東堂×巻島
「今日も疲れたな…」
練習終わりの騒がしい部室、1人巻島はスポーツドリンクをストローで飲んでいた。
着替えて帰るか、と腰をあげようとした瞬間
携帯の着信音が鳴る。
表示は “東堂尽八”
ピッ
「なんの用シ…」
『もしもし!巻ちゃーん!』
『来週末、またうちに来るといい!うんうん!』
相変わらず高テンションで一方的に話を進めやがる。いきなりだし遠いし無理だ、
「いや、来週は…」
と言いかけて巻島は前回の小野田と招待された東堂庵でのことを思い出した。
温泉は好きだしまた入るのも悪くない、と思い直し承諾することにした。
「アァ、来週末なら丁度暇ショ、」
『巻ちゃん!珍しいな!そんなに俺に会いたいか!嬉しいぞ!!巻ちゃん!』
東堂のテンションは更に高くなっていた。
うるさいので巻島は電話を切った。
ピッ
「まぁ、来週末は温泉で疲れを癒すショ」
電話の先では巻島が珍しく承諾してくれたことでいつも以上に上機嫌な東堂の様子に隣で着替えていた男が気づいて話しかけた。
「あれ、東堂さんなんか嬉しそう」
「ワッハッハわかるか真波!ちょっと来週末楽しみな約束ができてなー♪巻ちゃんを俺の家に友人として招待しようと思ってなー誘ったのだよそしたら…」
「へーそれはよかったですね」
「なんだその興味無さそうな相槌!」
ムッとしながらも東堂は鼻歌交じりで自然と上がる口角を抑えることもなく上機嫌に帰路に着いた。
「巻ちゃんとお泊まり会、楽しみだな」
「温泉と客室、楽しみショ」
時は過ぎ、例の『来週末』になった。
巻島は新幹線で神奈川まで走った。
裕福な巻島にとって交通費なんて小遣いから自費で出しても痛くも痒くもなかった。しかもグリーン席だ。
タクシーを乗り継いだ先に大きな旅館と「東堂庵」と立派な看板が見え、入口には仁王立ちで見慣れた男が立っていた。
「巻ちゃーーーーーん!!」
「シッ恥ずかしいショ、黙れ」
「よく来たなー巻ちゃん、疲れただろう、今日はベッドで寝ていいからな、ちゃんと洗濯は…」
温泉は人多いだろうか、などと考えながら男について行くとベラベラと喋りながら案内されたのは裏口だった。
(今日は裏口…?まあいいショどこでも)
裏口から入り、男の後をついていきガチャ、とドアが開いた先には『客室』というより生活感のある『男の部屋』が広がっていた。
「狭いが座る場所はあるぞ!巻ちゃんが来るからと昨日から掃除もしておいた!」
キラキラとした顔で手を広げここに座れ、と促す東堂と裏腹に巻島は下がった眉を更に下げた。
「な…なんでお前の部屋…?…ショ」
「今日は巻ちゃんは客人ではなーい!友人として招待したのだからな!」
そういう事か、と巻島は頭の片隅にあった違和感と答え合わせをした。
ついこの前小野田と来たばかりなのにまた誘ってくるなんてこいつならありえない話では無いと確認もしなかった自分が悪かったのだ。
幸いベッドの横に布団が敷いてあり部屋はまあまあな広さがあった。
今から帰る訳にも行かないし…と腹を括った。
部屋に着いた時にはもう17時だったし東堂の母親が作ってくれていた夕食を食べた。
旅館のご飯もいいがそれはそれで美味しかった。
部屋に戻った巻島はもう薄々わかっていたが東堂に尋ねた。
「この調子じゃ温泉も無理なんだろ?」
「うむ、友人だからな!温泉ほど広くは無いが風呂は2人で入れる広…」
「いや、1人で入るショ」
「巻ちゃあああん!」
死ぬほど食い下がってくる東堂にタオルや風呂の場所を聞き、ひとりで済ませ部屋に戻る。
「はぁ、あいつと同部屋はきついショ…」
巻島は髪を乾かしナイトキャップを被って床に敷いてあった布団にダイブした。
「…ちゃん…巻ちゃーん…」
ハッと気づくと見慣れない髪型の見慣れた男に揺すり起こされていた。
移動で地味に疲れていたのか寝落ちしてしまっていたらしい。
「起こしてすまんが巻ちゃんの寝る場所はベッドだぞ」
「あ、アァ…ありがとよ」
ベッドに移動すると東堂が寂しそうな顔でこちらを覗く。
「巻ちゃん疲れてるもんな…お泊まり会だけど…明日楽しもう、うん」
「おやすみ、ショ」
ベッドに寝転び東堂に背中を向けてそういうと東堂はいつもより小さめの声で、でもペラペラと語った。
「申し訳ないことをしたな巻ちゃん、でも友人であり客人だからな、せっかくならベッドに寝て欲しかったのだよ、ちゃんとシーツも洗濯して用意してたからな」
「…」
「寝たのか巻ちゃん…」
「…」
「おやすみ巻ちゃん…泣」
本当はちょっと寝たせいで目が冴えていたが返事をすると一生寝れなくなりそうだったので巻島は背中を向けたまま寝たフリをした。
1時間くらい経っただろうか、時刻はもう12時を過ぎていた。
明日は朝早くからロードバイクで山を登る予定だと言うのに、なかなか眠れない巻島はカーテンの裾から漏れる月明かりを見ながらぼーっと考えていた。
(ひとんち、寝れないショ…)
(東堂は…寝たか…)
ほっとしたような寂しいようなそんなことを考えていると突然、背中の掛布団がめくれあがった。
「ッ?!」
「巻ちゃん、一緒に寝たい、」
寝ぼけているのか、はたまた東堂も眠れなくて来たのか、わからない。
「い、いや気持ち悪いショ」
とりあえず返事をしたが東堂は立って掛布団をめくったまま動かない。
「…」
「おい、寒いショ」
そういうと東堂が口を開いた。
「じゃあ入っていい?」
暗くて表情が見えないし寝ぼけてるのか、起きてるのか分からないので強くも言えない。
「ベッドで寝たいなら寝ろ、俺が下で寝るショ」
そう言って布団から出ようとするとガシッと手首を掴まれた。
「違う、一緒に寝たい、巻ちゃん」
「…ッ?!」
巻島は動揺した、普段からベタベタした奴ではあったし、ほぼストーカーみたいな奴だ。だけど男と一緒に寝る趣味があるようには見えなかった。返す言葉もなく座ったまま固まっていると東堂がミシッと膝で布団に入ってきた。
「と、東堂…」
「いいではないか」
多分これは寝ぼけてない。
固まっている巻島をよそに、東堂はシングルベッドに無理やり入ってきて巻島を押し倒すように寝かせる。
(おいおいまじでこいつ気持ち悪いショ…)
「よし、おやすみ巻ちゃん」
満足気な声と共に東堂も隣で横になった。
壁側に追いやられた巻島は動くことも出来ずとりあえず上を向いたままこいつがどういうつもりなのか考えようとした。
チラッと隣を見ると上を向いてるはずの東堂とバチッと目が合い慌ててそらす
「ッショ…」
「巻ちゃん、」
そういうと東堂は布団の中で巻島の手を握ってきた。異様な状況に巻島の心拍数が上がる。
「き、気持ち悪いショお前…」
━━━━━━━━━━━━━━━
「…巻ちゃん、キスしたい」
…!やっぱりこいつは寝ぼけてる。
こういう寝グセの悪いやつはどこにでもいる。
にしてもタチが悪い。ここは寝たフリで切り抜けてこいつが寝たうちに下に移動しよう。
そう考えた巻島は目をつぶって寝たフリを決め込もうとした。
すると一瞬で唇に生暖かい感触の何かが重なった。
「ッ?!?!」
「んぅ……」
びっくりして目を開けると月明かりに照らされた見たこともないような顔の東堂が虚ろな目で上から見下ろしていた。
いくら夢遊病でも性別に関わらず人を襲うのはまずい、、、が、、
(嫌じゃ…ない……)
キスされたから、か、見たことの無い東堂の顔に、かはわからない。
巻島は胸がギューッとなって目が逸らせなかった。
固まった巻島の顔の横に両手をついたままの東堂は目が合ったまま、また顔を近づけてきて唇が触れるか触れないかのところで止まって囁いてきた。
「巻ちゃん…?いいってことだよな…?」
つづく
練習終わりの騒がしい部室、1人巻島はスポーツドリンクをストローで飲んでいた。
着替えて帰るか、と腰をあげようとした瞬間
携帯の着信音が鳴る。
表示は “東堂尽八”
ピッ
「なんの用シ…」
『もしもし!巻ちゃーん!』
『来週末、またうちに来るといい!うんうん!』
相変わらず高テンションで一方的に話を進めやがる。いきなりだし遠いし無理だ、
「いや、来週は…」
と言いかけて巻島は前回の小野田と招待された東堂庵でのことを思い出した。
温泉は好きだしまた入るのも悪くない、と思い直し承諾することにした。
「アァ、来週末なら丁度暇ショ、」
『巻ちゃん!珍しいな!そんなに俺に会いたいか!嬉しいぞ!!巻ちゃん!』
東堂のテンションは更に高くなっていた。
うるさいので巻島は電話を切った。
ピッ
「まぁ、来週末は温泉で疲れを癒すショ」
電話の先では巻島が珍しく承諾してくれたことでいつも以上に上機嫌な東堂の様子に隣で着替えていた男が気づいて話しかけた。
「あれ、東堂さんなんか嬉しそう」
「ワッハッハわかるか真波!ちょっと来週末楽しみな約束ができてなー♪巻ちゃんを俺の家に友人として招待しようと思ってなー誘ったのだよそしたら…」
「へーそれはよかったですね」
「なんだその興味無さそうな相槌!」
ムッとしながらも東堂は鼻歌交じりで自然と上がる口角を抑えることもなく上機嫌に帰路に着いた。
「巻ちゃんとお泊まり会、楽しみだな」
「温泉と客室、楽しみショ」
時は過ぎ、例の『来週末』になった。
巻島は新幹線で神奈川まで走った。
裕福な巻島にとって交通費なんて小遣いから自費で出しても痛くも痒くもなかった。しかもグリーン席だ。
タクシーを乗り継いだ先に大きな旅館と「東堂庵」と立派な看板が見え、入口には仁王立ちで見慣れた男が立っていた。
「巻ちゃーーーーーん!!」
「シッ恥ずかしいショ、黙れ」
「よく来たなー巻ちゃん、疲れただろう、今日はベッドで寝ていいからな、ちゃんと洗濯は…」
温泉は人多いだろうか、などと考えながら男について行くとベラベラと喋りながら案内されたのは裏口だった。
(今日は裏口…?まあいいショどこでも)
裏口から入り、男の後をついていきガチャ、とドアが開いた先には『客室』というより生活感のある『男の部屋』が広がっていた。
「狭いが座る場所はあるぞ!巻ちゃんが来るからと昨日から掃除もしておいた!」
キラキラとした顔で手を広げここに座れ、と促す東堂と裏腹に巻島は下がった眉を更に下げた。
「な…なんでお前の部屋…?…ショ」
「今日は巻ちゃんは客人ではなーい!友人として招待したのだからな!」
そういう事か、と巻島は頭の片隅にあった違和感と答え合わせをした。
ついこの前小野田と来たばかりなのにまた誘ってくるなんてこいつならありえない話では無いと確認もしなかった自分が悪かったのだ。
幸いベッドの横に布団が敷いてあり部屋はまあまあな広さがあった。
今から帰る訳にも行かないし…と腹を括った。
部屋に着いた時にはもう17時だったし東堂の母親が作ってくれていた夕食を食べた。
旅館のご飯もいいがそれはそれで美味しかった。
部屋に戻った巻島はもう薄々わかっていたが東堂に尋ねた。
「この調子じゃ温泉も無理なんだろ?」
「うむ、友人だからな!温泉ほど広くは無いが風呂は2人で入れる広…」
「いや、1人で入るショ」
「巻ちゃあああん!」
死ぬほど食い下がってくる東堂にタオルや風呂の場所を聞き、ひとりで済ませ部屋に戻る。
「はぁ、あいつと同部屋はきついショ…」
巻島は髪を乾かしナイトキャップを被って床に敷いてあった布団にダイブした。
「…ちゃん…巻ちゃーん…」
ハッと気づくと見慣れない髪型の見慣れた男に揺すり起こされていた。
移動で地味に疲れていたのか寝落ちしてしまっていたらしい。
「起こしてすまんが巻ちゃんの寝る場所はベッドだぞ」
「あ、アァ…ありがとよ」
ベッドに移動すると東堂が寂しそうな顔でこちらを覗く。
「巻ちゃん疲れてるもんな…お泊まり会だけど…明日楽しもう、うん」
「おやすみ、ショ」
ベッドに寝転び東堂に背中を向けてそういうと東堂はいつもより小さめの声で、でもペラペラと語った。
「申し訳ないことをしたな巻ちゃん、でも友人であり客人だからな、せっかくならベッドに寝て欲しかったのだよ、ちゃんとシーツも洗濯して用意してたからな」
「…」
「寝たのか巻ちゃん…」
「…」
「おやすみ巻ちゃん…泣」
本当はちょっと寝たせいで目が冴えていたが返事をすると一生寝れなくなりそうだったので巻島は背中を向けたまま寝たフリをした。
1時間くらい経っただろうか、時刻はもう12時を過ぎていた。
明日は朝早くからロードバイクで山を登る予定だと言うのに、なかなか眠れない巻島はカーテンの裾から漏れる月明かりを見ながらぼーっと考えていた。
(ひとんち、寝れないショ…)
(東堂は…寝たか…)
ほっとしたような寂しいようなそんなことを考えていると突然、背中の掛布団がめくれあがった。
「ッ?!」
「巻ちゃん、一緒に寝たい、」
寝ぼけているのか、はたまた東堂も眠れなくて来たのか、わからない。
「い、いや気持ち悪いショ」
とりあえず返事をしたが東堂は立って掛布団をめくったまま動かない。
「…」
「おい、寒いショ」
そういうと東堂が口を開いた。
「じゃあ入っていい?」
暗くて表情が見えないし寝ぼけてるのか、起きてるのか分からないので強くも言えない。
「ベッドで寝たいなら寝ろ、俺が下で寝るショ」
そう言って布団から出ようとするとガシッと手首を掴まれた。
「違う、一緒に寝たい、巻ちゃん」
「…ッ?!」
巻島は動揺した、普段からベタベタした奴ではあったし、ほぼストーカーみたいな奴だ。だけど男と一緒に寝る趣味があるようには見えなかった。返す言葉もなく座ったまま固まっていると東堂がミシッと膝で布団に入ってきた。
「と、東堂…」
「いいではないか」
多分これは寝ぼけてない。
固まっている巻島をよそに、東堂はシングルベッドに無理やり入ってきて巻島を押し倒すように寝かせる。
(おいおいまじでこいつ気持ち悪いショ…)
「よし、おやすみ巻ちゃん」
満足気な声と共に東堂も隣で横になった。
壁側に追いやられた巻島は動くことも出来ずとりあえず上を向いたままこいつがどういうつもりなのか考えようとした。
チラッと隣を見ると上を向いてるはずの東堂とバチッと目が合い慌ててそらす
「ッショ…」
「巻ちゃん、」
そういうと東堂は布団の中で巻島の手を握ってきた。異様な状況に巻島の心拍数が上がる。
「き、気持ち悪いショお前…」
━━━━━━━━━━━━━━━
「…巻ちゃん、キスしたい」
…!やっぱりこいつは寝ぼけてる。
こういう寝グセの悪いやつはどこにでもいる。
にしてもタチが悪い。ここは寝たフリで切り抜けてこいつが寝たうちに下に移動しよう。
そう考えた巻島は目をつぶって寝たフリを決め込もうとした。
すると一瞬で唇に生暖かい感触の何かが重なった。
「ッ?!?!」
「んぅ……」
びっくりして目を開けると月明かりに照らされた見たこともないような顔の東堂が虚ろな目で上から見下ろしていた。
いくら夢遊病でも性別に関わらず人を襲うのはまずい、、、が、、
(嫌じゃ…ない……)
キスされたから、か、見たことの無い東堂の顔に、かはわからない。
巻島は胸がギューッとなって目が逸らせなかった。
固まった巻島の顔の横に両手をついたままの東堂は目が合ったまま、また顔を近づけてきて唇が触れるか触れないかのところで止まって囁いてきた。
「巻ちゃん…?いいってことだよな…?」
つづく
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