「邪魔するぜ～」

　約束もしていないのに、その日は一人の人間がやってきた。この日は快晴......とはいかないまでもほんの少し曇りがかっただけの悪くない天気で、暑かったから立ち寄ったわけでも、雨宿りに立ち寄ったでもない。

　今日という日を見計らって、霧雨魔理沙はアリス・マーガトロイドの家に自ら足を運んだ。

「......今日は何しにきたのかしら？」

「なんだ？　用が無かったら来ちゃだめなのか？」

　魔理沙のにかっとした笑顔にため息をつきながらアリスはお決まりの紅茶を入れる。魔理沙には紅茶の善し悪しはわからないので当然、自分の趣味なのだが。

「それで霊夢がさぁーー」

　魔理沙が始めるのはどうでも良いような世間話。しかしそれを聞いてやる余裕は今のアリスにはない。魔理沙もそのことはわかっているのだが、喋っていないと居心地が悪かった。

　アリスは無意識に紅茶を一口含む。しかし今のアリスはその味を楽しむ余裕はなかった。





　日が落ち始め、窓から見える空はきれいな橙色に染まっている。

「お、もうこんな時間か」

　結局昼から夕方までの短いようで長い時間は、魔理沙の一方的な世間話のみで終わることとなった。その間アリスは魔理沙の言葉に相づちを打つだけ。その姿はさながら一定の言葉を話すようプログラミングされた機械のようだった。

　魔理沙は窓から覗く橙色の空を見ておもむろに呟くと、ゆっくりと立ち上がった。アリスは見送ろうと重たい腰を上げる。

　気が乗らない足取りで魔理沙の側を歩く。その様子を魔理沙は悲しそうに見ている。

「アリス......元気出せよ」

「ふふ、私は大丈夫よ」

　魔理沙はそれを聞いて顔をしかめる。彼女が最後に聞いたアリスの言葉は相変わらず弱々しいものだった。





　魔理沙が帰り、憂鬱な一日がようやく終わる。彼女は暇なときはよくアリスの家に来ているのだが、一年のサイクルのなかで今日という日だけはかかさず来てくれている。

　アリスは自分の弱さを痛感しながら、そのまま寝床についた。



　今日という日を、早く終わらせるために。