あれから数年。強くなるために魔法使いにもなった。たくさんの知識をつけて、たくさん勉強もした。


　しかし彼は、ナナシは帰ってこない。

　少女はいつまでも、いつまでも、約束を信じて、その約束の小屋で待ち続けているというのに。

　ナナシは一度も姿を現すことはなかった。





　シャワーを浴び終えて身だしなみを整えた後。気分転換に散歩でもしようと思った。

　実際そんな気分ではない。しかし昨日の魔理沙のように気を使われるのはいやだった。

　魔理沙は妖怪襲撃の事件の日になると決まってアリスの家に顔を出す。それが少しでもアリスの気分を紛らわすためだということをアリスは知っていた。

　アリスは深い深呼吸をする。

「よしっ」

　アリスは家のドアを開けた。天候は良好、まさに散歩日和だ。



　アリスはのんびりと、しかし確実に地面を歩いていく。おもむろに空を眺めてみたり、そこらへんに生える木を見たり、ぐにゃぐにゃと流れる川を見つめてみたり。しかし思うことは彼は、ナナシは今何をしているのか、だった。

　もしかしたら昔みたいに笑って、もうとっくに約束なんか忘れて過ごしているのかもしれない。彼の人生なのだから、少し悲しいとも思うがそれも良し。



　しかし、もしかしたら傷だらけで今もなお倒れているのかもしれない。

　もしかしたら、彼はもう、この世界にはいないのかもしれない。

　そう思うと心が思い切り締め付けられるようで苦しかった。自分が殺してしまったんだ、と。自分の性で彼の人生は途中で途絶えてしまったのだ、と。

　そんなことを考えていた性で全く気づかなかったのだ。

　アリスは今、まさにその人生が終わりそうになっているということを。





　周囲にいる妖怪の存在にアリスは気づけなかった。