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序章 終わりからの始まり

 ――憧憬を抱いていた。

 物心がついたころにはもう、僕に母はいなかった。興味がないといえば嘘になる。けれど寂しくはなかったし、そのことを聞こうとは思わなかった。
 僕には父さんがいたから。よく顔は覚えていないけれど、そんな朧げな記憶の中の父さんはとてもかっこよく、とても誇らしかった。

 ーーいつも夢見ていた。

 そんな父さんも僕のそばからいなくなった。最後に受け取った手紙は今でも覚えている。
 空の果て、イスタルシア。僕はそんなあるかもわからないものに思い焦がれた。
 ザンクティンゼルはとても小さな村だ。村での交流は多くあるものの、村外の交流はほとんどない。
 いつかこの村から出て、この小さな世界から一歩踏み出したい。空はとても広いと、そう聞いている。想像しただけでどうにかなってしまいそうだ。

 相棒のビシと日々鍛錬を繰り返す。剣の扱いを知っている者なんて、こんな小さな村にいるわけもない。独学での鍛錬は苦難の連続だけど、それは毎日が未知との遭遇で心がときめいた。

 そんな生活を続けて、17歳になった。僕が故郷から旅立つ日、僕の生活は一転した。

『助けてください!』

 10代前半くらいだろうか。透き通るような青髪を腰辺りまで長く延した少女が、息を整えるまもなく言ったのだ。
 それから数秒シて、その少女を追って現れたのだろう帝国兵が、僕の方へと剣の切っ先を向ける。

 僕は即座に理解した。この少女はこの帝国兵たちから逃げてきたのだと。
 理解してからは早かった。僕は即座に自らの剣を抜く。まさか帝国兵もこの状況で抵抗してくるとは思わなかったのだろう。慌てて剣を構え直す帝国兵に対し、僕は横薙ぎに一閃する。その剣撃は剣の根本に強く当たり、油断していた帝国兵はその獲物から手を話した。
 僕は瞬時にその落とした剣を遠くに蹴る。その勢いのまま、もう一人の帝国兵の首元に剣を突き出した。

 完璧だった。今までの鍛錬は無駄ではなかったということが、今この瞬間に証明されたのだ。狼狽え逃げ出す帝国兵を尻目に僕は喜んだのもつかの間、青髪の少女に近づいた。

 名前はルリアというようで、やはり帝国兵に追われていたらしい。途中で一緒に逃げていたカタリナという女性と合流し、ひとまずここから離れようと一緒に行動をし始めたころ。

 けたたましい咆哮と共に、ヒドラが現れたのだ。強靭な鱗にすべてを燃やし尽くす炎。その強大な力に、為す術もない。
 ヒドラに慈悲なんてない。その強大な力が、ルリアに牙を向けた。
 それを見た瞬間、僕は自然と動いていた。僕はその間に割り込み、そしてヒドラの鋭利な牙が僕の体を抉った。
 初めて感じる言い表せないような痛みが全身を巡る。そして次第に意識が遠のいていく。周囲から音が消え去っていき、血のぬくもり以外なにも感じない。

 初めて感じる死の恐怖。旅を始める前に、旅が終わってしまう。諦めたくない。しかし、その思いとは裏腹に体は言うことを聞いてくれない。
 徐々に視界が狭まっていく。だんだんと空が遠ざかっていく。
 いつかあの場所にたどり着いてみせるんだと。そう思っていたのに。
 ああ、僕は死ぬんだな。僕はそのまま、意識をゆっくりと手放していく。

 ーー諦めないで……!

 朧気な意識の中で、かすかに声が聞こえる。

 ーー今度は、私があなたを助けます……。

 消えかかっていた光が、また輝きを取り戻していく、
 その光がとても心地よくて、僕はゆっくりと目を開いた。そこには先程の少女ーールリアがいた。
 ルリアは祈るようにして僕のテを握る。僕が目を開けたことに気がつくと、ルリアは優しい笑みをひとつ零した。

 僕は直感的にわかった。僕はルリアと文字通り、一心同体になったのだと。

『ありがとう』

 そう心の中でつぶやいて、僕は立ち上がった。そして、誓う。
 僕は強くなる。もっと、もっと強くなって、誰もを守れる力を手に入れる。
 そしていつかきっと、空の果てへ。イスタルシアへたどり着いてみせるんだと。


 ーーそんな過去からもう一年がたった。
 この一年、本当にいろんなことがあった。たくさんの仲間との出会い。圧倒的な力を持った星晶獣との戦闘。そして、得るステ帝国の宰相フリーシアの陰謀の阻止。幾度の困難を乗り越え、僕たちは着々と強くなっている。

 しかし、まだまだ先は遠い。空の果ては、まだ見えない。
 僕は軽く身だしなみを整えて、前へとあるき出す。目の前の扉を開けると、そこにはいつもどおり一面青い空が広がっている。

「よし、今日も頑張るか!」

 僕は騎空艇グランサイファーの上で、自分に向けてつぶやいた。

 ーーこれは、とある騎空士の旅のお話。

 ーーかけがえのない仲間と紡ぐ日常の物語である。
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