第二百十三話(銀ノ魂篇)
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~no side~
完全に日が落ち、いつもなら煌々とした明かりが灯るかぶき町は、電気が通らず、暗い中で各々に火を焚いたり、ろうそくの明かりを灯したりして明るさを保っていた。
そして、焚き火の囲む二つの影も、そこにはあった。
(登)「まさか夜のかぶき町がネオンじゃなく、月明かりと焚き火に照らされる日が来るとはねェ」
(泥)「年中やかましい街だ。たまにゃこんな夜も悪かねーだろ」
(登)「それでも夜を迎えられただけマシだってかい」
(泥)「ああ。次は朝日に照らされた街が拝めりゃ、上出来でィ」
(登)「やれやれ、明日を迎えるのがこんなに大仕事だったとはねェ。以前は黙ってても勝手に朝日がやってきたが、今じゃ胸ぐら掴んで恫喝しないと暖簾もくぐりゃしないってんだから。アイツらはよくやったよ。それでも明日を迎えるにゃ足りないかィ?」
(泥)「こっちが足りねェんじゃねェ。敵があり余ってんのさ。撤退にこそ持ち込んだが、俺達ゃ敵に勝ったワケじゃねェ。一時的に負けたと錯覚させただけだ。精鋭を破り、少しは兵隊を削ったが、全体の兵力から見ればヒビの入った程度だ。一方こちらは大軍を相手どって消耗しきってる。散り散りに敗走した敵が軍を立て直し、再び攻めてくればひとたまりもねーや。幕軍が追撃をかけ敵の立て直しを妨害しているようだが、それもいつまでもつか。早いトコ宇宙にいる兄ちゃんの仲間が敵の本部をどうにか止めてくれねーと、明日を掠めとるにも限界ってもんがあらァな」
(登)「…限界ねェ。アンタの口からそんな弱音が聞けるとは思わなかった。長生きはするもんだねェ」
(泥)「弱音に聞こえたかィ。オメーも随分耳が遠くなったな」
(登)「弱音ってものそう悪いモンじゃないさ、次郎長。弱音 が吐けるのは、頼る者がいる奴だけなんだから」
(泥)「………」
(登)「アンタも大人になったねェ、次郎長」
(泥)「ケッ、老いぼれと言われた方が百倍マシでィ」
とそこへ…
(西)「おやおや、顏を合わせるのもまれ…会えばいがみ合ってばかりいたかぶき町四天王が、今夜は随分楽しそうじゃないかい」
頭に包帯を巻いた西郷がひょっこりと現れ、たき火の一角に腰かけると、二人は黙って西郷の顔を見た。
(西)「アラ? ゴメン、ひょっとしてお邪魔だった?」
(登)「いーや、西郷。アンタとも一杯飲みたいと思ってた所さ。なんせアンタら、地球が滅亡寸前にならないとガン首揃えない様なひねくれ者だろ? こんな機会はもうないだろうからねェ。そういう意味じゃあたしゃこの状況に、少し感謝してんだよ」
そうして火にかけていた鍋の中の、湯気が立つ三つの徳利のうち、一つを手に取る。
(登)「こんな時じゃなきゃ見えないモンが、こんな時じゃなきゃ感じられないモンが随分あった。おかげで以前より、ちったァ人間って奴が好きになれた気がするよ。こんな夜なら、今生最後の夜になったとしても、そう悪かないかもってね」
そうして、三人で息を合わせたように、おちょこに注いだ酒を飲み干し、こんな戦場の中でも思わず笑みをこぼしていた。
(泥)「………いんや、まだ飲み足りねーや」
(西)「なんせ、アンタが拾った、宇宙に喧嘩売るようなバカ息子と、そのバカ息子が拾った大事な愛娘の晴れ姿、まだ見れてないじゃないかい」
(登)「……それもそうさね。全部終わったら、アイツらが払ってきたなけなしの家賃と、くだらない思い出で、ウェディングドレスでも白無垢でも、バカデカい会場でも、手配してやろうかねェ」
(泥)「そりゃあ、今度は江戸中の男が銀髪の兄 ちゃんに戦争を仕掛けてくる日もそう遠くはねーな」
(登)「違いないよ。こんな所にまでほいほいついてきちまうんだ。あのバカには勿体ない程、いい女なんだからねェ、あの娘は」
完全に日が落ち、いつもなら煌々とした明かりが灯るかぶき町は、電気が通らず、暗い中で各々に火を焚いたり、ろうそくの明かりを灯したりして明るさを保っていた。
そして、焚き火の囲む二つの影も、そこにはあった。
(登)「まさか夜のかぶき町がネオンじゃなく、月明かりと焚き火に照らされる日が来るとはねェ」
(泥)「年中やかましい街だ。たまにゃこんな夜も悪かねーだろ」
(登)「それでも夜を迎えられただけマシだってかい」
(泥)「ああ。次は朝日に照らされた街が拝めりゃ、上出来でィ」
(登)「やれやれ、明日を迎えるのがこんなに大仕事だったとはねェ。以前は黙ってても勝手に朝日がやってきたが、今じゃ胸ぐら掴んで恫喝しないと暖簾もくぐりゃしないってんだから。アイツらはよくやったよ。それでも明日を迎えるにゃ足りないかィ?」
(泥)「こっちが足りねェんじゃねェ。敵があり余ってんのさ。撤退にこそ持ち込んだが、俺達ゃ敵に勝ったワケじゃねェ。一時的に負けたと錯覚させただけだ。精鋭を破り、少しは兵隊を削ったが、全体の兵力から見ればヒビの入った程度だ。一方こちらは大軍を相手どって消耗しきってる。散り散りに敗走した敵が軍を立て直し、再び攻めてくればひとたまりもねーや。幕軍が追撃をかけ敵の立て直しを妨害しているようだが、それもいつまでもつか。早いトコ宇宙にいる兄ちゃんの仲間が敵の本部をどうにか止めてくれねーと、明日を掠めとるにも限界ってもんがあらァな」
(登)「…限界ねェ。アンタの口からそんな弱音が聞けるとは思わなかった。長生きはするもんだねェ」
(泥)「弱音に聞こえたかィ。オメーも随分耳が遠くなったな」
(登)「弱音ってものそう悪いモンじゃないさ、次郎長。
(泥)「………」
(登)「アンタも大人になったねェ、次郎長」
(泥)「ケッ、老いぼれと言われた方が百倍マシでィ」
とそこへ…
(西)「おやおや、顏を合わせるのもまれ…会えばいがみ合ってばかりいたかぶき町四天王が、今夜は随分楽しそうじゃないかい」
頭に包帯を巻いた西郷がひょっこりと現れ、たき火の一角に腰かけると、二人は黙って西郷の顔を見た。
(西)「アラ? ゴメン、ひょっとしてお邪魔だった?」
(登)「いーや、西郷。アンタとも一杯飲みたいと思ってた所さ。なんせアンタら、地球が滅亡寸前にならないとガン首揃えない様なひねくれ者だろ? こんな機会はもうないだろうからねェ。そういう意味じゃあたしゃこの状況に、少し感謝してんだよ」
そうして火にかけていた鍋の中の、湯気が立つ三つの徳利のうち、一つを手に取る。
(登)「こんな時じゃなきゃ見えないモンが、こんな時じゃなきゃ感じられないモンが随分あった。おかげで以前より、ちったァ人間って奴が好きになれた気がするよ。こんな夜なら、今生最後の夜になったとしても、そう悪かないかもってね」
そうして、三人で息を合わせたように、おちょこに注いだ酒を飲み干し、こんな戦場の中でも思わず笑みをこぼしていた。
(泥)「………いんや、まだ飲み足りねーや」
(西)「なんせ、アンタが拾った、宇宙に喧嘩売るようなバカ息子と、そのバカ息子が拾った大事な愛娘の晴れ姿、まだ見れてないじゃないかい」
(登)「……それもそうさね。全部終わったら、アイツらが払ってきたなけなしの家賃と、くだらない思い出で、ウェディングドレスでも白無垢でも、バカデカい会場でも、手配してやろうかねェ」
(泥)「そりゃあ、今度は江戸中の男が銀髪の
(登)「違いないよ。こんな所にまでほいほいついてきちまうんだ。あのバカには勿体ない程、いい女なんだからねェ、あの娘は」
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