小説家に形容し難いものはあっても良いのか?
ガタガタと音を立てて、重たい荷物が引きずられる。人が芋洗いの様にいる、駅の中を縫っていくりな。
「先生待って!ま…待ってください!」
スーツケースに括り付けられた大きな鞄、背負った中身がパンパンのリュックサック、両肩に掛けたボストンバッグには桐ヶ谷の衣服やメイク道具などが詰まっている。これらのお陰で竜胆りなは丸い荷物のボールの様になっていた。先生を追いかけ、あっちをふらふら、こっちでくらくら。
「遅いぞ、さっさと付いて来い」
桐ヶ谷というと、紋付袴にハットを被り、手ぶらで女学生に呼びかけている。人混みに慣れない様子で、青白い顔をしている。
「まったく、自分の荷物くらい自分で持ってよねぇ」
女学生の後ろから、パンツスーツ姿で出てきたのは、先生を担当する編集者、東。長い茶髪をポニーテールに結び、きりりした顔で女学生の荷物の半分ほどを肩代わりする。
むすっとした顔の先生は、ぐいぐいと女学生の制服を引っ張り、小声で彼女に話しかける。
「何故彼女が来ている?!」
「いやあ…なんでも、向こうで原稿書くのをサボるんじゃあないかって思ったらしく」
「くっ…まさにその通りだが…」
「そうだと思いましたよ、先生がわざわざ面白くない所に行くなんて…ねえ?」
苦笑いを浮かべるりな。歯ぎしりをする桐ヶ谷。
「なんだい、何か問題でも?」
二人の後ろから肩を組みにかかる東。目が死んでいる笑顔で先生を監視する気満々である。とんでもない特大サイズの苦虫を噛み潰したような顔をする先生。
「ほーら、早く行かないと乗り遅れるよ!」
ツカツカと新幹線へ向かう編集者。彼女の目の下には薄いクマができている。その背中を追う二人。
「それにしても楽しみです!先生のお家は自然いっぱいの大豪邸!ウキウキしちゃいますよ〜」
「お姫様みたいな衣装もいっぱいあるよ、きっと!」
「やだ、楽しみです〜!」
盛り上がる女子二人の後ろでため息を吐く先生。
「残念だが、あの家は私しか子供がいない。ドレスなどは母が使っていたものしかないぞ」
「という事は、先生は男性…?」
「だからといって私のタキシードがあるわけでもない」
父のはあるがな、と鼻で笑う。
「夢がない事言うんじゃないよ」
「だが事実だ」
「女の子は夢見るのが仕事なんだよ」
なんだその仕事は。なら私は好きな様に日々を過ごすのが仕事だ。それを飲み込んで、疲れたようにため息を吐いた。
「さぁさぁ、乗った乗った!」
新幹線に一向は乗り込んだ。
「先生待って!ま…待ってください!」
スーツケースに括り付けられた大きな鞄、背負った中身がパンパンのリュックサック、両肩に掛けたボストンバッグには桐ヶ谷の衣服やメイク道具などが詰まっている。これらのお陰で竜胆りなは丸い荷物のボールの様になっていた。先生を追いかけ、あっちをふらふら、こっちでくらくら。
「遅いぞ、さっさと付いて来い」
桐ヶ谷というと、紋付袴にハットを被り、手ぶらで女学生に呼びかけている。人混みに慣れない様子で、青白い顔をしている。
「まったく、自分の荷物くらい自分で持ってよねぇ」
女学生の後ろから、パンツスーツ姿で出てきたのは、先生を担当する編集者、東。長い茶髪をポニーテールに結び、きりりした顔で女学生の荷物の半分ほどを肩代わりする。
むすっとした顔の先生は、ぐいぐいと女学生の制服を引っ張り、小声で彼女に話しかける。
「何故彼女が来ている?!」
「いやあ…なんでも、向こうで原稿書くのをサボるんじゃあないかって思ったらしく」
「くっ…まさにその通りだが…」
「そうだと思いましたよ、先生がわざわざ面白くない所に行くなんて…ねえ?」
苦笑いを浮かべるりな。歯ぎしりをする桐ヶ谷。
「なんだい、何か問題でも?」
二人の後ろから肩を組みにかかる東。目が死んでいる笑顔で先生を監視する気満々である。とんでもない特大サイズの苦虫を噛み潰したような顔をする先生。
「ほーら、早く行かないと乗り遅れるよ!」
ツカツカと新幹線へ向かう編集者。彼女の目の下には薄いクマができている。その背中を追う二人。
「それにしても楽しみです!先生のお家は自然いっぱいの大豪邸!ウキウキしちゃいますよ〜」
「お姫様みたいな衣装もいっぱいあるよ、きっと!」
「やだ、楽しみです〜!」
盛り上がる女子二人の後ろでため息を吐く先生。
「残念だが、あの家は私しか子供がいない。ドレスなどは母が使っていたものしかないぞ」
「という事は、先生は男性…?」
「だからといって私のタキシードがあるわけでもない」
父のはあるがな、と鼻で笑う。
「夢がない事言うんじゃないよ」
「だが事実だ」
「女の子は夢見るのが仕事なんだよ」
なんだその仕事は。なら私は好きな様に日々を過ごすのが仕事だ。それを飲み込んで、疲れたようにため息を吐いた。
「さぁさぁ、乗った乗った!」
新幹線に一向は乗り込んだ。