一日はフランで始まる。

　正確に言うならば僕の目の前に、僕の腕の中に紅魔館の主の妹であるフランドール・スカーレットが眠っている。それを見て朝を迎えると言うわけだ。

　一応言っておくが、別に忍び込んだ訳ではない。むしろいつも通り、当然のように僕とフランの二人で一緒に眠っていた。気づけば僕もフランを抱きしめている。それくらいの距離感だ。

　寝起きでうまく動かない体を動かして、まだ朧気な目を凝らしてフランを見る。まだ幼く、可愛らしい顔を見せながら気持ちよさそうに眠っていた。

　僕はゆっくりとフランの髪を撫でる。すると少しだけフランの顔が緩んで可愛らしく微笑み、腕に抱きつく力が強まる。幼く柔らかい体が腕に当たり、軽く理性が飛びかける。

　......可愛い

　ふとそう思い、すぐにその思考を停止させる。流石にこれ以上はまずい気がしたからだ。朝からそういうのは色々と不味い。

　僕は執事として、フランを起こす。もうすぐ朝ご飯の時間なので、完璧なメイドがこちらに来るだろう。それまでにフランを起こして準備をさせなければならない。
　朝にかなり弱いフランには悪いが、寝ているフランに優しく声をかける

「フラン、起きて。朝だよ」

　優しくフランの体を揺する。するとフランはゆっくりと目を開け、少し不機嫌そうにこちらを見た。朝に弱い吸血鬼なのだから、こればかりは仕方がないことなのだが。

　するとフランはトロンとした目のまま僕の首に手をやり、何かを催促するように唇を近づけて目を瞑った。

　何を催促しているのかは考えなくともわかる。僕はフランに顔を近づけて、その唇に優しくキスをしてやる。するとフランは舌を絡ませてきた。普通のではなく、恋人同士がするであろう、濃厚なキス。

　唇を離し、瞑っていた目を開けるとそこには笑顔のフランがいた。

「おはよう、ナナシ！」

「相変わらずですね」

「これがないと目が覚めないんだもん」

　でも、拒まないよね？　と笑顔で言われたら当然ながら拒むことは出来ない。別に元々嫌ではないし、僕も好きなので良しとしよう。

　こうして僕の一日は始まるのだ。