第二百五話(洛陽決戦篇)
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~no side~
夜兎の母星『徨安』は、大戦の折惑星連合の総攻撃を受け、多くの夜兎達と共に滅んだ星だった。
破壊し尽くされた大地からはアルタナが噴出し、枯れた星は人ではなくアルタナの影響により異常変異した生物達の巣となり果てた。
中でも徨安を"死の星"としてたらしめていたのは、"徨安のヌシ"と呼ばれた惑星寄生種、オロチ。
誰もが見捨て、数百年近づこうとしなかったその死の星に、星海坊主は罰ゲームとして、女を口説きに行く事となったのだ。
だが、遥か昔に滅び、人などいるハズもないその死の星に…オロチの死骸の上に、傘を持った女は立っていたのだ。
フードの下のオレンジ色の髪に、どこか冷めたような目をした女…その姿を見て、星海坊主のナニも勃っていた。
だが星海坊主が声をかけると、女は身を翻して去ろうとする。
(星)「オイ、待て!!」
すると女は立ち止まり…今初めて、その口を開いた。
(?)「この星は死んでなんかいないさ。土は枯れ、水は腐り、人は住めなくなったが、枯れた土を食(は)み、腐った水を飲み、生物(やつら)生きている。私は生きている。星に生きる無数の生物のうちの一つが滅んだだけの話だ。お前達の基準だけで勝手に星を計らん事だ。帰るがいい。侵入者のためにまた星から一つ…生命(いのち)を消したくはない。奴等を鎮めねば」
その女の目の前には…地面の中から長い首を伸ばすオロチが何十匹と立ち塞がっていたのだ。
そして星海坊主はこの時知った。"徨安のヌシ"とはオロチではなく…この女の方を指していたのだと。
星海坊主は、女と同じように傘一本でオロチを鎮め、薙ぎ払いながらオロチの上を駆け抜ける女を追いかける。
同時に、星海坊主はあの女に関われば死ぬかもしれない…そんな危険を本能で感じていた。
しかしそれとは逆に…
(星)「あ、あのォ…お、お嬢さん。よろしかったらこんなオロチより、オレとオマタノオロチを退治しに行きませんか?」
頬を赤らめてそう告げた星海坊主に女は黙って傘の先を向け…
ドォォォォォォォォォン!!
と爆発を起こし、白目を剥きながら地面に落ちていく。
そう…星海坊主の本能はこの女しかいないと…そうも告げていたのだ。
それから女は三日三晩、オロチを鎮めるため戦い続けた。
そして星海坊主も三日三晩、自身のオロチを鎮めるために女を口説き続けた。…が、ふぐり蹴とばされ傘で殴られ、どれも散々に終わっていた。
一目惚れ…というにはあまりに野蛮で原始的な本能であり、子供の頃に引き戻されたように感じていた。
が、そんな事は気にせず「お茶でもどうですか?」と声をかけても、女は見向きどころか一瞥すらしなかった。
そして女が59本目のオロチを倒し、オロチが引き始めた頃…星海坊主も最後のオロチ…自身のオマタノオロチを握り潰し、ねじ伏せた。
本能ではなく、自分の言葉で伝えたい事があったからだ。
背中合わせになっており…女が星海坊主の方を見ると、星海坊主は股間を掴みながらも何かを決心したように目を開いた。
(星)「俺の名は神晃。アンタの名は次来た時にでも聞こう。徨安のヌシが許してくれたらの話だが」
(?)「…そんな事を言うために、ここまで付き合ったのか」
(星)「他人のウチに来たら、まず戸を叩き名乗るのが礼儀だった。騒がせて悪かったな。アンタのオロチ(かぞく)にも謝っといてくれ、ヌシ殿」
(?)「……他人のウチではないよ。夜兎(おまえたち)の故郷だ。帰りたければ勝手に帰ればいい。最も私の知る限り、戸を叩くどころかこんな所に里帰りするようなもの好きはお前一人だったが」
続けて女はオロチは星海坊主を拒んだのではなく、興奮してじゃれ合っていただけだという。皆に忘れ去られたこの星を覚えている者がいた事が嬉しかったのかもしれぬ、と。
そして女は…最後にこう言った。
(?)「それから、私は徨安のヌシじゃない。江華(こうか)だ」
……その後、少しだけ笑顔を見せた。
・
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それから星海坊主は定期的に里帰り…徨安を訪れるようになったが、いつからかオロチは襲ってこなくなった。
江華の居場所は、廃墟の一室であり、星海坊主は簡素な造りのその部屋をいつも訪れていた。
そしてこの日…星海坊主は江華に尋ねた。腐った土と水しかないこの星に、どうして住んでいるのか、と。
すると江華はキセルの煙を吐いて、こう答えた。
(江)「お前達と同じだよ。お前達はここで生きられなくなったからこの星を捨てたのだろう? 私はここでしか生きられない。だからここにいるのさ。大戦で生き残った僅かな夜兎は、他の星へ散り散りに移り住んだ。だけど、故郷(ふるさと)を捨てられず星と共に死ぬ道を選んだ連中もいたのさ。毒にまみれた星で毒を食(は)み生きたその多くが命短くして死んでいったが、だが中には苛酷な環境に適応する者もいた。私はそんな奇特な一族の末裔…最後の一人さ。その気になればお前のその臭い長靴だって食べて生きられる。死んだ方がマシだがね」
(星)「家族も知り合いもいねェなら、こんな所で一人…長靴食ってる理由もねーだろ」
(江)「だがここを離れる理由もないだろう」
(星)「どんな所だってここに比べりゃ天国だ。それにお前…寂しくねーのか?」
ここで今日初めて…江華が窓の外から星海坊主の方を見た。
(江)「寂しい? そいつは思いもよらなかったな。そんなものがここを離れる理由になりえるのか。だったとしてもそんな感情、どんな時に感じるものなのかすらもう随分前に忘れてしまったよ」
そして江華は、星一つを独り占めし、好き勝手出来る今の生活をそれなりに気に入っていると言う。
楽しみだってないワケではなく、星中の本を読みあさったり、人目を気にせず大声で歌ったり、たまにくる珍客をからかったり…そんな事を言いながら、江華は薄く笑みを浮かべた。
・
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そんな彼女に、星海坊主は訪れた事のある色んな星の話をした。
いつも煙をくゆらせて退屈そうにしているように見えるが、そのくせその場から離れずにじっと耳を傾けていた。
だがある時、江華は星海坊主の話を遮り、言った。
(江)「神晃、もうその話はいい。もう飽きた、話は。この目で見てみたい、他の星(せかい)が。遠くからでもいいんだ。連れていってくれないか?」
そんな江華の希望通り…星海坊主は江華を宇宙船に乗せ、宇宙(そら)からの惑星を見せた。
江華はいつものように退屈そうな顔だったが、その場から身じろきもせず、キセルをふかしながらただじっと窓の外を見つめていた。
そして目の前に現れたのは…七色を帯びた小さな惑星。
(星)「ありゃパルティシオン星っていうんだ。一年中音が鳴りやまない星でな…あそこの王様もすごくいい人だったし、女王様も歳が分からねェくらい美人だった。そういや女王様とお前の名前似てたな……確か音華(おとか)と言ったか」
(江)「なんだか…楽しそうだな」
(星)「あそこの星で思いっきり歌う方が絶対気持ちいいぞ?」
そしてまた、しばらいく行くと、現れたのは青く輝く丸い星。
(星)「地球って知ってるか? まだ開拓すべき場所もある辺境の星らしいが、清い水、豊かな土に恵まれた…それは美しい星らしい。人の住む星は元来ああいうもんだ」
(江)「地球…」
そう呟いただけの江華に、星海坊主は頬を赤らめ…
(星)「江華、俺と一緒に…行ってみねーか? 地球へ。…いや、地球だけじゃねェ。行きたい所があるなら、この星海坊主様があんな星からお前を連れ出してどこへだって……連れて行ってやる。だから俺の…俺の……」
握ったり開いていたりしていた手を、星海坊主は江華の方に伸ばし、そして目を充血させ…
(星)「お、俺の…あ、相棒にならねーか!? そ、そう、ビジネスパートナー!俺とお前が手を組めば、最強のエイリアンハンターになれるぜ!?」
……などと言いながら、伸ばしかけた手を自身の後頭部に移動させてしまう。
(江)「相棒…か。悪く…ないな。もしそんな事が出来るなら…きっと、楽しいだろうな」
そう言って江華は、微笑んでいた。
そしてその日…江華を徨安の地に下ろした時、いつもは見送りをしないハズの江華は、その日は姿が見えなくなるまで見つめていたのだった。
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そして後日、いつものように徨安を訪れ、江華の部屋を訪れる…が、そこに彼女の姿はなく、星海坊主は慌ててその場から駆け出す。
そこで星海坊主は気づいた。江華がいつも見送らなかったワケも、あの日だけ見送ったワケも。
結局12日間…飲まず食わずで捜し回るが、見つかる事なく…ついに力つきて倒れてしまう。
だがふと顔をあげると…オロチがとある方向を向いて立っていたのだった。
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傘を支えにオロチが向いていた方向…森の中を進んで行けば、瓦礫の上に江華はキセルを片手に座り込んでいた。
(江)「やれやれ、困ったものだな。いつの間にオロチをここまで手懐けた。もう会うつもりはなかったのに…なんでこんな所まで来た。言ったじゃないか。私はこの星と死ぬ一族だって。一人でずっと生きてきたんだ。一人で生きていかなきゃいけないんだ。なのに…なんでこんな感情、思い出させるんだ」
傘を手放し、そっと自身を抱き締める星海坊主に、江華は震えた声で問いかけた。
(星)「すまねェ、江華。でも俺もお前とおんなじだ。どんなに賑やかな星にいても、どんなに人ゴミにまみれていても、お前がいないと…寂しい。俺はお前を一人で死なせたくねェ。お前がここに残るというのなら、俺もここに残ろう。お前がどこかへ行きたいというのなら、俺もどこへだって行こう。だから俺と死ね、江華」
そして星を去る前…一族の裏切り者だと思ってしまう江華に対し、現れたオロチが声をあげながら江華と見つめ合う。まるでオロチが今までありがとうとでも言っているように。
そしてオロチは、宇宙船で去っていく江華をいつまでも見送っていた。
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そして洛陽で始まった、新たな生活。
幼き神威を背負いながら、包丁やらおたまを投げ飛ばす江華から逃げ回る。
そう…星海坊主が出会った最強の生物とは、宇宙のどこにでもいる…"嫁"であった。
しかし星海坊主にとって、家庭はもう一つの宇宙でもあった。
だがこの時、星海坊主はまだ、ありふれた幸せを築くのがどれだけ尊い事か、何も知らなかった。
全てを知ったのは、江華が生まれたての神楽を抱いていた時…江華の口から垂れた"赤"が布団の上に染み込んでいく…血を見た時であった。
「私はここでしか生きられない」…その言葉の意味でさえも。
夜兎の母星『徨安』は、大戦の折惑星連合の総攻撃を受け、多くの夜兎達と共に滅んだ星だった。
破壊し尽くされた大地からはアルタナが噴出し、枯れた星は人ではなくアルタナの影響により異常変異した生物達の巣となり果てた。
中でも徨安を"死の星"としてたらしめていたのは、"徨安のヌシ"と呼ばれた惑星寄生種、オロチ。
誰もが見捨て、数百年近づこうとしなかったその死の星に、星海坊主は罰ゲームとして、女を口説きに行く事となったのだ。
だが、遥か昔に滅び、人などいるハズもないその死の星に…オロチの死骸の上に、傘を持った女は立っていたのだ。
フードの下のオレンジ色の髪に、どこか冷めたような目をした女…その姿を見て、星海坊主のナニも勃っていた。
だが星海坊主が声をかけると、女は身を翻して去ろうとする。
(星)「オイ、待て!!」
すると女は立ち止まり…今初めて、その口を開いた。
(?)「この星は死んでなんかいないさ。土は枯れ、水は腐り、人は住めなくなったが、枯れた土を食(は)み、腐った水を飲み、生物(やつら)生きている。私は生きている。星に生きる無数の生物のうちの一つが滅んだだけの話だ。お前達の基準だけで勝手に星を計らん事だ。帰るがいい。侵入者のためにまた星から一つ…生命(いのち)を消したくはない。奴等を鎮めねば」
その女の目の前には…地面の中から長い首を伸ばすオロチが何十匹と立ち塞がっていたのだ。
そして星海坊主はこの時知った。"徨安のヌシ"とはオロチではなく…この女の方を指していたのだと。
星海坊主は、女と同じように傘一本でオロチを鎮め、薙ぎ払いながらオロチの上を駆け抜ける女を追いかける。
同時に、星海坊主はあの女に関われば死ぬかもしれない…そんな危険を本能で感じていた。
しかしそれとは逆に…
(星)「あ、あのォ…お、お嬢さん。よろしかったらこんなオロチより、オレとオマタノオロチを退治しに行きませんか?」
頬を赤らめてそう告げた星海坊主に女は黙って傘の先を向け…
ドォォォォォォォォォン!!
と爆発を起こし、白目を剥きながら地面に落ちていく。
そう…星海坊主の本能はこの女しかいないと…そうも告げていたのだ。
それから女は三日三晩、オロチを鎮めるため戦い続けた。
そして星海坊主も三日三晩、自身のオロチを鎮めるために女を口説き続けた。…が、ふぐり蹴とばされ傘で殴られ、どれも散々に終わっていた。
一目惚れ…というにはあまりに野蛮で原始的な本能であり、子供の頃に引き戻されたように感じていた。
が、そんな事は気にせず「お茶でもどうですか?」と声をかけても、女は見向きどころか一瞥すらしなかった。
そして女が59本目のオロチを倒し、オロチが引き始めた頃…星海坊主も最後のオロチ…自身のオマタノオロチを握り潰し、ねじ伏せた。
本能ではなく、自分の言葉で伝えたい事があったからだ。
背中合わせになっており…女が星海坊主の方を見ると、星海坊主は股間を掴みながらも何かを決心したように目を開いた。
(星)「俺の名は神晃。アンタの名は次来た時にでも聞こう。徨安のヌシが許してくれたらの話だが」
(?)「…そんな事を言うために、ここまで付き合ったのか」
(星)「他人のウチに来たら、まず戸を叩き名乗るのが礼儀だった。騒がせて悪かったな。アンタのオロチ(かぞく)にも謝っといてくれ、ヌシ殿」
(?)「……他人のウチではないよ。夜兎(おまえたち)の故郷だ。帰りたければ勝手に帰ればいい。最も私の知る限り、戸を叩くどころかこんな所に里帰りするようなもの好きはお前一人だったが」
続けて女はオロチは星海坊主を拒んだのではなく、興奮してじゃれ合っていただけだという。皆に忘れ去られたこの星を覚えている者がいた事が嬉しかったのかもしれぬ、と。
そして女は…最後にこう言った。
(?)「それから、私は徨安のヌシじゃない。江華(こうか)だ」
……その後、少しだけ笑顔を見せた。
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それから星海坊主は定期的に里帰り…徨安を訪れるようになったが、いつからかオロチは襲ってこなくなった。
江華の居場所は、廃墟の一室であり、星海坊主は簡素な造りのその部屋をいつも訪れていた。
そしてこの日…星海坊主は江華に尋ねた。腐った土と水しかないこの星に、どうして住んでいるのか、と。
すると江華はキセルの煙を吐いて、こう答えた。
(江)「お前達と同じだよ。お前達はここで生きられなくなったからこの星を捨てたのだろう? 私はここでしか生きられない。だからここにいるのさ。大戦で生き残った僅かな夜兎は、他の星へ散り散りに移り住んだ。だけど、故郷(ふるさと)を捨てられず星と共に死ぬ道を選んだ連中もいたのさ。毒にまみれた星で毒を食(は)み生きたその多くが命短くして死んでいったが、だが中には苛酷な環境に適応する者もいた。私はそんな奇特な一族の末裔…最後の一人さ。その気になればお前のその臭い長靴だって食べて生きられる。死んだ方がマシだがね」
(星)「家族も知り合いもいねェなら、こんな所で一人…長靴食ってる理由もねーだろ」
(江)「だがここを離れる理由もないだろう」
(星)「どんな所だってここに比べりゃ天国だ。それにお前…寂しくねーのか?」
ここで今日初めて…江華が窓の外から星海坊主の方を見た。
(江)「寂しい? そいつは思いもよらなかったな。そんなものがここを離れる理由になりえるのか。だったとしてもそんな感情、どんな時に感じるものなのかすらもう随分前に忘れてしまったよ」
そして江華は、星一つを独り占めし、好き勝手出来る今の生活をそれなりに気に入っていると言う。
楽しみだってないワケではなく、星中の本を読みあさったり、人目を気にせず大声で歌ったり、たまにくる珍客をからかったり…そんな事を言いながら、江華は薄く笑みを浮かべた。
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そんな彼女に、星海坊主は訪れた事のある色んな星の話をした。
いつも煙をくゆらせて退屈そうにしているように見えるが、そのくせその場から離れずにじっと耳を傾けていた。
だがある時、江華は星海坊主の話を遮り、言った。
(江)「神晃、もうその話はいい。もう飽きた、話は。この目で見てみたい、他の星(せかい)が。遠くからでもいいんだ。連れていってくれないか?」
そんな江華の希望通り…星海坊主は江華を宇宙船に乗せ、宇宙(そら)からの惑星を見せた。
江華はいつものように退屈そうな顔だったが、その場から身じろきもせず、キセルをふかしながらただじっと窓の外を見つめていた。
そして目の前に現れたのは…七色を帯びた小さな惑星。
(星)「ありゃパルティシオン星っていうんだ。一年中音が鳴りやまない星でな…あそこの王様もすごくいい人だったし、女王様も歳が分からねェくらい美人だった。そういや女王様とお前の名前似てたな……確か音華(おとか)と言ったか」
(江)「なんだか…楽しそうだな」
(星)「あそこの星で思いっきり歌う方が絶対気持ちいいぞ?」
そしてまた、しばらいく行くと、現れたのは青く輝く丸い星。
(星)「地球って知ってるか? まだ開拓すべき場所もある辺境の星らしいが、清い水、豊かな土に恵まれた…それは美しい星らしい。人の住む星は元来ああいうもんだ」
(江)「地球…」
そう呟いただけの江華に、星海坊主は頬を赤らめ…
(星)「江華、俺と一緒に…行ってみねーか? 地球へ。…いや、地球だけじゃねェ。行きたい所があるなら、この星海坊主様があんな星からお前を連れ出してどこへだって……連れて行ってやる。だから俺の…俺の……」
握ったり開いていたりしていた手を、星海坊主は江華の方に伸ばし、そして目を充血させ…
(星)「お、俺の…あ、相棒にならねーか!? そ、そう、ビジネスパートナー!俺とお前が手を組めば、最強のエイリアンハンターになれるぜ!?」
……などと言いながら、伸ばしかけた手を自身の後頭部に移動させてしまう。
(江)「相棒…か。悪く…ないな。もしそんな事が出来るなら…きっと、楽しいだろうな」
そう言って江華は、微笑んでいた。
そしてその日…江華を徨安の地に下ろした時、いつもは見送りをしないハズの江華は、その日は姿が見えなくなるまで見つめていたのだった。
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そして後日、いつものように徨安を訪れ、江華の部屋を訪れる…が、そこに彼女の姿はなく、星海坊主は慌ててその場から駆け出す。
そこで星海坊主は気づいた。江華がいつも見送らなかったワケも、あの日だけ見送ったワケも。
結局12日間…飲まず食わずで捜し回るが、見つかる事なく…ついに力つきて倒れてしまう。
だがふと顔をあげると…オロチがとある方向を向いて立っていたのだった。
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傘を支えにオロチが向いていた方向…森の中を進んで行けば、瓦礫の上に江華はキセルを片手に座り込んでいた。
(江)「やれやれ、困ったものだな。いつの間にオロチをここまで手懐けた。もう会うつもりはなかったのに…なんでこんな所まで来た。言ったじゃないか。私はこの星と死ぬ一族だって。一人でずっと生きてきたんだ。一人で生きていかなきゃいけないんだ。なのに…なんでこんな感情、思い出させるんだ」
傘を手放し、そっと自身を抱き締める星海坊主に、江華は震えた声で問いかけた。
(星)「すまねェ、江華。でも俺もお前とおんなじだ。どんなに賑やかな星にいても、どんなに人ゴミにまみれていても、お前がいないと…寂しい。俺はお前を一人で死なせたくねェ。お前がここに残るというのなら、俺もここに残ろう。お前がどこかへ行きたいというのなら、俺もどこへだって行こう。だから俺と死ね、江華」
そして星を去る前…一族の裏切り者だと思ってしまう江華に対し、現れたオロチが声をあげながら江華と見つめ合う。まるでオロチが今までありがとうとでも言っているように。
そしてオロチは、宇宙船で去っていく江華をいつまでも見送っていた。
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幼き神威を背負いながら、包丁やらおたまを投げ飛ばす江華から逃げ回る。
そう…星海坊主が出会った最強の生物とは、宇宙のどこにでもいる…"嫁"であった。
しかし星海坊主にとって、家庭はもう一つの宇宙でもあった。
だがこの時、星海坊主はまだ、ありふれた幸せを築くのがどれだけ尊い事か、何も知らなかった。
全てを知ったのは、江華が生まれたての神楽を抱いていた時…江華の口から垂れた"赤"が布団の上に染み込んでいく…血を見た時であった。
「私はここでしか生きられない」…その言葉の意味でさえも。
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