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お名前をどうぞ、レディ
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「今日はアルバーナで国王への謁見がある」
「謁見?」
「ああ、おれはアラバスタの英雄だからな。
そういうのも英雄の仕事だ」
わずかに、面倒だ、という風にクロコダイルは言う。
そうか、そういうことしてるんだ。
「それって、わたしは外した方がいいかしら」
「いや、一緒にこい。
…離れるわけにはいかねえだろ」
「…なんで?」
「てめえになにかあったらどうする」
「父親か。
もう。わたしがここにきてまだ3日じゃないですか。
今からそんなんじゃ、わたしがマリンフォードに帰るときどうするんです」
「帰らせねえよ」
「……シャワー浴びてきます」
勝手なことを言うクロコダイルを寝室に放置してシャワーを浴びる。
しかし、本当にこんなに依存されていたら帰るのが大変だ。
いや、帰ったあとの方が大変かもしれない。
でも。
本当は。
依存してるのも、大変なのは
……わたしかもしれない。
「なに、ひでえ顔してやがる」
「なんでもないです」
引っ越しクラブの背中に乗ってアルバーナへの移動中、
隣にすわるクロコダイルに鉤爪でコツンと叩かれる。
実はクロコダイルと離れるのが寂しいことに気が付いて
うろたえていただなんて、口が裂けても言えない。
「ふむ。
おれと離れることでも考えて寂しくなったか」
なんで、こんなときだけ鋭いかな…
「…もし、そうならどうします?」
真顔で問うと、一瞬、クロコダイルが停止する。
それから即座に答える。
「帰さねえ」
「そうですか」
でも、きっとわたしは帰るんだろうな。
それで帰ってから、どうするのが1番自分にとって良かったのか考える。
ベッドでジタバタあがくんだろう。
そんなことしたって、何の意味もないってわかっていながらも
他の方法なんて取れないんだろう。
「おい」
がつん
「っ、痛いですよ」
気がついたらクロコダイルがジト目で睨んでいた。
「帰るときのことなんか考えるんじゃねえよ。
今、目の前にいるおれのことを考えやがれ」
「ばか」
「あん……?」
わずかに涙目で答えるわたしにクロコダイルは何かを察したのか、その大きいコートでわたしを隠す。
「クロコダイル?」
「年なんだ。日焼けするとシミになるぞ」
コートの中、右手でギュッと肩を抱き寄せられた。
「…バカ」
アルバーナの王宮へ着くまで、わたしたちは無言のままだった。
アルバーナへ到着してからは歩いて王宮へ向かう。
すると、あちらこちらから歓声が聞こえてくる。
「クロコダイル様だ!」
「アラバスタの英雄がいらしたぞー」
「ああ、今日も素敵ー!!」
「モテモテですね、クロコダイル」
「なんだ、妬いてんのか」
「いいえ、まさか」
昨日に引き続き、わたしの知らないクロコダイルを見せ付けられて少し面白くないのは事実だけど。
それを素直に口に出すのは悔しくて、思わず憎まれ口を叩いてしまう。
クロコダイルはわずかに眉をしかめると、一瞬耳打ちする。
「おれはカズヤ一筋だ」
「っっっ!!!?」
思わず赤面して飛びのいてしまう。
いきなり何を言い出すんだ、この人は。
「ほら、シャキッとしろ」
クロコダイルに背中をはたかれ、前へと進む。
少し元気が出たのは黙っていよう。
きっと彼は気づいてる。
しばらく歩くと、目の前に大きな城門が見えてきた。
クロコダイルが二言目三言声をかけると門が開く。
国が海賊に対してこんなにも無防備でいいのかと、若干不安になる早さだ。
「よく来たな。クロコダイル」
「調子はどうだ、コブラ」
「思わしくはない。
ところで、そちらのお嬢さんは?」
「嫁
「お初にお目にかかります。
海軍本部中将補佐官カズサと申します。
ただいま世界政府の命にて、王下七武海の監査をおこなっております。
急な訪問、ご無礼申し上げます」
「そうか。よくいらした。
クロコダイルには日々世話になっている。
そう、報告書に付け加えておいてくれ」
「承りました」
感じのいい人だ。
国が栄えているのもよく解る。
でも。
これは昨日も感じた違和感。
こんなにクロコダイルに信頼を寄せてるの、おかしくない?
昨日も思った通り、わたし個人はクロコダイルのこと結構気に入っている。
だけどそれはあくまでわたし個人の話。
海軍本部中将補佐官として、七武海の彼を信用しているかと言えばノーだ。
だってクロコダイルだよ?
こんないかにも悪役面して英雄?
国として、そんな信用するには、彼は嘘くさすぎる。
ここ三日ほど彼を見ていて気が付いた。
わたしと遊んでいる時の彼の顔と、英雄面している時の彼の顔の違い。
前者についてはまあいい。
問題は後者だ。
先日たしぎちゃんが言っていたとおりだ。
薄っぺらくて、嘘くさくて、作り物めいた笑顔。
なんで。
なんでこの国の民衆は、国王は、それに気が付かないんだろう。
クロコダイルが狡い笑顔で社交辞令をかわして謁見は終わった。
「誰が嫁ですか、誰が」
アルバーナにあるしゃれたレストランにて、わたしとクロコダイルは昼食をとっている。
先ほどの違和感はさておき、クロコダイルの言いかけた妄言についてわたしは彼を問い詰めていた。
クロコダイルは機嫌を損ねたらしく、眉間にしわを寄せている。
「てめえ以外にあの場に誰がいた」
「そういう問題じゃないです。
わたしがいつあなたの嫁になりましたか」
「将来的にはそうなるんだ。構わねえじゃねえか」
「そんな予定はございません」
はあ、とため息をついてみせるが、クロコダイルも譲らない。
「おれは、てめえ以外の女を嫁にする気はねえんだよ」
「わたしはあなたの嫁になる気はありませんが」
「他所に男がいるのか」
「妙な言い方しないでくださいよ。わたしが浮気しているみたいじゃないですか」
「してるのか」
「してません!!!!」
わたしがそう怒鳴ったとたんにクロコダイルがニヤニヤする。
しまった。
これじゃわたしがクロコダイル一筋みたいではないか。
「あー、もう!!
そうじゃなくて!!!!
他に男がいるとかそういうことはないけど、
だからってあなたと結婚するとかそういう事でもありません!!!!」
「おれのどこが不満なんだ」
「不満とかそうじゃなくて…
だいたい付き合ってもいないのにいきなり結婚とか飛躍しすぎですよ」
「てめえ、意外とウブなんだな」
「うっさい!!!!」
昼食後、再び引っ越しクラブにゆられてレインベースへ戻る。
「そういえば、途中で買い物してらっしゃいましたよね。
なにを買われたんです?」
「知りてえか」
「いえ、嫌な予感しかしないので結構です」
なぜ含みを持たすかな。
不安になるのでやめていただきたい。
「じきにわかることだ」
「そう、不安をあおるようなこと言わないでくださいよ…」
レインベースに戻ったわたしたちは、例のごとく仕事をすべく
すぐさまクロコダイルの執務室に移動する。
「カズヤ、こっちにこい」
「はい、はーい」
わたしの仕事場と化している応接セットにて、
本日のクロコダイル観察日記(わたし命名)を書こうとしていると椅子に座ったクロコダイルに呼ばれた。
「なんでしょう?」
「そこじゃねえ。こっちだ」
クロコダイルの机の前に行ったのがお気に召さなかったらしい。
鉤爪で彼の左のスペースを指す。
素直に従うと、例によっていきなり抱き寄せられた。
「ちょ、クロコダイル!?
いきなりなんですか。苦しいですって」
「うるせえ。ほら、あっち向け」
抱きついてきたかと思えば、強制的に反対を向かされ
またも抱き寄せられる。
「なんですかー?」
「じっとしてろ」
「?
……っ!!!?」
右側の髪をかきあげられ、耳元で何かやっていると思ったら唐突に右耳に痛みが走った。
「いっ、痛い!!!!
なに!?
何するの!!!?」
「ピアスだ」
「はあ!!!?」
右耳がじんじんと痛む。
違和感のある右耳に触れると、いつもより熱を持ったそこには慣れない何かが着いていた。
「何するんですか…」
「所有権の証だ」
「はあ…?」
わたしの抵抗なんてまるで無視してクロコダイルはニヤニヤと後ろから抱きすくめる。
「もう、なんですか!!!?」
「てめえはさっきからそればかりだな」
「他に言葉が出てこないんです!!」
「なんだ。照れてるのか。
そいつは、さっきアルバーナで買ったやつだ。
鏡見てみろ」
渡された手鏡を見てみると、確かに黒い石をメインにした
シンプルなピアスがわたしの右耳に光っている。
「片耳だけなんですか?」
「おねだりか」
「いえ、純粋な疑問です。
だから迫らないで!!」
後ろから覗き込むように顔を近づけるクロコダイルを両手で押しのけた。
「クハハ、そう照れるな。
反対側のピアスはおれが預かっててやる」
「…預かるってなんですか…」
「いつかおれの野望が達成されたとき、そしててめえがおれのものになったときに
反対側の耳につけてやる。
だから勝手に左耳に穴開けるんじゃねえぞ」
「うわあ、横暴ですね」
「何か問題があるか」
「…はあ。何にもございませんよ。
開いちゃったもんは開いちゃったんだし…
もう、ガープ中将になんて言い訳しよう」
言いながらクロコダイルから離れる。
クロコダイルのものになる予定なんてない、ということについてはそっと言うのを保留した。
ここに来てからのわたしはどうかしてる。
完全にクロコダイルの良いようにされていて
それでも抵抗をする気になれない。
ガープ中将の言うとおりだ。
"ほだされるなよ"
ごめんなさい。ガープ中将。
わたし今、かなりほだされてます。
「はあ」
わたしの定位置となりつつある、応接セットのソファに腰を下ろした。
「どうした。拗ねたか」
「仕事するんですよ」
情けない顔をしているだろうから
顔を上げずに答えた。
「20時になったら夕飯に行くぞ」
「承知しましたわ」
何かこうやって無駄な抵抗してるのも、夜になったら彼を海楼石の鎖で括るのも
すべて彼の掌の上で転がされた結果に過ぎないような気がしてきた。
クロコダイルが許せる程度の反抗の範疇でしかないっていう感じ。
ダメだダメだ。
止めよう。
仕事しよう。
とめどない考えを脇に追いやって、わたしは仕事を始めた。
クロコダイルがその様を面白そうに眺めているなんて気づきもせずに。
「謁見?」
「ああ、おれはアラバスタの英雄だからな。
そういうのも英雄の仕事だ」
わずかに、面倒だ、という風にクロコダイルは言う。
そうか、そういうことしてるんだ。
「それって、わたしは外した方がいいかしら」
「いや、一緒にこい。
…離れるわけにはいかねえだろ」
「…なんで?」
「てめえになにかあったらどうする」
「父親か。
もう。わたしがここにきてまだ3日じゃないですか。
今からそんなんじゃ、わたしがマリンフォードに帰るときどうするんです」
「帰らせねえよ」
「……シャワー浴びてきます」
勝手なことを言うクロコダイルを寝室に放置してシャワーを浴びる。
しかし、本当にこんなに依存されていたら帰るのが大変だ。
いや、帰ったあとの方が大変かもしれない。
でも。
本当は。
依存してるのも、大変なのは
……わたしかもしれない。
「なに、ひでえ顔してやがる」
「なんでもないです」
引っ越しクラブの背中に乗ってアルバーナへの移動中、
隣にすわるクロコダイルに鉤爪でコツンと叩かれる。
実はクロコダイルと離れるのが寂しいことに気が付いて
うろたえていただなんて、口が裂けても言えない。
「ふむ。
おれと離れることでも考えて寂しくなったか」
なんで、こんなときだけ鋭いかな…
「…もし、そうならどうします?」
真顔で問うと、一瞬、クロコダイルが停止する。
それから即座に答える。
「帰さねえ」
「そうですか」
でも、きっとわたしは帰るんだろうな。
それで帰ってから、どうするのが1番自分にとって良かったのか考える。
ベッドでジタバタあがくんだろう。
そんなことしたって、何の意味もないってわかっていながらも
他の方法なんて取れないんだろう。
「おい」
がつん
「っ、痛いですよ」
気がついたらクロコダイルがジト目で睨んでいた。
「帰るときのことなんか考えるんじゃねえよ。
今、目の前にいるおれのことを考えやがれ」
「ばか」
「あん……?」
わずかに涙目で答えるわたしにクロコダイルは何かを察したのか、その大きいコートでわたしを隠す。
「クロコダイル?」
「年なんだ。日焼けするとシミになるぞ」
コートの中、右手でギュッと肩を抱き寄せられた。
「…バカ」
アルバーナの王宮へ着くまで、わたしたちは無言のままだった。
アルバーナへ到着してからは歩いて王宮へ向かう。
すると、あちらこちらから歓声が聞こえてくる。
「クロコダイル様だ!」
「アラバスタの英雄がいらしたぞー」
「ああ、今日も素敵ー!!」
「モテモテですね、クロコダイル」
「なんだ、妬いてんのか」
「いいえ、まさか」
昨日に引き続き、わたしの知らないクロコダイルを見せ付けられて少し面白くないのは事実だけど。
それを素直に口に出すのは悔しくて、思わず憎まれ口を叩いてしまう。
クロコダイルはわずかに眉をしかめると、一瞬耳打ちする。
「おれはカズヤ一筋だ」
「っっっ!!!?」
思わず赤面して飛びのいてしまう。
いきなり何を言い出すんだ、この人は。
「ほら、シャキッとしろ」
クロコダイルに背中をはたかれ、前へと進む。
少し元気が出たのは黙っていよう。
きっと彼は気づいてる。
しばらく歩くと、目の前に大きな城門が見えてきた。
クロコダイルが二言目三言声をかけると門が開く。
国が海賊に対してこんなにも無防備でいいのかと、若干不安になる早さだ。
「よく来たな。クロコダイル」
「調子はどうだ、コブラ」
「思わしくはない。
ところで、そちらのお嬢さんは?」
「嫁
「お初にお目にかかります。
海軍本部中将補佐官カズサと申します。
ただいま世界政府の命にて、王下七武海の監査をおこなっております。
急な訪問、ご無礼申し上げます」
「そうか。よくいらした。
クロコダイルには日々世話になっている。
そう、報告書に付け加えておいてくれ」
「承りました」
感じのいい人だ。
国が栄えているのもよく解る。
でも。
これは昨日も感じた違和感。
こんなにクロコダイルに信頼を寄せてるの、おかしくない?
昨日も思った通り、わたし個人はクロコダイルのこと結構気に入っている。
だけどそれはあくまでわたし個人の話。
海軍本部中将補佐官として、七武海の彼を信用しているかと言えばノーだ。
だってクロコダイルだよ?
こんないかにも悪役面して英雄?
国として、そんな信用するには、彼は嘘くさすぎる。
ここ三日ほど彼を見ていて気が付いた。
わたしと遊んでいる時の彼の顔と、英雄面している時の彼の顔の違い。
前者についてはまあいい。
問題は後者だ。
先日たしぎちゃんが言っていたとおりだ。
薄っぺらくて、嘘くさくて、作り物めいた笑顔。
なんで。
なんでこの国の民衆は、国王は、それに気が付かないんだろう。
クロコダイルが狡い笑顔で社交辞令をかわして謁見は終わった。
「誰が嫁ですか、誰が」
アルバーナにあるしゃれたレストランにて、わたしとクロコダイルは昼食をとっている。
先ほどの違和感はさておき、クロコダイルの言いかけた妄言についてわたしは彼を問い詰めていた。
クロコダイルは機嫌を損ねたらしく、眉間にしわを寄せている。
「てめえ以外にあの場に誰がいた」
「そういう問題じゃないです。
わたしがいつあなたの嫁になりましたか」
「将来的にはそうなるんだ。構わねえじゃねえか」
「そんな予定はございません」
はあ、とため息をついてみせるが、クロコダイルも譲らない。
「おれは、てめえ以外の女を嫁にする気はねえんだよ」
「わたしはあなたの嫁になる気はありませんが」
「他所に男がいるのか」
「妙な言い方しないでくださいよ。わたしが浮気しているみたいじゃないですか」
「してるのか」
「してません!!!!」
わたしがそう怒鳴ったとたんにクロコダイルがニヤニヤする。
しまった。
これじゃわたしがクロコダイル一筋みたいではないか。
「あー、もう!!
そうじゃなくて!!!!
他に男がいるとかそういうことはないけど、
だからってあなたと結婚するとかそういう事でもありません!!!!」
「おれのどこが不満なんだ」
「不満とかそうじゃなくて…
だいたい付き合ってもいないのにいきなり結婚とか飛躍しすぎですよ」
「てめえ、意外とウブなんだな」
「うっさい!!!!」
昼食後、再び引っ越しクラブにゆられてレインベースへ戻る。
「そういえば、途中で買い物してらっしゃいましたよね。
なにを買われたんです?」
「知りてえか」
「いえ、嫌な予感しかしないので結構です」
なぜ含みを持たすかな。
不安になるのでやめていただきたい。
「じきにわかることだ」
「そう、不安をあおるようなこと言わないでくださいよ…」
レインベースに戻ったわたしたちは、例のごとく仕事をすべく
すぐさまクロコダイルの執務室に移動する。
「カズヤ、こっちにこい」
「はい、はーい」
わたしの仕事場と化している応接セットにて、
本日のクロコダイル観察日記(わたし命名)を書こうとしていると椅子に座ったクロコダイルに呼ばれた。
「なんでしょう?」
「そこじゃねえ。こっちだ」
クロコダイルの机の前に行ったのがお気に召さなかったらしい。
鉤爪で彼の左のスペースを指す。
素直に従うと、例によっていきなり抱き寄せられた。
「ちょ、クロコダイル!?
いきなりなんですか。苦しいですって」
「うるせえ。ほら、あっち向け」
抱きついてきたかと思えば、強制的に反対を向かされ
またも抱き寄せられる。
「なんですかー?」
「じっとしてろ」
「?
……っ!!!?」
右側の髪をかきあげられ、耳元で何かやっていると思ったら唐突に右耳に痛みが走った。
「いっ、痛い!!!!
なに!?
何するの!!!?」
「ピアスだ」
「はあ!!!?」
右耳がじんじんと痛む。
違和感のある右耳に触れると、いつもより熱を持ったそこには慣れない何かが着いていた。
「何するんですか…」
「所有権の証だ」
「はあ…?」
わたしの抵抗なんてまるで無視してクロコダイルはニヤニヤと後ろから抱きすくめる。
「もう、なんですか!!!?」
「てめえはさっきからそればかりだな」
「他に言葉が出てこないんです!!」
「なんだ。照れてるのか。
そいつは、さっきアルバーナで買ったやつだ。
鏡見てみろ」
渡された手鏡を見てみると、確かに黒い石をメインにした
シンプルなピアスがわたしの右耳に光っている。
「片耳だけなんですか?」
「おねだりか」
「いえ、純粋な疑問です。
だから迫らないで!!」
後ろから覗き込むように顔を近づけるクロコダイルを両手で押しのけた。
「クハハ、そう照れるな。
反対側のピアスはおれが預かっててやる」
「…預かるってなんですか…」
「いつかおれの野望が達成されたとき、そしててめえがおれのものになったときに
反対側の耳につけてやる。
だから勝手に左耳に穴開けるんじゃねえぞ」
「うわあ、横暴ですね」
「何か問題があるか」
「…はあ。何にもございませんよ。
開いちゃったもんは開いちゃったんだし…
もう、ガープ中将になんて言い訳しよう」
言いながらクロコダイルから離れる。
クロコダイルのものになる予定なんてない、ということについてはそっと言うのを保留した。
ここに来てからのわたしはどうかしてる。
完全にクロコダイルの良いようにされていて
それでも抵抗をする気になれない。
ガープ中将の言うとおりだ。
"ほだされるなよ"
ごめんなさい。ガープ中将。
わたし今、かなりほだされてます。
「はあ」
わたしの定位置となりつつある、応接セットのソファに腰を下ろした。
「どうした。拗ねたか」
「仕事するんですよ」
情けない顔をしているだろうから
顔を上げずに答えた。
「20時になったら夕飯に行くぞ」
「承知しましたわ」
何かこうやって無駄な抵抗してるのも、夜になったら彼を海楼石の鎖で括るのも
すべて彼の掌の上で転がされた結果に過ぎないような気がしてきた。
クロコダイルが許せる程度の反抗の範疇でしかないっていう感じ。
ダメだダメだ。
止めよう。
仕事しよう。
とめどない考えを脇に追いやって、わたしは仕事を始めた。
クロコダイルがその様を面白そうに眺めているなんて気づきもせずに。