担任がクラスを出ていって、10分間の休み時間に入った。

　誰もナナシのところへ近づく者はいない。それは彼の見た目からなのか、それとも彼が放つ得体の知れない雰囲気なのか。恐らく両方だろう。

　そのまま誰も彼と話を交わす事はなく、彼が席を立つことはなかった。


・・・・・・・・・

　授業もほとんどが終わり、ついに昼休みの時間になる。購買に向かう人もいれば家から持ってきた弁当を広げるもの、友達と話をしているものなどと基本自由な時間だ。

　しかしそんな自由な空間に彼、ナナシはいない。

「どうしたんだ、霊夢。ぼーっとして」

　クラスの女子が声を掛ける。しかし霊夢と呼ばれる少女は全然反応を見せない。

「......えい」

　見かねた少女は軽く霊夢の頭を小突く。すると霊夢はあぅと、らしくない声をあげた。

「痛いわね......魔理沙」

「......本当どうしたんだ、霊夢？」

　何かがおかしい、魔理沙はそう思った。霊夢の様子が明らかに変なのだ。

　他の人から見てもその違いはわからないだろう。魔理沙と霊夢の仲だからわかることであって、だからこそ彼女にはものすごく変に見えたのだ。

「何でもないわよ、バカ」

　霊夢はいつものように無愛想にそう言った。魔理沙もそれ以上突っ込む訳にもいかず、のんびり話をしながら弁当を食べ始めた。