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小説家に形容し難いものはあっても良いのか?

がらんとした駅。スーツケースを抱え、電車を待つ。
「ドが付く田舎だろう、何もない」
「そ…そんな事ないですよ、ほら空気美味しいですし?空も綺麗ですもん!ね?」
「それを世の中は何もないというんだ」
電車は1時間に1本から2本。多くても4本。彼らは新幹線を降りた後、電車に乗り継ぎ、乗り換え駅で降り、20分後に来るであろう電車を待っている。
「まさか先生の地元がここまで田舎だとはね〜」
皮肉とも取れる東の意見に、桐ヶ谷は頷いた。
「もっともな感想だ」
暇そうに彼らはため息を吐く。なんて暇なんだ。スマホに触ろうにもここで充電を減らすのはもったいない。竜胆の充電は30パーセントを切っていたし、東はモバイルバッテリーを使用しても60パーセント程、桐ヶ谷に至ってはガラケーである。
竜胆はしりとりをしようと言いかけたが日頃より文字に触れる頻度が高い2人にぼろ負けするのは目に見えていたので、言うのをやめた。
東は“マッチ棒”と呼ばれる指遊びをしようと言いかけたが、自分が、相手がどう出るか先を読みながらするゲームが苦手なのを思い出して、言うのをやめた。
桐ヶ谷は親指ゲームと言われる…指スマとかいっせーのとも呼ばれる…遊びをしようと言いかけたが、己の運の悪さを思い出して、言うのをやめた。
長い長い沈黙が3人を襲う。遠くで烏が鳴く。
「ね、ねぇ、りなちゃんは学校、楽しい?」
東が、とってつけた様に話題を振った。
「えぇ、楽しいですよ!」
微笑みながらそれに答える。
「じゃ、じゃあさ、好きな子とかいるんじゃない?」
「え、えぇ?!すっ好きな方…ですか……?」
あからさまに慌てる竜胆、それを見てにやにやとする2人。
「いるのね?いるのね〜!」
テンションが上がるおばさん。相手が竜胆でなければきっとうざがられているだろう。
「フン…片思いか?」
嘲笑う様に見下す。
「あ…あの、その」
消え入る様な声で呟いた。
「い、いませんね…学校には……」
ぽぽぽ、と音がするように頬が赤くなる。その隣で東が何かを察した様ににやついた顔を更ににまにまとさせた。
「じゃあなんだ、塾か?」
にやにやと桐ヶ谷が続ける。
「じゅ…う……」
どもる竜胆。
「わっ私の話は良いんです!恋とか縁がないので!ほ、ほら、あれの話しましょうよ、あの〜先生の実家のお話!」
「ふふ、そうね〜そうしましょうか」
「私の話か…」
なんだかんだ楽しそうに話に花を咲かせている。
そこへ、電車がやってくるまで、桐ヶ谷の家の話が続いた。
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