ナナシはまた帰ろうとする。何もかも抱え込んだまま、このままでは彼は一生人を避け続けるだろう。

「待って！」

　霊夢は帰ろうとする彼の手を掴んだ。否、掴んでしまった。

　何で止めようとしたのかはわからない、とっさに手が出てしまったのだ。

「......まだ何かあるのか」

　彼はいつも通り、無愛想な表情を作ってそう言った。

「あの、その......ありがと......」

　苦し紛れに出た言葉。それが無性に恥ずかしくなり霊夢は頬を赤く染めた。

「......霊夢は、俺が怖くないのか？」

　ナナシは突然そんなことを言う。霊夢は顔を赤く染めたまま不思議そうにすると、彼はまた話し始めた。

「俺はこんなおかしな力を持っている。それを知った前の学校の友達は全員俺から離れていったよ」

　霊夢は驚いてしまう。彼はこんなにも優しいのに、こんなにも人のことを考えているのに。
　そんなことは絶対におかしい、霊夢はそう思った。



「私はナナシを怖がったりはしない。だってあんたは私を助けてくれたでしょ？　そんな人を怖がってどうするのよ」

「いや...でも...」

「私はあんたが誰に嫌われたとしても、怖がられたとしても、私はナナシから一生離れたりしないから」

　自分でも不思議になるくらいすらすらと出てくる言葉。ナナシの心を縛る鎖はぼろぼろと朽ちていった。

　霊夢の言葉はナナシの心に強く響いた。