それでも顔色一つ変えず、兵を引き連れて歩いていた。
そして、現れたのは彼の兄…圓翔とは違い、にこやかな笑みを浮かべる男であった。
「よくぞ帰った、硝煙の皇子…いや、我が自慢の弟よ! お前こそはまさに、この武嶺を護る守護神だ!」
兄が告げると、集まった住人達もまた、ひと際大きな歓声を浴びせる。
そんな兄の隣には、圓翔の妻。
……いや、この頃はまだ圓翔の妻ではない。別の男の妻であった。
そして兄は、彼女の肩に手を置き、彼女もまた、にこやかな笑みを浮かべる。
そう…圓翔の妻は、以前は彼の兄の妻であったのだ。
この頃から、圓翔が彼女をどう思っていたのか、誰も知らずに。
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「心配いらぬ! これは戦を起こさぬための同盟を結ぶ旅。危険な事など起こりようもない」
「ええ……」
軍事のため宇宙に旅立つ旦那…圓翔の兄を心配そうに見つめる彼女だったが、そんな彼女に愛おしさを覚え、兄は心配するなとばかりにキスをお見舞いした。
「それに私には英雄、硝煙の皇子がついている!」
……見上げた先には、船の甲板でそんな二人を見つめていた、圓翔が立っていた。
しかしいざ宇宙に旅立った時、兄の乗った宇宙船で爆発が起き、船内が大きく揺れた。
「き、奇襲だと!? バカな…この同盟の話は罠だったと!?」
そしてすぐに「敵に包囲された! 至急応援を……」を圓翔に通信で呼びかけるも、圓翔はその画面を険しい顔で眺めたまま、なにも返す事はなかった。
「圓翔? 圓翔ォォォォォォォォ!!」
無情にも、圓翔はモニターの前から姿を消し………そして、兄は帰らぬ人となった。
協会の祭壇で…思いもよらなかった最愛の人の死に、真っ黒なドレスに身を包んだ彼女は泣き崩れていた。
そんな彼女の肩に圓翔は手を置き、彼女もその手の上に自分の手を重ねようとすると、ふと…圓翔は彼女の手を取ったのだ。
そのまま圓翔は彼女を背後から抱き締め……彼女の手から、花束が落ちる。
圓翔には最初から、彼女のために誰かを憎む資格などなかった。
……彼女の仇は、圓翔自身だったのだから。
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