アリスは突然に目が覚めた。額には汗がにじんでおり、体にべったりと張り付くパジャマが異常に気持ち悪い。

　アリスはベッドから降りると台所に向かって水を一杯飲んだ。いつもよりものどがカラカラだった。

　張り付いていたパジャマを脱ぎ捨て、体にまとわりつく汗を洗い流そうとシャワーを浴びる。

　アリスはその間ずっと思い出していた。昨日の夢のことだ。

　あれから何年がたっただろうか。当時はアリスも6歳くらいで二つ年上だったあの少年は8歳だろう。

　アリスはその少年のおかげで生かされた。一度はいじめにあっていた時。そして二度目は「妖怪に襲われた時」だ。

　今でもあのときのことは鮮明に思い出せる。しかし、全く思い出したくない。あれはあまりにも悲惨で、何より大きく人里を変化させた。

　妖怪が人里に現れた時、アリスは少年といつものように遊んでいた。そこに割り込むように妖怪は現れた。今にもアリスを食わんとする勢いで飛びかかってくるところを少年は真っ先に気づき、手に持っていた木刀で庇う。

　しかし妖怪と人間、ましてや子供との力の差は火を見るより明らか。思い切り吹っ飛ばされ、何とか態勢を立て直した少年はアリスを連れて逃げ出したのだ。

　もはや人里にいたって安全なところはどこにもない。それなら森の中に居た方が幾分かましという判断だ。

　そしてそこで小さな小屋を見つけた。そこに二人で飛び込んだ。しかし姿は隠せても人間特有の匂いは隠せない。妖怪の声が聞こえる小屋のなかで。

「絶対に迎えにくるから。それまで待っていて」

　そういい残し、少年はその小屋を飛び出した。幸いにもこの小屋はなかなか広く、倉庫として使っていたのか刀も置いてあった。それを強く握り、少年は小屋を出ていった。


　あれから何年が経ったのだろう。長い年月が経っているのにも関わらず約束を信じ、待ち続けている私はバカなのだろうか。

「教えてよ......ナナシ......」

　そんな切ない声は誰にも届かない。