第二十四話※R-18表現アリ
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家計は毎日火の車…そんな私達の前にあり得ない光景が広がっていた。
現在、私達の目の前に並ぶのは、パフェや海苔の佃煮ご飯やステーキ、ケーキセットまで、なんとも豪勢な料理が並んでいて。
そして机を挟んだ向かいには桂さんが座っている。
そう……現在、私達はファミレスに来ていた。それも、珍しく桂さんからの呼び出しで。
しかも私達が到着した頃には既にこの豪勢な料理が机の上に並んでいたものだから、いつもなら目を輝かせて一目散に食らい始めるみんなも、今日ばかりは警戒して未だ料理に手をつけずにいる。
だけど普段は満たされない食欲には抗えないみたいで、みんなお腹を鳴らしながらも料理を前にして虚ろな目をしているけれど。
(桂)「どうした、食べんのか? 金の事なら気にするな。今日は俺が持つ」
(銀)「手ェつけんじゃねーぞ、てめーら。このツラは何か企んでるツラだ。またロクでもねェ話持ちかけに来たツラだよ、こりゃあ」
(桂)「邪推はよすがいい」
(新)「幾ら腹減ってたってね、僕ら食べ物で釣られる程安くはないですよ。甘かったですね、桂さん」
だがしかし。
(銀)「ホントに甘いな! 特にこのチョコ蕩けそうだよ!」
(神)「すんません、おかわりいいっスか!?」
自分から言っといて結局銀さんはパフェを口にしてたし、神楽ちゃんなんかは既にお茶碗を空にしてしまっていた。
(あ)「結局食べちゃうんですか!」
・
・
・
・
結局桂さんの本題はなんだったのかと言えば。
(桂)「俺が迂闊だった。エリザベスは常に俺の側にいた。いつ役人に目をつけられてもおかしくはなかったのだ。しばらく見かけないと思っていたらあのザマさ。頼む銀時、エリザベスを救い出すのを手伝ってくれ」
どうやらエリザベスが奉行所の人達に捕らわれてしまったらしく、その救出を依頼したいという旨の内容だったようで。
そんな話をされた後、料理に手をつけてしまったからには何もせず帰れるワケがなく、結局現在地はエリザベスが捕らわれているという奉行所の前。
銀さんと桂さんは木の上に登って、奉行所の方を双眼鏡で覗いて様子を伺っている。
(銀)「で、一体誰の仕業だ」
(桂)「遠山珍太郎たる極悪奉行。私欲のために、金さえ積めば汚職から何からやってのける悪党。それに近頃の攘夷浪士に対する幕府の姿勢は相当に厳しいものがある。このままでは確実にエリザベスの首は飛ぶ」
(銀)「そーかい。そいつはよかったな。コレでどっから首でどっから顔かハッキリするんじゃねーか?」
(桂)「甘味処一年フリーパス券でどうだ?」
(銀)「そんなモンで奉行所乗り込んでたら首が幾つあっても足りねーよ」
(あ)「そもそもそんな券存在するんですか…?」
(銀)「大体てめーらの仲間はどうした? こういう時こそ一致団結して助けにいきゃいいだろーが」
(桂)「捕まった同志は見捨てるのが我々の暗黙の掟。ここは俺が動くしかない。それに連中は国の明日を狙う未来の星…その命、無下には扱えん。その点、貴様らは明日もクソもないから適役だ」
(銀)「よーし、帰るぞてめーら」
銀さんが死んだ目をしながら木から降りてきて、さっさとその場を後にしようとする。
(桂)「待たれーい!こんな輩、放っておく事がお前に出来るか? 銀と…」
だが既に、私達はその場から姿を消しており、木の枝になりきっている桂さんを子供が不思議そうに指を指していた。
・
・
・
・
その後、後を追ってきた桂さんに泣きつきに合い、江戸の夜明けだのなんだのと語る桂さんに痺れを切らした銀さんに連れられてやってきたのは、まさかのくノ一カフェ。
どうやらそこに勤める人で、今回の件を解決出来そうな人物に心当たりがあるとの事らしいが。
(猿)「え、奉行所に忍び込むでござる?」
その心当たりの人物とは、ケーキとお茶が乗った盆を片手にお仕事中の、あやめさんであった。
(銀)「いやァコイツがね、どーしても行くって聞かねーんだ。で、お前って忍者じゃん? そーいうの得意そうじゃん? 頼むわ」
(猿)「頼むって、何をでござるか?」
(銀)「コイツを忍者にしてやってくれ」
(猿)「忍者をナメているでござるか?」
(あ)「え、そういう事なの? 忍者になったら解決するような話なの?」
てっきりあやめさんに忍びこんでもらおうとかっていう話を持ち掛けるものだと思っていたのだけれど。
(銀)「とりあえず語尾に『ござる』をつけるらしいぜ」
(猿)「いや、これはウチの店長が…」
(桂)「ござるじゃない、桂だ」
(猿)「そんな一朝一夕で忍者になりたいって言われてもね…」
私達の会話を聞いていたオカマの店員さんも、後ろから声を張り上げる。
「あたいらはね、血の滲むような努力をしてくノ一になったのよ! ナメんなよでござる!」
(猿)「店長、あなた男でしょ?」
(桂)「ならばせめて一緒に来てもらえないだろうか、さっさん」
(猿)「『さっちゃん』でいいです、ちゃんで」
(桂)「一刻の猶予もないのだ、さっくん」
(猿)「『さっちゃん』でいいですって言ってるだろ、コノヤロー」
(あ)「あはは…」
するとあやめさんが懐から携帯を取り出す。
(猿)「悪いけど私、幕府関係者とはいろいろ繋がりがあるから下手な事はできないわ。今日だってホラ、幕府関係者から仕事の依頼が…」
あやめさんが携帯の画面をこちらに見せようとすると、目の前でその携帯が一瞬にして粉砕された。
バラバラと破片が無機質な音を立てながら床に落ちていく中、いつの間にか銀さんは木刀を手にしていて。
(銀)「てめーナメてんのか。仕事中に客の前で携帯いじくってんじゃねーよ!」
しかしあやめさんはそれに怒るどころか。
(猿)「……フン、厳しいわね」
と、なぜか頬を赤らめて、どこか嬉しそうな表情を浮かべていて。
(新)「なんで赤くなるの? ねェ、なんで赤くなるの!?」
だけどそんな時。
ズキッ…
……と、大分前にも感じたことのある胸の痛みが襲ってきて。
心臓を針で刺されるような、自分では制御できない痛みが。
(あ)「っ……」
(銀)「音莉、どうかしたか」
銀さんに声をかけられ、不審がられないように心臓をおさえていた手をぱっと離して、どうにかして笑顔を作り、「な、なんでもないと」と首を横に振る。
(あ)「と、というか私達、思いっきりあやめさんの仕事の邪魔してますよね…?」
今のお仕事もだけれど、その…私達、今の一瞬であやめさんの本職を失職させてしまったんじゃないだろうか。
(銀)「まあこれで幕府との繋がりはなくなったし、仕事の邪魔もクソもねーだろ」
(桂)「どうだ、これで協力してくれるか?」
しかし交渉も最終直面というところで。
「オイ、早く茶ァ持ってこい!」
(猿)「御意、今すぐ行くでござる!」
別のお客さんからのクレームが入り、あやめさんがそちらに気を取られてしまう。
(猿)「ごめんなさい、やっぱり私、昼の仕事も忙しいからついて行けないわ。さらば!」
すると流石は本物の忍であるあやめさんは、先程呼ばれた客の席まで一瞬にして飛んでいったかと思えば、座敷の真ん中に置かれている鍋の上に飛び乗った。
しかも。
(猿)「こちらケーキの方、ただいまサービス期間中でござる!」
あやめさんがケーキのサービスどころか、そのケーキをお客さんの顔に叩きつけてしまった。
そんな惨状を見ていた店長が、一言。
「アナタ、もう来なくていいから」
(猿)「え、そんな! てんちょー!」
そう言いながらもあやめさんが胸倉を掴んで揺さぶっているのは、お客さんだ。
(あ)「あ、あやめさん…どうしちゃった……」
だがここではたと気が付いた。
メガネがないと人も分からなくなるほど近眼のあやめさんが、そのメガネをかけていなかったのだ。
(あ)「さ、さっき私達の前ではかけてたのに…」
(銀)「オーイ、こっちこっち」
銀さんの方を見てみると、なんといつの間にか銀さんがあやめさんのメガネを持っていて、これ見よがしにそのメガネをフリフリと振っている。
(銀)「メガネ、忘れてったぜ?」
そのメガネをかけながら、にやりと笑う銀さん。
(あ)「っ………」
だけどそんな姿に…本当に、これだけの事なのに、またさっきのズキッとした痛みがぶり返してきて。
(銀)「ダメだなァ、さっちゃんはホントそそっかしいや」
(桂)「しかしこれで足枷はなくなったな。さて、行くとするか」
ぽかんと口を開けるあやめさんを置いて、銀さんと桂さんはさっさと席を立ってしまう。
(新)「あの、さっちゃんさん、ごめんなさい……」
流石にこれは怒るんじゃないかと思っていたけれど、あやめさんはまたもや頬を赤く染めていて。
(猿)「ああ、もっといじめてほしい!」
(新)「はあああああ!? 気持ち悪っ!」
(あ)「っ……」
なんだかそんな二人を見ているのがつらくなって、私もそそくさと靴を履いて、銀さんの後ろ姿を追いかけては、思わず服の裾をギュッと握る。
(銀)「どうしたよ音莉ちゃんってば、さっきから浮かない顔して」
(あ)「ち、違うんです。これは…なんにもなくて……」
この痛みを一体なんといえばいいのだろうか。
(あ)「(でも、もしかしたら……このままじゃ、銀さんがあやめさんの方に行っちゃうって。そう思ったら怖くなっちゃって……)」
(銀)「……さっきから嫉妬してんのバレバレだっつーの」
(あ)「嫉妬……ですか?」
(銀)「自分で気づいてねーの? お前の大好きな銀さんがどっか行っちゃうって、不安なのか全部顔に出てるよ」
「どこにも行かねーから安心しやがれ」と言いながら頭を撫でてくれる大きな手に、"嫉妬"と名前をつけられたその痛みは不思議とすっと引いていく。
(銀)「あ、そうだ。コイツは意外と音莉に似合ったりして、まあ俺にァメガネっ娘属性はねーけど」
(あ)「えっ?」
私が顔を上げると、銀さんがかけていたそのメガネが、私にかけられて、途端視界がぐにゃりと歪んだ。
(あ)「わわ、ちょっと!」
(銀)「ほォ、今まで気に留めた事なんかなかったが、メガネってのもなかなかいいモンだな…」
(桂)「銀時、奉行所に乗り込む前にお前が職質されそうな顔になってるぞ」
(あ)「ま、真っすぐ歩けな…うわっ!」
(銀)「おっと」
足がフラフラになってしまって転びそうになった私を、銀さんが後ろから抱きしめる形で引き寄せてくれて、なんとかケガは免れた。
けれど。
(銀)「オイオイ、大丈夫か」
(あ)「だ、大丈夫じゃない、れす……」
ケガは免れたけど、今度は心臓がバクバクと煩く鳴って、顔が赤くなるのが自分でも分かって。
(銀)「なーにこんなんで照れちゃってんの、ウブで可愛い音莉ちゃん」
(あ)「だ、だって…」
(桂)「……貴様ら、見せつけてくれるではないか」
楽しそうに揶揄う銀さんといつまでも恥ずかしがってしまう私を、桂さんは愉快そうな表情で見ていたとかなんとか。
現在、私達の目の前に並ぶのは、パフェや海苔の佃煮ご飯やステーキ、ケーキセットまで、なんとも豪勢な料理が並んでいて。
そして机を挟んだ向かいには桂さんが座っている。
そう……現在、私達はファミレスに来ていた。それも、珍しく桂さんからの呼び出しで。
しかも私達が到着した頃には既にこの豪勢な料理が机の上に並んでいたものだから、いつもなら目を輝かせて一目散に食らい始めるみんなも、今日ばかりは警戒して未だ料理に手をつけずにいる。
だけど普段は満たされない食欲には抗えないみたいで、みんなお腹を鳴らしながらも料理を前にして虚ろな目をしているけれど。
(桂)「どうした、食べんのか? 金の事なら気にするな。今日は俺が持つ」
(銀)「手ェつけんじゃねーぞ、てめーら。このツラは何か企んでるツラだ。またロクでもねェ話持ちかけに来たツラだよ、こりゃあ」
(桂)「邪推はよすがいい」
(新)「幾ら腹減ってたってね、僕ら食べ物で釣られる程安くはないですよ。甘かったですね、桂さん」
だがしかし。
(銀)「ホントに甘いな! 特にこのチョコ蕩けそうだよ!」
(神)「すんません、おかわりいいっスか!?」
自分から言っといて結局銀さんはパフェを口にしてたし、神楽ちゃんなんかは既にお茶碗を空にしてしまっていた。
(あ)「結局食べちゃうんですか!」
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結局桂さんの本題はなんだったのかと言えば。
(桂)「俺が迂闊だった。エリザベスは常に俺の側にいた。いつ役人に目をつけられてもおかしくはなかったのだ。しばらく見かけないと思っていたらあのザマさ。頼む銀時、エリザベスを救い出すのを手伝ってくれ」
どうやらエリザベスが奉行所の人達に捕らわれてしまったらしく、その救出を依頼したいという旨の内容だったようで。
そんな話をされた後、料理に手をつけてしまったからには何もせず帰れるワケがなく、結局現在地はエリザベスが捕らわれているという奉行所の前。
銀さんと桂さんは木の上に登って、奉行所の方を双眼鏡で覗いて様子を伺っている。
(銀)「で、一体誰の仕業だ」
(桂)「遠山珍太郎たる極悪奉行。私欲のために、金さえ積めば汚職から何からやってのける悪党。それに近頃の攘夷浪士に対する幕府の姿勢は相当に厳しいものがある。このままでは確実にエリザベスの首は飛ぶ」
(銀)「そーかい。そいつはよかったな。コレでどっから首でどっから顔かハッキリするんじゃねーか?」
(桂)「甘味処一年フリーパス券でどうだ?」
(銀)「そんなモンで奉行所乗り込んでたら首が幾つあっても足りねーよ」
(あ)「そもそもそんな券存在するんですか…?」
(銀)「大体てめーらの仲間はどうした? こういう時こそ一致団結して助けにいきゃいいだろーが」
(桂)「捕まった同志は見捨てるのが我々の暗黙の掟。ここは俺が動くしかない。それに連中は国の明日を狙う未来の星…その命、無下には扱えん。その点、貴様らは明日もクソもないから適役だ」
(銀)「よーし、帰るぞてめーら」
銀さんが死んだ目をしながら木から降りてきて、さっさとその場を後にしようとする。
(桂)「待たれーい!こんな輩、放っておく事がお前に出来るか? 銀と…」
だが既に、私達はその場から姿を消しており、木の枝になりきっている桂さんを子供が不思議そうに指を指していた。
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その後、後を追ってきた桂さんに泣きつきに合い、江戸の夜明けだのなんだのと語る桂さんに痺れを切らした銀さんに連れられてやってきたのは、まさかのくノ一カフェ。
どうやらそこに勤める人で、今回の件を解決出来そうな人物に心当たりがあるとの事らしいが。
(猿)「え、奉行所に忍び込むでござる?」
その心当たりの人物とは、ケーキとお茶が乗った盆を片手にお仕事中の、あやめさんであった。
(銀)「いやァコイツがね、どーしても行くって聞かねーんだ。で、お前って忍者じゃん? そーいうの得意そうじゃん? 頼むわ」
(猿)「頼むって、何をでござるか?」
(銀)「コイツを忍者にしてやってくれ」
(猿)「忍者をナメているでござるか?」
(あ)「え、そういう事なの? 忍者になったら解決するような話なの?」
てっきりあやめさんに忍びこんでもらおうとかっていう話を持ち掛けるものだと思っていたのだけれど。
(銀)「とりあえず語尾に『ござる』をつけるらしいぜ」
(猿)「いや、これはウチの店長が…」
(桂)「ござるじゃない、桂だ」
(猿)「そんな一朝一夕で忍者になりたいって言われてもね…」
私達の会話を聞いていたオカマの店員さんも、後ろから声を張り上げる。
「あたいらはね、血の滲むような努力をしてくノ一になったのよ! ナメんなよでござる!」
(猿)「店長、あなた男でしょ?」
(桂)「ならばせめて一緒に来てもらえないだろうか、さっさん」
(猿)「『さっちゃん』でいいです、ちゃんで」
(桂)「一刻の猶予もないのだ、さっくん」
(猿)「『さっちゃん』でいいですって言ってるだろ、コノヤロー」
(あ)「あはは…」
するとあやめさんが懐から携帯を取り出す。
(猿)「悪いけど私、幕府関係者とはいろいろ繋がりがあるから下手な事はできないわ。今日だってホラ、幕府関係者から仕事の依頼が…」
あやめさんが携帯の画面をこちらに見せようとすると、目の前でその携帯が一瞬にして粉砕された。
バラバラと破片が無機質な音を立てながら床に落ちていく中、いつの間にか銀さんは木刀を手にしていて。
(銀)「てめーナメてんのか。仕事中に客の前で携帯いじくってんじゃねーよ!」
しかしあやめさんはそれに怒るどころか。
(猿)「……フン、厳しいわね」
と、なぜか頬を赤らめて、どこか嬉しそうな表情を浮かべていて。
(新)「なんで赤くなるの? ねェ、なんで赤くなるの!?」
だけどそんな時。
ズキッ…
……と、大分前にも感じたことのある胸の痛みが襲ってきて。
心臓を針で刺されるような、自分では制御できない痛みが。
(あ)「っ……」
(銀)「音莉、どうかしたか」
銀さんに声をかけられ、不審がられないように心臓をおさえていた手をぱっと離して、どうにかして笑顔を作り、「な、なんでもないと」と首を横に振る。
(あ)「と、というか私達、思いっきりあやめさんの仕事の邪魔してますよね…?」
今のお仕事もだけれど、その…私達、今の一瞬であやめさんの本職を失職させてしまったんじゃないだろうか。
(銀)「まあこれで幕府との繋がりはなくなったし、仕事の邪魔もクソもねーだろ」
(桂)「どうだ、これで協力してくれるか?」
しかし交渉も最終直面というところで。
「オイ、早く茶ァ持ってこい!」
(猿)「御意、今すぐ行くでござる!」
別のお客さんからのクレームが入り、あやめさんがそちらに気を取られてしまう。
(猿)「ごめんなさい、やっぱり私、昼の仕事も忙しいからついて行けないわ。さらば!」
すると流石は本物の忍であるあやめさんは、先程呼ばれた客の席まで一瞬にして飛んでいったかと思えば、座敷の真ん中に置かれている鍋の上に飛び乗った。
しかも。
(猿)「こちらケーキの方、ただいまサービス期間中でござる!」
あやめさんがケーキのサービスどころか、そのケーキをお客さんの顔に叩きつけてしまった。
そんな惨状を見ていた店長が、一言。
「アナタ、もう来なくていいから」
(猿)「え、そんな! てんちょー!」
そう言いながらもあやめさんが胸倉を掴んで揺さぶっているのは、お客さんだ。
(あ)「あ、あやめさん…どうしちゃった……」
だがここではたと気が付いた。
メガネがないと人も分からなくなるほど近眼のあやめさんが、そのメガネをかけていなかったのだ。
(あ)「さ、さっき私達の前ではかけてたのに…」
(銀)「オーイ、こっちこっち」
銀さんの方を見てみると、なんといつの間にか銀さんがあやめさんのメガネを持っていて、これ見よがしにそのメガネをフリフリと振っている。
(銀)「メガネ、忘れてったぜ?」
そのメガネをかけながら、にやりと笑う銀さん。
(あ)「っ………」
だけどそんな姿に…本当に、これだけの事なのに、またさっきのズキッとした痛みがぶり返してきて。
(銀)「ダメだなァ、さっちゃんはホントそそっかしいや」
(桂)「しかしこれで足枷はなくなったな。さて、行くとするか」
ぽかんと口を開けるあやめさんを置いて、銀さんと桂さんはさっさと席を立ってしまう。
(新)「あの、さっちゃんさん、ごめんなさい……」
流石にこれは怒るんじゃないかと思っていたけれど、あやめさんはまたもや頬を赤く染めていて。
(猿)「ああ、もっといじめてほしい!」
(新)「はあああああ!? 気持ち悪っ!」
(あ)「っ……」
なんだかそんな二人を見ているのがつらくなって、私もそそくさと靴を履いて、銀さんの後ろ姿を追いかけては、思わず服の裾をギュッと握る。
(銀)「どうしたよ音莉ちゃんってば、さっきから浮かない顔して」
(あ)「ち、違うんです。これは…なんにもなくて……」
この痛みを一体なんといえばいいのだろうか。
(あ)「(でも、もしかしたら……このままじゃ、銀さんがあやめさんの方に行っちゃうって。そう思ったら怖くなっちゃって……)」
(銀)「……さっきから嫉妬してんのバレバレだっつーの」
(あ)「嫉妬……ですか?」
(銀)「自分で気づいてねーの? お前の大好きな銀さんがどっか行っちゃうって、不安なのか全部顔に出てるよ」
「どこにも行かねーから安心しやがれ」と言いながら頭を撫でてくれる大きな手に、"嫉妬"と名前をつけられたその痛みは不思議とすっと引いていく。
(銀)「あ、そうだ。コイツは意外と音莉に似合ったりして、まあ俺にァメガネっ娘属性はねーけど」
(あ)「えっ?」
私が顔を上げると、銀さんがかけていたそのメガネが、私にかけられて、途端視界がぐにゃりと歪んだ。
(あ)「わわ、ちょっと!」
(銀)「ほォ、今まで気に留めた事なんかなかったが、メガネってのもなかなかいいモンだな…」
(桂)「銀時、奉行所に乗り込む前にお前が職質されそうな顔になってるぞ」
(あ)「ま、真っすぐ歩けな…うわっ!」
(銀)「おっと」
足がフラフラになってしまって転びそうになった私を、銀さんが後ろから抱きしめる形で引き寄せてくれて、なんとかケガは免れた。
けれど。
(銀)「オイオイ、大丈夫か」
(あ)「だ、大丈夫じゃない、れす……」
ケガは免れたけど、今度は心臓がバクバクと煩く鳴って、顔が赤くなるのが自分でも分かって。
(銀)「なーにこんなんで照れちゃってんの、ウブで可愛い音莉ちゃん」
(あ)「だ、だって…」
(桂)「……貴様ら、見せつけてくれるではないか」
楽しそうに揶揄う銀さんといつまでも恥ずかしがってしまう私を、桂さんは愉快そうな表情で見ていたとかなんとか。
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