with you
お名前をどうぞ、レディ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「よお、ガープ」
「ふん、クロコダイルか」
サー・クロコダイルとの出会いはマリンフォードだった。
そのときわたしはガープ中将に拾われて、中将補佐として海軍に入ってしばらくたっていた。
ようやくまともに武装色の覇気を使えこなせるようになり、
一人で海賊船1船くらいなら容易く落とせるようになっていた。
とはいえまだまだ研鑽中。
日々ガープ中将のもとで鍛錬に励んでいた。
そんなわたしの目の前に現れた大男。
ガラの悪いオールバック。
ガラの悪い葉巻。
ガラの悪いスタイル。
そして性格の悪そうな目つき。
それがサー・クロコダイルの最初の印象。
関わったら最後、碌な目に会いそうにない。
顔や体格は悪くないけど何か狡いものを感じる。
それが何故か不愉快に感じない自分が怪しい。
ニヤニヤとガープ中将に声をかける彼は、
ガープ中将の後ろに隠れるように佇んでいるわたしに視線を流した。
「ほお、テメェが女連れたあ珍しいな」
ジロリと狡い眼差しが、すばやくガープ中将の影に隠れたわたしを射抜く。
関わったら良くないことになりそうなのは解っていたはずなのだけど
わたしは彼の目の前に立ちたくなってしまった。
ガープ中将の前に出る。
「お初にお目にかかります。サー・クロコダイル。
ガープ中将補佐、カズヤと申します」
ニコリと笑顔で恭しく挨拶する。
「カズヤ、ねえ」
「以後お見知りおきを」
「イイ女、囲ってんなあ。ガープ」
ニタニタとわたしを舐め回す様に眺める、サー・クロコダイル。
その気味の悪い視線が悪くなかったと思うのは今更だからか。
目つきは悪いし、その奥に何を企んでいるのか想像できなかったけど
なんとなく気が合うような気さえしてしまった。
「ふん、こんな小娘囲うほど暇じゃねえさ」
「へぇ。
確かに、ちっこい割にはよく鍛えられてんじぇねえか。
てめえなんかの補佐官にしなくたって、十分大佐クラスで戦えそうだ」
「こいつは海軍に入って日が浅いからな。
それだけだ。
元帥が呼んでいる。とっとと行け、クロコダイル」
「クハハ。また会おうぜ、カズヤ」
サー・クロコダイルは踵を返し、去っていった。
たった一目見ただけなのに、なんであんなにも見透かしたようなことを言うのだろう。
「あいつは、王下七武海の一角。クロコダイルだ」
「…碌な人間じゃなさそうですね」
「そのとおりじゃ。あれにあまり関わるな」
ガープ中将の注意は言われなくてもわかっていた。
怪しさも、胡散臭さも十分だ。
しかし、現実はそうもいかなかった。
サー・クロコダイルを見送ってから3時間後、わたしはガープ中将といつもの鍛錬に励んでいた。
ガープ中将なかなかにいい年なのに、まったくの衰えが見えない。
怪物だ。
中将の張り手にわたしは易々とふっ飛ばされる。
「まだまだじゃの、カズヤ」
「ガープ中将が強いんですよ!!」
拳を構える中将に再度突撃。
振り上げられた拳をなんとか回避して中将の脇腹に渾身の回し蹴りを入れる。
「少しは効いてくださいよ…」
中将はぐらりともしないた。そもそも体格差がありすぎる。
蹴りを入れた足をわし掴まれてまたもや投げ飛ばされた。
受け身も取れず、砂埃まみれで地面に転がる。
何とか立ち上がると、ガープ中将は楽しげに仁王立ちしている。
「ぶわっはっはっ。今のが攻撃のつもりか?
情けないのう。ただ当てるだけを攻撃とは言わんぞい。
攻撃とは、こういうことを言うのじゃ」
「うぶっ」
突撃してきた中将をわたしが避けられるわけもなく、腹にきつい拳を受けた。
しかし、毎回毎回同じ攻撃を食らっているのだ。
わたしとて学ぶ。
吐きそうになるのをなんとか堪えて腹にめり込んだままの拳を両手で引っ掴む。
「ほう」
「うらあっ!!!!」
中将の拳を軸にバク転かまして、その頭に踵落としを入れる。
そのままガ中将の後ろに飛び降り、振り向きざまに背中に肘を叩き込む。
そこでようやく中将がぐらりと前につんのめった。
「ふむ、ちったあマシになったか」
「ここまでやって、ちったあ、ですか」
「相手が動かなくなるまで攻撃を止めてはいかんといつも言っておるじゃろうが」
中将はつんのめると見せかけて片足を前に踏み出しつつ上半身をこちらにひねる。
その勢いで裏拳が繰り出されて、本日何度目かはもうわからないが、
またもやわたしはふっ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「あー、痛い」
「痛いようにしたからの」
すたすたと中将はわたしの元へ歩いてくる。
まったく、とんだ化け物だ。
ストッキングはところどころ伝線しているし、
黒いスーツもあちらこちら破れた上に砂とわたしの吐いた血でどろどろだ。
弱いって情けない。
ため息を吐こうとしたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「クハハ、ひどいやられようだな。
ずいぶん鍛えられていると思ったが見込み違いだったか?」
「クロコダイル。用が済んだならとっとと帰れ」
「クハハ、ひでえ爺さんだ。
おれの用事はまだ済んじゃいねえよ。
そこに転がってるお嬢さんに用事があるんだ」
「わたしは何の用事もございませんわ」
何とか上半身を起こせば、中将の後ろに先ほど出会ったばかりの
サー・クロコダイルがニタニタ笑いながら立っていた。
こんなボロボロの女子を見てお嬢さんとは目が腐っているのかしら。
思わず悪態をつく。
「そう連れねえこと言うなよ、カズヤ。
あー、あー、せっかくのいい女がこんなボロボロになっちまって。
もったいねえな」
黙れ。
わたしだって好き好んでボロボロになっているわけではない。
サー・クロコダイルを一瞥して立ち上がる。
「軍人ですので」
あばらが痛む。
何本かいっただろうか。
吐き気もする。
吐血と嘔吐を繰り返しながら
それでも立ち上がるしか方法を知らない。
だから、そんなこと気にはしていられない。
「かわいげがねえな。
クハハ、せっかくだ。このおれ様が相手してやろうか」
「めんどいので嫌です」
「こら、カズヤ!!めんどいとは何事じゃ!!!!」
「痛い!!!!」
うっかり本音を漏らしたら脳天に拳骨を食らった。
これ以上縮んだらどうしてくれるのです。
「ガープ、そういじめてやるなよ」
「ふん、好きにせい。わしは執務室にいるからな。
手合せが終わったら雑務じゃぞ」
「ちょ………」
わたしの返事はさっくり無視され、結局サー・クロコダイルと手合せをする羽目になってしまった。
中将、さっきあまり関わるなって仰ってませんでしたっけ?
問答無用でサー・クロコダイルと二人っきりにされてしまった。
「さあ、どこからでもかかってきやがれ」
「もう、しょうがないわね」
仕方ない。
今のわたしが七武海に敵う気はしないけれど、ここで引き下がっては中将補佐官の名が廃る。
まずは真っすぐ突撃する。
そのまま右半身を傾け彼の鳩尾にタックルを入れる。
しかし、攻撃が当たった感触が無かった。
おかしい。
振り向けば、彼は首だけをこちらに向けてニヤニヤしている。
能力者か。
舌打ちしたい衝動をこらえて向き直り、今度は右足に覇気を込めて横っ腹に回し蹴り。
よし。
今度は当たった感触はするが、体格差とわたしの筋力の無さで
まったく効いていない。
むしろわたしの方がダメージが大きい位。
能力者のくせにこんなに鍛えているだなんて。
これでは先ほどのガープ中将との手合せとまったく変わらないじゃない。
相変わらずニヤついたままのサー・クロコダイルがわたしの足を掴み
宙づりにする。
「クハハ。いい眺めじゃねえか。中将補佐官さんよ」
「投げられないだけマシかしら」
ぽつりと呟くと同時に空いた左足で彼の顔面を狙う。
だが、攻撃が当たる前にさらりと避けられてしまった。
んもう。
残された砂をなんとか覇気を込めた左手で引っ掴み、彼を捉える。
「多少の覇気じゃあ、気休めにもならねえぜ。
もうちったあ、気合のある娘に見えたが見込み違いだったか?」
「存じておりますわ」
黙れ砂。
そう言いたいのを堪えて空いた右腕でサー・クロコダイルの胸ぐらをつかむ。
完全に避けられないようにして再度左足を彼の額に落とす。
しかしやはり威力が足りない。
わずかに額が裂けただけだ。
「クハハ、このおれに傷をつけられただけで褒めてやるよ」
サー・クロコダイルはわたしの足を離して地面に落とす。
右手で彼を掴みっぱなしだったためにサー・クロコダイルにぶら下がってしまう。
「なんだ、離れたくねえか」
背中越しに伝わるサー・クロコダイルの体温がやけに生々しい。
悔しいので彼の太ももに蹴りを入れて、反動で跳ね上がり
脛を彼の頭に叩き込む。
だが、またもサラサラと避けられてしまった。
どうやら体力切れのようだ。
もう覇気を込める体力もない。
「クハハ、その根性だけは認めてやるよ。
だが今日はもう諦めておけ」
その余裕が腹立つ。
「本日はこれにて遠慮させていただきます。
またお越しの際はお声掛けくださいませ」
止めよう。
今日はもう無理だ。
ガープ中将に引き続き七武海で能力者。
しかも自然系の相手なんてやってられません。
何とか彼の正面に立つ。
本当は立ってるのもだるい位。
なんとかかんとか悔し紛れの捨て台詞をはく。
「ほう。また、か」
サー・クロコダイルが何やらやましいこと満載の笑顔でわたしを見下ろしている。
絶対碌なことを考えていない顔だ。
何だ。何だ…
「…?
……あ!!!!
べっ別にまた会いにこいとか、また構ってくださいとか
次こそその生え際の後退手伝ってやるとか
一発殴らせろとか、そういうことを言ってるわけじゃっ」
なんてことかしら。
自分から"また"とか、次回を期待しているとしか思えない発言じゃあないですか。
なんてこっぱずかしいことを言ってしまったのだろう。
しかもテンパって我ながら意味不明な言い訳をしている。
ああ、墓穴を掘るって、こういうことなのね。
サー・クロコダイルの笑みは留まることを知らない。
しかも原因が自分だから何もできない。
ニヤつきを止めて差し上げるほどの力もない。
「何も言ってねえよ」
サー・クロコダイルはニヤニヤしながらマントを翻し立ち去っていく。
うわああああ……
なんだあの余裕!!
むかつく!!!!
そして恥ずかしい!!!!
絶対に絶対に関わるまいとか思っていたのに。
自ら"次回"を作ってしまった。
とぼとぼと自室に戻り軽くシャワーを浴びて、着替える。
ガープ中将の執務室へ入ると、案の定中将は爆睡しているので
先ほどの醜態を忘れるべく、片っ端から書類を片付けていく。
「なんじゃ、カズヤ。戻ったか」
「先ほど」
しばらくするとガープ中将が目を覚まし、
頭をぼりぼり掻いて欠伸をしながらわたしに声をかける。
「コテンパンにやられておったのう。
お前もまだまだひよっこじゃな」
「見てらしたんですか。
自覚してます。言わないでください。羞恥心で机の下に潜りたい位なんです」
「潜って解決するなら、そうせい」
ですよねー。
中将まで何だかニヤニヤしているのが悔しい。
でも。そんなことをしたって何の解決にもならないから。
さっさと書類を片付けて稽古しよう。
次こそ、あの砂男をコテンパンにしてやるために。
わたしがまだまだなのは、わたしが一番よくわかっているつもりだから。
「ガープ中将」
「なんじゃい」
「次の七武海の招集は3か月後ですね」
「そうじゃの」
「うふふふふ。覚えてらっしゃい。あの砂男」
「ぶわっはっはっ。楽しそうじゃの」
海軍中将補佐官が七武海の海賊に舐められてはたまらない。
闘志を燃やしつつ、書類を捌く。
サー・クロコダイルが気になるのは、負けて悔しいからだと自分に言い聞かせながら。
「ふん、クロコダイルか」
サー・クロコダイルとの出会いはマリンフォードだった。
そのときわたしはガープ中将に拾われて、中将補佐として海軍に入ってしばらくたっていた。
ようやくまともに武装色の覇気を使えこなせるようになり、
一人で海賊船1船くらいなら容易く落とせるようになっていた。
とはいえまだまだ研鑽中。
日々ガープ中将のもとで鍛錬に励んでいた。
そんなわたしの目の前に現れた大男。
ガラの悪いオールバック。
ガラの悪い葉巻。
ガラの悪いスタイル。
そして性格の悪そうな目つき。
それがサー・クロコダイルの最初の印象。
関わったら最後、碌な目に会いそうにない。
顔や体格は悪くないけど何か狡いものを感じる。
それが何故か不愉快に感じない自分が怪しい。
ニヤニヤとガープ中将に声をかける彼は、
ガープ中将の後ろに隠れるように佇んでいるわたしに視線を流した。
「ほお、テメェが女連れたあ珍しいな」
ジロリと狡い眼差しが、すばやくガープ中将の影に隠れたわたしを射抜く。
関わったら良くないことになりそうなのは解っていたはずなのだけど
わたしは彼の目の前に立ちたくなってしまった。
ガープ中将の前に出る。
「お初にお目にかかります。サー・クロコダイル。
ガープ中将補佐、カズヤと申します」
ニコリと笑顔で恭しく挨拶する。
「カズヤ、ねえ」
「以後お見知りおきを」
「イイ女、囲ってんなあ。ガープ」
ニタニタとわたしを舐め回す様に眺める、サー・クロコダイル。
その気味の悪い視線が悪くなかったと思うのは今更だからか。
目つきは悪いし、その奥に何を企んでいるのか想像できなかったけど
なんとなく気が合うような気さえしてしまった。
「ふん、こんな小娘囲うほど暇じゃねえさ」
「へぇ。
確かに、ちっこい割にはよく鍛えられてんじぇねえか。
てめえなんかの補佐官にしなくたって、十分大佐クラスで戦えそうだ」
「こいつは海軍に入って日が浅いからな。
それだけだ。
元帥が呼んでいる。とっとと行け、クロコダイル」
「クハハ。また会おうぜ、カズヤ」
サー・クロコダイルは踵を返し、去っていった。
たった一目見ただけなのに、なんであんなにも見透かしたようなことを言うのだろう。
「あいつは、王下七武海の一角。クロコダイルだ」
「…碌な人間じゃなさそうですね」
「そのとおりじゃ。あれにあまり関わるな」
ガープ中将の注意は言われなくてもわかっていた。
怪しさも、胡散臭さも十分だ。
しかし、現実はそうもいかなかった。
サー・クロコダイルを見送ってから3時間後、わたしはガープ中将といつもの鍛錬に励んでいた。
ガープ中将なかなかにいい年なのに、まったくの衰えが見えない。
怪物だ。
中将の張り手にわたしは易々とふっ飛ばされる。
「まだまだじゃの、カズヤ」
「ガープ中将が強いんですよ!!」
拳を構える中将に再度突撃。
振り上げられた拳をなんとか回避して中将の脇腹に渾身の回し蹴りを入れる。
「少しは効いてくださいよ…」
中将はぐらりともしないた。そもそも体格差がありすぎる。
蹴りを入れた足をわし掴まれてまたもや投げ飛ばされた。
受け身も取れず、砂埃まみれで地面に転がる。
何とか立ち上がると、ガープ中将は楽しげに仁王立ちしている。
「ぶわっはっはっ。今のが攻撃のつもりか?
情けないのう。ただ当てるだけを攻撃とは言わんぞい。
攻撃とは、こういうことを言うのじゃ」
「うぶっ」
突撃してきた中将をわたしが避けられるわけもなく、腹にきつい拳を受けた。
しかし、毎回毎回同じ攻撃を食らっているのだ。
わたしとて学ぶ。
吐きそうになるのをなんとか堪えて腹にめり込んだままの拳を両手で引っ掴む。
「ほう」
「うらあっ!!!!」
中将の拳を軸にバク転かまして、その頭に踵落としを入れる。
そのままガ中将の後ろに飛び降り、振り向きざまに背中に肘を叩き込む。
そこでようやく中将がぐらりと前につんのめった。
「ふむ、ちったあマシになったか」
「ここまでやって、ちったあ、ですか」
「相手が動かなくなるまで攻撃を止めてはいかんといつも言っておるじゃろうが」
中将はつんのめると見せかけて片足を前に踏み出しつつ上半身をこちらにひねる。
その勢いで裏拳が繰り出されて、本日何度目かはもうわからないが、
またもやわたしはふっ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「あー、痛い」
「痛いようにしたからの」
すたすたと中将はわたしの元へ歩いてくる。
まったく、とんだ化け物だ。
ストッキングはところどころ伝線しているし、
黒いスーツもあちらこちら破れた上に砂とわたしの吐いた血でどろどろだ。
弱いって情けない。
ため息を吐こうとしたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「クハハ、ひどいやられようだな。
ずいぶん鍛えられていると思ったが見込み違いだったか?」
「クロコダイル。用が済んだならとっとと帰れ」
「クハハ、ひでえ爺さんだ。
おれの用事はまだ済んじゃいねえよ。
そこに転がってるお嬢さんに用事があるんだ」
「わたしは何の用事もございませんわ」
何とか上半身を起こせば、中将の後ろに先ほど出会ったばかりの
サー・クロコダイルがニタニタ笑いながら立っていた。
こんなボロボロの女子を見てお嬢さんとは目が腐っているのかしら。
思わず悪態をつく。
「そう連れねえこと言うなよ、カズヤ。
あー、あー、せっかくのいい女がこんなボロボロになっちまって。
もったいねえな」
黙れ。
わたしだって好き好んでボロボロになっているわけではない。
サー・クロコダイルを一瞥して立ち上がる。
「軍人ですので」
あばらが痛む。
何本かいっただろうか。
吐き気もする。
吐血と嘔吐を繰り返しながら
それでも立ち上がるしか方法を知らない。
だから、そんなこと気にはしていられない。
「かわいげがねえな。
クハハ、せっかくだ。このおれ様が相手してやろうか」
「めんどいので嫌です」
「こら、カズヤ!!めんどいとは何事じゃ!!!!」
「痛い!!!!」
うっかり本音を漏らしたら脳天に拳骨を食らった。
これ以上縮んだらどうしてくれるのです。
「ガープ、そういじめてやるなよ」
「ふん、好きにせい。わしは執務室にいるからな。
手合せが終わったら雑務じゃぞ」
「ちょ………」
わたしの返事はさっくり無視され、結局サー・クロコダイルと手合せをする羽目になってしまった。
中将、さっきあまり関わるなって仰ってませんでしたっけ?
問答無用でサー・クロコダイルと二人っきりにされてしまった。
「さあ、どこからでもかかってきやがれ」
「もう、しょうがないわね」
仕方ない。
今のわたしが七武海に敵う気はしないけれど、ここで引き下がっては中将補佐官の名が廃る。
まずは真っすぐ突撃する。
そのまま右半身を傾け彼の鳩尾にタックルを入れる。
しかし、攻撃が当たった感触が無かった。
おかしい。
振り向けば、彼は首だけをこちらに向けてニヤニヤしている。
能力者か。
舌打ちしたい衝動をこらえて向き直り、今度は右足に覇気を込めて横っ腹に回し蹴り。
よし。
今度は当たった感触はするが、体格差とわたしの筋力の無さで
まったく効いていない。
むしろわたしの方がダメージが大きい位。
能力者のくせにこんなに鍛えているだなんて。
これでは先ほどのガープ中将との手合せとまったく変わらないじゃない。
相変わらずニヤついたままのサー・クロコダイルがわたしの足を掴み
宙づりにする。
「クハハ。いい眺めじゃねえか。中将補佐官さんよ」
「投げられないだけマシかしら」
ぽつりと呟くと同時に空いた左足で彼の顔面を狙う。
だが、攻撃が当たる前にさらりと避けられてしまった。
んもう。
残された砂をなんとか覇気を込めた左手で引っ掴み、彼を捉える。
「多少の覇気じゃあ、気休めにもならねえぜ。
もうちったあ、気合のある娘に見えたが見込み違いだったか?」
「存じておりますわ」
黙れ砂。
そう言いたいのを堪えて空いた右腕でサー・クロコダイルの胸ぐらをつかむ。
完全に避けられないようにして再度左足を彼の額に落とす。
しかしやはり威力が足りない。
わずかに額が裂けただけだ。
「クハハ、このおれに傷をつけられただけで褒めてやるよ」
サー・クロコダイルはわたしの足を離して地面に落とす。
右手で彼を掴みっぱなしだったためにサー・クロコダイルにぶら下がってしまう。
「なんだ、離れたくねえか」
背中越しに伝わるサー・クロコダイルの体温がやけに生々しい。
悔しいので彼の太ももに蹴りを入れて、反動で跳ね上がり
脛を彼の頭に叩き込む。
だが、またもサラサラと避けられてしまった。
どうやら体力切れのようだ。
もう覇気を込める体力もない。
「クハハ、その根性だけは認めてやるよ。
だが今日はもう諦めておけ」
その余裕が腹立つ。
「本日はこれにて遠慮させていただきます。
またお越しの際はお声掛けくださいませ」
止めよう。
今日はもう無理だ。
ガープ中将に引き続き七武海で能力者。
しかも自然系の相手なんてやってられません。
何とか彼の正面に立つ。
本当は立ってるのもだるい位。
なんとかかんとか悔し紛れの捨て台詞をはく。
「ほう。また、か」
サー・クロコダイルが何やらやましいこと満載の笑顔でわたしを見下ろしている。
絶対碌なことを考えていない顔だ。
何だ。何だ…
「…?
……あ!!!!
べっ別にまた会いにこいとか、また構ってくださいとか
次こそその生え際の後退手伝ってやるとか
一発殴らせろとか、そういうことを言ってるわけじゃっ」
なんてことかしら。
自分から"また"とか、次回を期待しているとしか思えない発言じゃあないですか。
なんてこっぱずかしいことを言ってしまったのだろう。
しかもテンパって我ながら意味不明な言い訳をしている。
ああ、墓穴を掘るって、こういうことなのね。
サー・クロコダイルの笑みは留まることを知らない。
しかも原因が自分だから何もできない。
ニヤつきを止めて差し上げるほどの力もない。
「何も言ってねえよ」
サー・クロコダイルはニヤニヤしながらマントを翻し立ち去っていく。
うわああああ……
なんだあの余裕!!
むかつく!!!!
そして恥ずかしい!!!!
絶対に絶対に関わるまいとか思っていたのに。
自ら"次回"を作ってしまった。
とぼとぼと自室に戻り軽くシャワーを浴びて、着替える。
ガープ中将の執務室へ入ると、案の定中将は爆睡しているので
先ほどの醜態を忘れるべく、片っ端から書類を片付けていく。
「なんじゃ、カズヤ。戻ったか」
「先ほど」
しばらくするとガープ中将が目を覚まし、
頭をぼりぼり掻いて欠伸をしながらわたしに声をかける。
「コテンパンにやられておったのう。
お前もまだまだひよっこじゃな」
「見てらしたんですか。
自覚してます。言わないでください。羞恥心で机の下に潜りたい位なんです」
「潜って解決するなら、そうせい」
ですよねー。
中将まで何だかニヤニヤしているのが悔しい。
でも。そんなことをしたって何の解決にもならないから。
さっさと書類を片付けて稽古しよう。
次こそ、あの砂男をコテンパンにしてやるために。
わたしがまだまだなのは、わたしが一番よくわかっているつもりだから。
「ガープ中将」
「なんじゃい」
「次の七武海の招集は3か月後ですね」
「そうじゃの」
「うふふふふ。覚えてらっしゃい。あの砂男」
「ぶわっはっはっ。楽しそうじゃの」
海軍中将補佐官が七武海の海賊に舐められてはたまらない。
闘志を燃やしつつ、書類を捌く。
サー・クロコダイルが気になるのは、負けて悔しいからだと自分に言い聞かせながら。
1/117ページ