しばらくして、当然のように彼女はそこにいた。
　僕が準備を終えて一息ついたときには、コートにマフラーという暖かそうな格好をした少女が元々ここに住んでいたかのように座っている。
　少女は元気にニカッと笑って言う。

「ナナシお兄ちゃん、久しぶり～！」

「久しぶりって言うほど期間は空いてないけどな……ほら」

　薄緑色の髪を雪で濡らしたままのこいしに、僕は適当にタオルを持ってきて頭にかぶせた。

「わぶっ、おっとっと……ありがと！」

　こいしがお礼を言って、濡れた髪を吹いていく。

　こいしはいつも気づいたらここに来ていて、最近はそうでもないが気づいたときにはもういない。
　行動理念が無意識だから、本人も特に考えてはいないのだろうけど。人里の子供たちの記憶にはないが、たまに遊んでいるところも見るし、彼女自体も楽しければ何でもいいのかも知れない。

　ただ、それは本当は寂しいのではないかと思う。

「あれ～？　久しぶりじゃなかったかな？」

「そうだよ、まあこいし的にはそう感じるのかもしれないけど」

　だって無意識だし。
　そう思って口にしたが、こいしは頭を拭く手を止めて首を横に振った。

「いや、ナナシお兄ちゃんだから、久しぶりに感じるんだよ」

　こいしはそう言って笑った。その頬は雪で濡れてほのかに赤い。

「……実は心を読めるのか」

「そんな訳無いじゃん」

　何言ってるのお兄ちゃん、と呆れ気味にこいしは言った。
　こいしがタオルを近くに置く。両手を広げて僕に胸に顔をうずめるようにして、こいしは勢いよく抱きついた。

「お兄ちゃんのことだから、わかるんだよ！」

　そう言うこいしの体は少し冷たくて、温めるようにその華奢な体を抱きしめ返した。