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お名前をどうぞ、レディ
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「起きたか。早く支度をしろ」
「お早いですね。どこかにお出かけですか?」
クロコダイルに巻かれた海楼石の鎖を外す。
彼はだるそうに立ち上がり言葉を続けた。
「ああ、今日はナノハナに商船が立ち寄るからな。
そこで商談がある」
「商談の際は離席していた方がよろしいでしょうか?」
「いや、秘書ということにして同席しろ。
そこで生涯のパートナーとして紹介する」
「謹んで遠慮します」
なんか昨日も同じようなやり取りをした気がする。
毎日が忙しくて、結婚とか全然考えられないのに。
まったく。
右の耳がずきりと痛んだ。
昨日クロコダイルに勝手にピアスを開けられたせいだ。
何てことしてくれるのかしら。
何度目かわからないため息をついた。
「あー、美味しかった」
朝食後、二人で引っ越しクラブの背にゆられてナノハナへ向かう。
わたしは美味しい朝ご飯の余韻に浸っていた。
「そりゃよかったな。
なんならコックにも伝えてやれ。喜ぶぜ」
クロコダイルの屋敷に来てからというもの、食事にだけは不満を覚えたためしがない。
彼が雇っているコックはいつもベストなタイミングで
いつもふと、食べたくなったものを出してくれる。
今日なんてお茶漬けが出てきましたよ!!
ちゃんとワノ国風に刻んだ漬物やワサビまでついてきた。
ワノ国以外だと、自作でもしない限りめったにお目にかかれないのだ。
「そうね、お礼の一つでも伝えないとバチがあたるわね。
ついでにこんな気の利く人もそうそういないし、プロポーズの一つでもしちゃおうかしら」
「まて、今解雇してくる」
「冗談よ…」
危ない危ない。わたしの冗談一つで、気の利くコックが路頭に迷うところだった。
「ふん。くだらねえこと言うんじゃねえよ。
だいたいてめえは普段から冗談を言うタイプじゃねえから
何を言っても冗談に聞こえねえんだ」
「わたしだって冗談くらい言いますわ」
「ふん」
そうこうしている内に、ナノハナに到着する。
アルバーナやレインベース同様、喧騒につつまれたにぎやかな港町だ。
他の2つの町と違うのは、香水が有名なだけあってそこら中からさまざまな香りがすることだろうか。
町の入り口で引っ越しクラブから降りて、クロコダイルと並んで港へ向かう。
「すごい。花が一斉開花したみたいね」
「なんか買ってやろうか?」
「結構よ。わたしじゃあ、香水をつけたってすぐに血の匂いでかき消されてしまいますもの」
軍人に香水はきっと無意味だから。
どんな香水だって、この手にしみ込んだ血の匂いは拭えない。
「別にいつも戦場に出ているわけでもねえんだ。
昨日のピアスもそうだがな。
てめえはもうちっと着飾ってもいいんじゃねえか」
そこは確かにクロコダイルの言う通りで。
わたしは装飾品を一切着けない。
ネックレスやブレスレットはもちろん、マニキュアもしないし化粧も最低限だ。
「だってアクセサリーなんて邪魔じゃない?
あなたが昨日着けたピアスだって、いつ無くすかわからないし…
それに、実戦でなくとも毎日訓練してますもの。
化粧なんてすぐに剥げちゃうわ」
「カズヤ。
それなら今日一日だけでも着飾れ」
「何でです」
不満げにクロコダイルを見上げる。
「今日の用事が商談だからだ。
相手と渡り合えるくれェには身を整えろ」
「う…。わかりましたよ。
仕事……なら仕方ないですね」
てっきりいつもの思い付きかと思ったらちゃんとした理由があって引けなくなる。
そのままクロコダイル御用達の化粧品の専門店に放り込まれた。
「…いかがでしょうか」
疲れた。
非常に疲れた。
女の化粧って、なんであれもこれも塗りたくるかな。
普段の化粧の10倍くらい時間がかかって、もうそれだけでくたくただ。
「シャキッとしろ。
ほお、よくできてるじゃねえか。
いつものカズヤも悪くねえが、こうしてちゃんと化粧しているのもなかなかだな。
今度から仕事中はちゃんと最低限の化粧くらいはしとけよ。
ほら、さっきの店でてめえに使った化粧品はすべて買い取ってきたからな」
「あれを毎日…無理っす」
最低限て。
おかしいな、わたしだって最低限は化粧してたつもりなんだけど…
今度ヒナに聞いてみよう。
たしぎちゃんじゃないのは、彼女が化粧に一切興味ないのがわかっているからで。
でも実はちゃんとこれくらいしてたらどうしよう。
「何突っ立ってやがる。行くぞ」
にやにやするクロコダイルに背中をはたかれ、再度港へと進む。
喧騒が、より一層にぎやかになってきた。
「ここだ」
ある巨大な貨物船の前でクロコダイルが立ち止まる。
見上げると、商人らしい男性が手を揉みながら降りてきた。
「これはこれはクロコダイル様。
よくおいでくださいました。
遠くまでお呼びつけしてもうしわけございません。
……ところでこちらの方は?」
商人がいぶかしげにわたしを見る。
やっぱり化粧濃かったかな。
いつかクロコダイルが侍らかせていた娼婦のように思われたらどうしよう。
いざとなったらダッシュで逃げるか…
いや、証人になりかねない人物は消すか。
「こいつは秘書だ。気にしないでくれ」
「クロコダイルの秘書のカズヤと申します。
本日はよろしくお願いいたします」
ばっちり化粧をきめた自分に自信が無くて、思わずナノハナの海に飛び込むか
目の前の商人の暗殺かに迷っているとクロコダイルが助け船を出してくれた。
慌ててそれに乗っかり、笑顔でごまかす。
「おお、そうでしたか!!
さすがはクロコダイル様の秘書!!!!
お美しいですなあ。
こんな美女と並べられてしまっては、うちの娘も敵いません。
ささ、こちらへどうぞ」
ごまかされてくれたのは良かったけど…
娘?
商人の後ろについて歩きながらも、意味が解らなくて首をかしげていると
クロコダイルがそっと耳打ちした。
(こいつは娘とおれを結婚させたがっている。
だがおれはまっぴらごめんだ。
ただし直接そう言ってやると今後の商談に差し障る。
だから、てめえを横に置いて牽制に使わせてもらうぜ)
ああ、だから着飾れって言ったのか。
少し納得。
でも少し面白くない。
(せっかくの結婚のチャンスなんだから結婚すればいいじゃない)
なんて可愛くないことを言い返してみる。
(おいおい、ひでえこと言うんじゃねえよ。
おれはカズヤ以外の女に興味はねえんだ。
いきなり化粧させられて拗ねたか?)
「ちっ、違います!!!!」
「どうかなさいましたかな?」
「いや、こちらの話だ。気にするな」
商人が振り返るが、クロコダイルが取り繕った。
と同時に鉤爪で後頭部を叩かれる。
(ごめんなさい)
(何に対してだ)
(?大声を出してしまったこと?)
(他に謝らなきゃいけねえことがあるだろうがよ)
クロコダイルはハァ、と紫煙とともにわざとらしいため息をつく。
(てめえはあとでみっちりお仕置きだ)
(ええ、何ですかいきなり)
「さあ、こちらの部屋へ」
商人が扉を開き、クロコダイルとわたしは部屋へと入る。
「クロコダイル様!!!!
お久しぶりですわ!!!!
…そちらの女性は…?」
部屋にいた、商人とよく似た女性。
クロコダイルを見て一瞬笑顔になったが。わたしを見て眉をひそめる。
「クロコダイルの秘書をしております。
カズヤと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「っっ…!!!!
わたくしは、本日はお暇させていただきますわ…!!!!」
先ほどと同様に笑顔で挨拶をすると、その女性は泣きそうな顔をして
部屋を出て行ってしまった。
「こら、クレア!!!!
…クロコダイル様、大変な失礼をいたしました。
まことに申し訳ございませんが、本日は娘抜きで話をさせてくださいませ」
「構わん。さっさと始めよう」
普段からガープ中将の秘書も兼ねているため、クロコダイルの秘書のふりもそんなに大変ではなくて。
その後数人の商人や富豪らしき人々とミーティングを行った。
…秘書のふりはいいんだけど。
最初の商人の娘を筆頭に皆一様に実娘か、親戚の娘を連れてくる。
そしてそろいもそろって、わたしを見て落胆や威嚇をしてくる。
なに?
そういう風習なの?
鰐に娘を捧げる宗教なの?
遅い昼食時に、わたしは大きくため息をついた。
「ったく。何だってのよー!!!!
どいつもこいつも!!!!」
「ああ?
さすがの中将補佐官殿もお疲れか?
悪かったな連れまわして」
珍しくクロコダイルからねぎらいの言葉をかけられるが、わたしはぐったりしていた。
「あのですね。別に秘書のふりはいいんですよ。
いつもと変わりませんし。
そうじゃなくて!!あの娘たちはなんなんです?
どいつもこいつも人の顔見てため息つきくさって!!!!
なに?
そういう挨拶なの?
うあー、うっとおしいいいい!!!!」
荒れるわたしにクロコダイルが噴出した。
「クハハ、そう荒れんな。中将補佐官殿。
あいつらは単にてめえに嫉妬してるだけだ。
カズヤ、てめえはそれだけいい女ってことだ。胸を張れ」
「うー。でもいちいち威嚇されるのはやっぱり気になりますよー」
「なんだてめえも妬いてるのか?」
「違います!!!!」
「しかし、カズヤにこれ以上ふてくされられても厄介だしな。
ほら、ドルチェもう一品追加して構わねえから機嫌直せ。
この後5件はあるからな」」
「子ども扱いしないでください!!!!」
結局その後ドルチェ3品で機嫌をとられたわたしは、夜まで彼の打ち合わせに付き合った。
「しかし、クロコダイルは忙しいんですね」
夜、大きなベッドに横になってしゃべる。
クロコダイルはにはすがにあれだけ働いて、寝るときまで海楼石の鎖は悪いので
今日は海楼石の錠だけにしておく。
「いつもそう言ってるだろうが」
クロコダイルがわたしの横に腰掛けつつ、憮然として答えた。
「だっていつもマリンフォードにいらしたときは、わたしの執務室か私室で長居なさるから」
「そのために普段はこうして忙しくしてるんだ」
「わたしに会うために?」
「ああ。カズヤと過ごすために」
「…暇なんじゃない」
ストレートな彼の物言いに気恥ずかしくなって憎まれ口をたたいてしまう。
「カズヤ。てめえ、ちったあ可愛いことの一つでも言えねえのか」
呆れたようにクロコダイルが言うから、何だか悔しくて
でもかわいい言葉なんて思いつかなくて。
「かわいいことが言える女が良かったら、昼間の娘でもお呼びになればいいんだわ」
やっぱりかわいくないことを言いながらクロコダイルの方へ寝転がる。
「カズヤ」
「何ですか」
ごろんと大きく転がって、彼の脚に頭を乗せる。
そのままクロコダイルを見上げると、彼は右手で顔を隠していた。
「クロコダイル?」
「カズヤ。それは反則だ」
「かわいくないもので」
「違ェよ、バカが」
クロコダイルがてれている
クロコダイルは仲間にしてほしそうにこちらをみている
…違うか。
一人でくだらないことを考えてクスクス笑っていると、
じゃらりと錠をひきずって、クロコダイルの右手がわたしの頭を撫でる。
「変なクロコダイル」
「てめえが悪い」
「なんの話でしょう?」
「さあな」
その晩は、そのまま眠りについた。
翌朝、クロコダイルが寝不足でふらついていたのは別の話。
「お早いですね。どこかにお出かけですか?」
クロコダイルに巻かれた海楼石の鎖を外す。
彼はだるそうに立ち上がり言葉を続けた。
「ああ、今日はナノハナに商船が立ち寄るからな。
そこで商談がある」
「商談の際は離席していた方がよろしいでしょうか?」
「いや、秘書ということにして同席しろ。
そこで生涯のパートナーとして紹介する」
「謹んで遠慮します」
なんか昨日も同じようなやり取りをした気がする。
毎日が忙しくて、結婚とか全然考えられないのに。
まったく。
右の耳がずきりと痛んだ。
昨日クロコダイルに勝手にピアスを開けられたせいだ。
何てことしてくれるのかしら。
何度目かわからないため息をついた。
「あー、美味しかった」
朝食後、二人で引っ越しクラブの背にゆられてナノハナへ向かう。
わたしは美味しい朝ご飯の余韻に浸っていた。
「そりゃよかったな。
なんならコックにも伝えてやれ。喜ぶぜ」
クロコダイルの屋敷に来てからというもの、食事にだけは不満を覚えたためしがない。
彼が雇っているコックはいつもベストなタイミングで
いつもふと、食べたくなったものを出してくれる。
今日なんてお茶漬けが出てきましたよ!!
ちゃんとワノ国風に刻んだ漬物やワサビまでついてきた。
ワノ国以外だと、自作でもしない限りめったにお目にかかれないのだ。
「そうね、お礼の一つでも伝えないとバチがあたるわね。
ついでにこんな気の利く人もそうそういないし、プロポーズの一つでもしちゃおうかしら」
「まて、今解雇してくる」
「冗談よ…」
危ない危ない。わたしの冗談一つで、気の利くコックが路頭に迷うところだった。
「ふん。くだらねえこと言うんじゃねえよ。
だいたいてめえは普段から冗談を言うタイプじゃねえから
何を言っても冗談に聞こえねえんだ」
「わたしだって冗談くらい言いますわ」
「ふん」
そうこうしている内に、ナノハナに到着する。
アルバーナやレインベース同様、喧騒につつまれたにぎやかな港町だ。
他の2つの町と違うのは、香水が有名なだけあってそこら中からさまざまな香りがすることだろうか。
町の入り口で引っ越しクラブから降りて、クロコダイルと並んで港へ向かう。
「すごい。花が一斉開花したみたいね」
「なんか買ってやろうか?」
「結構よ。わたしじゃあ、香水をつけたってすぐに血の匂いでかき消されてしまいますもの」
軍人に香水はきっと無意味だから。
どんな香水だって、この手にしみ込んだ血の匂いは拭えない。
「別にいつも戦場に出ているわけでもねえんだ。
昨日のピアスもそうだがな。
てめえはもうちっと着飾ってもいいんじゃねえか」
そこは確かにクロコダイルの言う通りで。
わたしは装飾品を一切着けない。
ネックレスやブレスレットはもちろん、マニキュアもしないし化粧も最低限だ。
「だってアクセサリーなんて邪魔じゃない?
あなたが昨日着けたピアスだって、いつ無くすかわからないし…
それに、実戦でなくとも毎日訓練してますもの。
化粧なんてすぐに剥げちゃうわ」
「カズヤ。
それなら今日一日だけでも着飾れ」
「何でです」
不満げにクロコダイルを見上げる。
「今日の用事が商談だからだ。
相手と渡り合えるくれェには身を整えろ」
「う…。わかりましたよ。
仕事……なら仕方ないですね」
てっきりいつもの思い付きかと思ったらちゃんとした理由があって引けなくなる。
そのままクロコダイル御用達の化粧品の専門店に放り込まれた。
「…いかがでしょうか」
疲れた。
非常に疲れた。
女の化粧って、なんであれもこれも塗りたくるかな。
普段の化粧の10倍くらい時間がかかって、もうそれだけでくたくただ。
「シャキッとしろ。
ほお、よくできてるじゃねえか。
いつものカズヤも悪くねえが、こうしてちゃんと化粧しているのもなかなかだな。
今度から仕事中はちゃんと最低限の化粧くらいはしとけよ。
ほら、さっきの店でてめえに使った化粧品はすべて買い取ってきたからな」
「あれを毎日…無理っす」
最低限て。
おかしいな、わたしだって最低限は化粧してたつもりなんだけど…
今度ヒナに聞いてみよう。
たしぎちゃんじゃないのは、彼女が化粧に一切興味ないのがわかっているからで。
でも実はちゃんとこれくらいしてたらどうしよう。
「何突っ立ってやがる。行くぞ」
にやにやするクロコダイルに背中をはたかれ、再度港へと進む。
喧騒が、より一層にぎやかになってきた。
「ここだ」
ある巨大な貨物船の前でクロコダイルが立ち止まる。
見上げると、商人らしい男性が手を揉みながら降りてきた。
「これはこれはクロコダイル様。
よくおいでくださいました。
遠くまでお呼びつけしてもうしわけございません。
……ところでこちらの方は?」
商人がいぶかしげにわたしを見る。
やっぱり化粧濃かったかな。
いつかクロコダイルが侍らかせていた娼婦のように思われたらどうしよう。
いざとなったらダッシュで逃げるか…
いや、証人になりかねない人物は消すか。
「こいつは秘書だ。気にしないでくれ」
「クロコダイルの秘書のカズヤと申します。
本日はよろしくお願いいたします」
ばっちり化粧をきめた自分に自信が無くて、思わずナノハナの海に飛び込むか
目の前の商人の暗殺かに迷っているとクロコダイルが助け船を出してくれた。
慌ててそれに乗っかり、笑顔でごまかす。
「おお、そうでしたか!!
さすがはクロコダイル様の秘書!!!!
お美しいですなあ。
こんな美女と並べられてしまっては、うちの娘も敵いません。
ささ、こちらへどうぞ」
ごまかされてくれたのは良かったけど…
娘?
商人の後ろについて歩きながらも、意味が解らなくて首をかしげていると
クロコダイルがそっと耳打ちした。
(こいつは娘とおれを結婚させたがっている。
だがおれはまっぴらごめんだ。
ただし直接そう言ってやると今後の商談に差し障る。
だから、てめえを横に置いて牽制に使わせてもらうぜ)
ああ、だから着飾れって言ったのか。
少し納得。
でも少し面白くない。
(せっかくの結婚のチャンスなんだから結婚すればいいじゃない)
なんて可愛くないことを言い返してみる。
(おいおい、ひでえこと言うんじゃねえよ。
おれはカズヤ以外の女に興味はねえんだ。
いきなり化粧させられて拗ねたか?)
「ちっ、違います!!!!」
「どうかなさいましたかな?」
「いや、こちらの話だ。気にするな」
商人が振り返るが、クロコダイルが取り繕った。
と同時に鉤爪で後頭部を叩かれる。
(ごめんなさい)
(何に対してだ)
(?大声を出してしまったこと?)
(他に謝らなきゃいけねえことがあるだろうがよ)
クロコダイルはハァ、と紫煙とともにわざとらしいため息をつく。
(てめえはあとでみっちりお仕置きだ)
(ええ、何ですかいきなり)
「さあ、こちらの部屋へ」
商人が扉を開き、クロコダイルとわたしは部屋へと入る。
「クロコダイル様!!!!
お久しぶりですわ!!!!
…そちらの女性は…?」
部屋にいた、商人とよく似た女性。
クロコダイルを見て一瞬笑顔になったが。わたしを見て眉をひそめる。
「クロコダイルの秘書をしております。
カズヤと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「っっ…!!!!
わたくしは、本日はお暇させていただきますわ…!!!!」
先ほどと同様に笑顔で挨拶をすると、その女性は泣きそうな顔をして
部屋を出て行ってしまった。
「こら、クレア!!!!
…クロコダイル様、大変な失礼をいたしました。
まことに申し訳ございませんが、本日は娘抜きで話をさせてくださいませ」
「構わん。さっさと始めよう」
普段からガープ中将の秘書も兼ねているため、クロコダイルの秘書のふりもそんなに大変ではなくて。
その後数人の商人や富豪らしき人々とミーティングを行った。
…秘書のふりはいいんだけど。
最初の商人の娘を筆頭に皆一様に実娘か、親戚の娘を連れてくる。
そしてそろいもそろって、わたしを見て落胆や威嚇をしてくる。
なに?
そういう風習なの?
鰐に娘を捧げる宗教なの?
遅い昼食時に、わたしは大きくため息をついた。
「ったく。何だってのよー!!!!
どいつもこいつも!!!!」
「ああ?
さすがの中将補佐官殿もお疲れか?
悪かったな連れまわして」
珍しくクロコダイルからねぎらいの言葉をかけられるが、わたしはぐったりしていた。
「あのですね。別に秘書のふりはいいんですよ。
いつもと変わりませんし。
そうじゃなくて!!あの娘たちはなんなんです?
どいつもこいつも人の顔見てため息つきくさって!!!!
なに?
そういう挨拶なの?
うあー、うっとおしいいいい!!!!」
荒れるわたしにクロコダイルが噴出した。
「クハハ、そう荒れんな。中将補佐官殿。
あいつらは単にてめえに嫉妬してるだけだ。
カズヤ、てめえはそれだけいい女ってことだ。胸を張れ」
「うー。でもいちいち威嚇されるのはやっぱり気になりますよー」
「なんだてめえも妬いてるのか?」
「違います!!!!」
「しかし、カズヤにこれ以上ふてくされられても厄介だしな。
ほら、ドルチェもう一品追加して構わねえから機嫌直せ。
この後5件はあるからな」」
「子ども扱いしないでください!!!!」
結局その後ドルチェ3品で機嫌をとられたわたしは、夜まで彼の打ち合わせに付き合った。
「しかし、クロコダイルは忙しいんですね」
夜、大きなベッドに横になってしゃべる。
クロコダイルはにはすがにあれだけ働いて、寝るときまで海楼石の鎖は悪いので
今日は海楼石の錠だけにしておく。
「いつもそう言ってるだろうが」
クロコダイルがわたしの横に腰掛けつつ、憮然として答えた。
「だっていつもマリンフォードにいらしたときは、わたしの執務室か私室で長居なさるから」
「そのために普段はこうして忙しくしてるんだ」
「わたしに会うために?」
「ああ。カズヤと過ごすために」
「…暇なんじゃない」
ストレートな彼の物言いに気恥ずかしくなって憎まれ口をたたいてしまう。
「カズヤ。てめえ、ちったあ可愛いことの一つでも言えねえのか」
呆れたようにクロコダイルが言うから、何だか悔しくて
でもかわいい言葉なんて思いつかなくて。
「かわいいことが言える女が良かったら、昼間の娘でもお呼びになればいいんだわ」
やっぱりかわいくないことを言いながらクロコダイルの方へ寝転がる。
「カズヤ」
「何ですか」
ごろんと大きく転がって、彼の脚に頭を乗せる。
そのままクロコダイルを見上げると、彼は右手で顔を隠していた。
「クロコダイル?」
「カズヤ。それは反則だ」
「かわいくないもので」
「違ェよ、バカが」
クロコダイルがてれている
クロコダイルは仲間にしてほしそうにこちらをみている
…違うか。
一人でくだらないことを考えてクスクス笑っていると、
じゃらりと錠をひきずって、クロコダイルの右手がわたしの頭を撫でる。
「変なクロコダイル」
「てめえが悪い」
「なんの話でしょう?」
「さあな」
その晩は、そのまま眠りについた。
翌朝、クロコダイルが寝不足でふらついていたのは別の話。