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愛毒に墜ちる

夢小説設定

この小説の夢小説設定
東方Projectの二次創作小説で使用する名前の設定をお願いします。
主人公の名前です。キャラ設定については作品ごとに違います。

 僕は人形を作るのが好きだった。
 その瞬間だけは誰にも邪魔されない、僕だけの、一人の時間。
 誰かの邪魔をすることもない。趣味に時間を割いて、好きなことをして、何が悪いのだろうか。

 僕の空間に土足で入り込み、勝手に自分の定規でそれを測って、ただ周りと違うというだけで否定していく。
 人形作りは女々しいと、男のやる趣味じゃないと、彼らは馬鹿にした。
 もううんざりだった。当然、迷いはなかった。

 あたり一面は鈴蘭の純白に染め上がっていた。
 月が彼らを強調するように、美しく照らしている。心が安らぐような、そんな気がした。

 そんな場所で、今日僕は死ぬ。
 僕は自作の人形の金色の髪を優しく撫でた。そしてギュッと強く抱きしめて、ゆっくりと目を閉じた。

 思い出すのは僕のことを馬鹿にした者たちの顔。
 僕が死んだからどうなる、とかそんなことは一切考えてはいない。
 ただ生きていたくないから、ならば死のうと、そう思っただけ。

 カッコつけて言うならば、この世界に嫌気が差した。ただそれだけ。

「お兄さん、どうしたの?」

 だから僕は目を開けた瞬間、驚いた。
 太陽の光に当てられて輝く金色の髪。透き通るような青色の瞳。赤と黒のドレスを身にまとい、髪と胸のあたりに赤色のリボンをあしらった少女は、ニコリと笑顔を浮かべながら、僕に問いかけた。


「……え?」

 僕は思わず疑問に疑問をぶつけてしまう。
 ただ単純に理解が追いつかなかったのだ。

 夜だったはずなのに、太陽が出ていて。
 人工的な鈴蘭畑は人の手の施されていない自然なものになって。

 そしてなによりも、この少女は『浮いていた』。
 何も気持ち的な意味で浮いているというわけではない――一般的に見たら確かにそっちの面でも浮いているのだが。
 しかしこの少女は、さも当たり前のように鈴蘭畑に足を付けずにいる。

「ちょっと~、お兄さん?」

 いつまで経ってもまともな返事がされない僕に、目の前の少女はさらに近づく。ふわり、ふわりと、少女は重力を感じさせずに、ぷかぷかと。
 多分僕が何も言わないからだろう。その表情はすごく不満げで、少女は可愛らしく「むぅ~」と唸っていた。
 待たせるのも悪い。思考が追いつかないものの、何とか心を落ち着かせる。二、三度深呼吸をして、もう一度少女に向き直った。

「すみません、取り乱しました。なんですか?」

「……お兄さん、もしかして外来人?」

「外来人?」

「敬語じゃなくてもいいよ、お兄さん」

 聞きなれない言葉に僕は聞き返すと、少女はそう言って優しく笑った。

「わかったよ。それで、外来人っていうのは?」

「えーっと、外来人っていうのは『外の世界』から来た人のことを言うんだけど……って言っても、それを本人に言ってもわからないわよね……」

「外の世界……」

 僕はまた出てきた聞きなれない言葉に再び首をかしげる。
 目の前の少女はそれに対して思わず苦笑いを浮かべた。なんだか申し訳なくなってくる。
 すると少女は思い出したようにこう言った。

「そうだ! 私ではちょっと説明が出来なさそうだし、一度『博麗神社』に行くべきね!」

「博麗、神社?」

「そう、そこに行けば大体のことはわかるよ!」

 どうやらそこには博麗の巫女、と呼ばれる少女がいるらしい。基本的にはぐーたらしているらしいが、その人に話をすれば……まあ、とにかく大体のことがわかるらしい。
 どの程度のことがわかるのかは、結局わからないけど。

「わかった、そこをあたってみる」

「道は教えたとおりだから、頑張って!」

 ……頑張るようなことがあるということなのか。
 笑顔で含みのある言葉を放つ少女に、自然と顔が引きつる。

「わかんないけど頑張るよ。いろいろありがとう、えっと……」

「あ、名乗ってなかったね。私はメディスン・メランコリー。メディスンでいいわよ、お兄さんは?」

 少女はメディスンと名乗って、僕にそう聞いた。
 さっきまでは死のうと思っていたのに、ここに来て名乗るときが来るとは思わなかった。
 一瞬の戸惑い。しかし感謝の気持ちを込めて、僕は自分の名前を伝えた。

「……ナナシだよ」

「へぇ~、ナナシかぁ……」

 名前を聞いて、自分にその言葉を染み込ませるように何回か復唱するメディスン。下を向いているために表情は伺えない。どうしたのだろうか。

「だ、大丈夫……?」

「え、ああ! うん、大丈夫だから! 心配しないで!」

 ならいいけど。僕は改めて言った。

「じゃあ行くよ。ほんと、いろいろありがとう」

「うん。またね、ナナシお兄さん!」

 手を振るメディスン。その言葉に見送られ、僕は教えてもらった道の通りに歩き始めた。



 ――――【また】ね、お兄さん……。
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