with you
お名前をどうぞ、レディ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
さてどうしようか。
あなたに伝えたいことはたくさんあるけれど、言葉が巧く出てこない。
「考え事とは余裕だなカズヤ」
「ごめんなさい、あなたに伝える言葉を探していたのよ」
「ほう?しかし今はそれを考える時じゃねえな」
そう言って、クロコダイルの鋭い回し蹴りが飛んでくる。
なんとか左腕で勢いを殺して右に飛ぶ。
砂が反対から向かってくるのをしゃがんで回避。
今は、そう、クロコダイルとわたしとで組手中。
もはや組手なんて言えるレベルではないけど、それでもこれはあくまで組手なのだ。
「今のを躱すか。だが、まだまだだ」
クロコダイルの右手がわたしの頭を狙う。
逆にその腕をつかんでジャンプ。
くるっと回って踵落とし。
鉤爪でガードされるが更に宙に飛んでもう一度踵を落とす。
そんなこんなで互いに汗だくになるまで組手は続いた。
「で?おれとの組手中にまで考えちまう言葉とはなんだ?」
「なんてことないわ。先ほど言ったとおり、あなたに伝える言葉を探していたのよ。
好きとか愛してるとかじゃなくて、もっとこう特別な言葉を探していたの」
「わざわざ組手中に考える事か」
「あれを組手と呼ぶのはいささか抵抗があるのだけれど、まあいいわ。
ふと思いついただけよ。考えだしたら止まらなくなってしまったの」
ばさりと髪を払う。
クロコダイルに伝えたいこと。
どれだけわたしが貴方を愛しているかとか。
どれだけ貴方が隣にいてくれることが幸せかとか。
どれだけ、どれだけ。
「でも考えても考えても大した言葉は出てこないのよね。わたしの語彙力の無さが情けないわ」
「カズヤの言葉数はそれなりに多い方だと思うがな。
言葉に出来ねえことはわざわざ言葉にする必要がねえんだよ。
そんなもの、言われなくたってわかってる」
「それでも言葉にしたいのが女の子なのよ」
「……」
ジト目で見るのはやめてほしい。
わたしとて自分が女の子という年でないことはわかっている。
「カズヤが『女の子』かどうかは置いておくが、以心伝心という言葉を知らねえのか?」
「知っているけれど」
「なら問題ねえな。風呂行くぞ」
なんにも解決してないんだけれど。
まあクロコダイルもそう口数が多いわけでもないしね。
ダズもたいしてしゃべらないから男というのはそういう生き物なのだろうか。
そういえばスモーカーくんや犬っころもそんなもんだったしなあ。
もはや一緒に入ることがあたりまえになっているお風呂へと向かう。
前はクロコダイルは湯船に浸かるのを嫌がっていたが、最近は文句を言わなくなった。
むしろ彼の方から湯船に浸かることを誘うようになった。
なんていうか、懐柔されてる? 日和ってる? 大丈夫かしら。
「カズヤ。てめえが失礼なことを考えているのもわかってるからな」
「あら、バレた?」
「別に懐柔されてるわけでも日和ってるわけでもねえよ。てめえの体を見るのが悪くねえってだけだ」
「……これだから男は」
「そういうものだろう。あとはそうだな、おれが戦えなくてもカズヤとダズがなんとかするだろう」
それは、信頼されているということなのかしら。
嬉しいような、そこはかとなく不安なような。
その不安も巧く言葉に出来ない。
「てめえはおれが弱くなったとでも思ってるんじゃねえのか」
「ああ、それ。そうねきっと」
「ちったあ言葉を慎みやがれ。弱っちゃいねえよ。さっきの組手で理解しなかったか?」
「そうねえ。たしかに貴方は相変わらず強かったけれど。
それはそれとして、心の部分で軟になったりしてないかどうかが不安だわ」
前は誰ひとり信用も信頼もしていなかったのに。
それが彼の強さだと思っていたのに。
「幻滅したか」
「そんなことは……ないとは言えないのかもしれない」
「てめえは本当に言葉を選ばねえな。強さの方向性が変わっただけだ。それはカズヤもそうだと思っていたんだがな」
「わたしも? そう、なのかしら」
強さの方向性。
それはつまり守るものがあると強くなるとかそういうことかしら。
クロコダイルは守る対象ではないし、わたしとて彼に守られる気はない。
とはいえ気にかけながら戦っているのも事実だ。
おそらくダズもそうだろうし。
仲間と戦うってそういうものよね。
あれ、でも。
わたしは昔は一人で戦ってなかったっけ?
最初は、最初は妹と二人で戦ってた。それが海軍に入ってから一人で戦うようになった。
それがクロコダイルと一緒になって、また誰かに背中を預けて戦っている。
「わたしも、弱くなったのかしら」
「さあな。自分で考えろ」
ばしゃりとクロコダイルは湯船から上がって髪を洗い始めた。
それをぼんやりと眺める。
戦闘面で弱くなったつもりはない。むしろ海軍時代よりずっと強くなっていると自負している。
クロコダイルもそれは同じはず。
でも互いに一人じゃ戦えなくなった。
「うーん」
「ふん。なにも一人で戦えることだけが強いってことじゃねえんだよ。昔のおれも、今のカズヤも同じ勘違いをしてるってこった」
「……もうちょっと考えてみるわ」
「そうしろ。考えるだけ考えたら答え合わせしてやる」
ふふん、となぜか機嫌のいいクロコダイル。
わっかんないなあ。
きっとわたしが自分で答えを見つけなくてはいけないことなのだろう。
もうしばらく、答え合わせは先になりそうだ。
あなたに伝えたいことはたくさんあるけれど、言葉が巧く出てこない。
「考え事とは余裕だなカズヤ」
「ごめんなさい、あなたに伝える言葉を探していたのよ」
「ほう?しかし今はそれを考える時じゃねえな」
そう言って、クロコダイルの鋭い回し蹴りが飛んでくる。
なんとか左腕で勢いを殺して右に飛ぶ。
砂が反対から向かってくるのをしゃがんで回避。
今は、そう、クロコダイルとわたしとで組手中。
もはや組手なんて言えるレベルではないけど、それでもこれはあくまで組手なのだ。
「今のを躱すか。だが、まだまだだ」
クロコダイルの右手がわたしの頭を狙う。
逆にその腕をつかんでジャンプ。
くるっと回って踵落とし。
鉤爪でガードされるが更に宙に飛んでもう一度踵を落とす。
そんなこんなで互いに汗だくになるまで組手は続いた。
「で?おれとの組手中にまで考えちまう言葉とはなんだ?」
「なんてことないわ。先ほど言ったとおり、あなたに伝える言葉を探していたのよ。
好きとか愛してるとかじゃなくて、もっとこう特別な言葉を探していたの」
「わざわざ組手中に考える事か」
「あれを組手と呼ぶのはいささか抵抗があるのだけれど、まあいいわ。
ふと思いついただけよ。考えだしたら止まらなくなってしまったの」
ばさりと髪を払う。
クロコダイルに伝えたいこと。
どれだけわたしが貴方を愛しているかとか。
どれだけ貴方が隣にいてくれることが幸せかとか。
どれだけ、どれだけ。
「でも考えても考えても大した言葉は出てこないのよね。わたしの語彙力の無さが情けないわ」
「カズヤの言葉数はそれなりに多い方だと思うがな。
言葉に出来ねえことはわざわざ言葉にする必要がねえんだよ。
そんなもの、言われなくたってわかってる」
「それでも言葉にしたいのが女の子なのよ」
「……」
ジト目で見るのはやめてほしい。
わたしとて自分が女の子という年でないことはわかっている。
「カズヤが『女の子』かどうかは置いておくが、以心伝心という言葉を知らねえのか?」
「知っているけれど」
「なら問題ねえな。風呂行くぞ」
なんにも解決してないんだけれど。
まあクロコダイルもそう口数が多いわけでもないしね。
ダズもたいしてしゃべらないから男というのはそういう生き物なのだろうか。
そういえばスモーカーくんや犬っころもそんなもんだったしなあ。
もはや一緒に入ることがあたりまえになっているお風呂へと向かう。
前はクロコダイルは湯船に浸かるのを嫌がっていたが、最近は文句を言わなくなった。
むしろ彼の方から湯船に浸かることを誘うようになった。
なんていうか、懐柔されてる? 日和ってる? 大丈夫かしら。
「カズヤ。てめえが失礼なことを考えているのもわかってるからな」
「あら、バレた?」
「別に懐柔されてるわけでも日和ってるわけでもねえよ。てめえの体を見るのが悪くねえってだけだ」
「……これだから男は」
「そういうものだろう。あとはそうだな、おれが戦えなくてもカズヤとダズがなんとかするだろう」
それは、信頼されているということなのかしら。
嬉しいような、そこはかとなく不安なような。
その不安も巧く言葉に出来ない。
「てめえはおれが弱くなったとでも思ってるんじゃねえのか」
「ああ、それ。そうねきっと」
「ちったあ言葉を慎みやがれ。弱っちゃいねえよ。さっきの組手で理解しなかったか?」
「そうねえ。たしかに貴方は相変わらず強かったけれど。
それはそれとして、心の部分で軟になったりしてないかどうかが不安だわ」
前は誰ひとり信用も信頼もしていなかったのに。
それが彼の強さだと思っていたのに。
「幻滅したか」
「そんなことは……ないとは言えないのかもしれない」
「てめえは本当に言葉を選ばねえな。強さの方向性が変わっただけだ。それはカズヤもそうだと思っていたんだがな」
「わたしも? そう、なのかしら」
強さの方向性。
それはつまり守るものがあると強くなるとかそういうことかしら。
クロコダイルは守る対象ではないし、わたしとて彼に守られる気はない。
とはいえ気にかけながら戦っているのも事実だ。
おそらくダズもそうだろうし。
仲間と戦うってそういうものよね。
あれ、でも。
わたしは昔は一人で戦ってなかったっけ?
最初は、最初は妹と二人で戦ってた。それが海軍に入ってから一人で戦うようになった。
それがクロコダイルと一緒になって、また誰かに背中を預けて戦っている。
「わたしも、弱くなったのかしら」
「さあな。自分で考えろ」
ばしゃりとクロコダイルは湯船から上がって髪を洗い始めた。
それをぼんやりと眺める。
戦闘面で弱くなったつもりはない。むしろ海軍時代よりずっと強くなっていると自負している。
クロコダイルもそれは同じはず。
でも互いに一人じゃ戦えなくなった。
「うーん」
「ふん。なにも一人で戦えることだけが強いってことじゃねえんだよ。昔のおれも、今のカズヤも同じ勘違いをしてるってこった」
「……もうちょっと考えてみるわ」
「そうしろ。考えるだけ考えたら答え合わせしてやる」
ふふん、となぜか機嫌のいいクロコダイル。
わっかんないなあ。
きっとわたしが自分で答えを見つけなくてはいけないことなのだろう。
もうしばらく、答え合わせは先になりそうだ。
117/117ページ