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お名前をどうぞ、レディ
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それはいつもと同じ朝だった。
偉大なる航路
入り口
二子岬
そこでわたし、カズサは海賊狩りを営んでいた。
たまに近くの島に行って食料や物資を調達して
それ以外は日々訪れる海賊を捉えて生活の糧にする。
何も知らない海賊たちが、わたしを連れて行こうとしたり慰み者にしようとしたり。
その度に彼らはわたしの獲物となる。
以前は姉も一緒にこの二子岬で海賊狩りをやっていたが
あるとき唐突に海軍にスカウトされていなくなってしまった。
集団行動の嫌いなわたしはここに残り今に至る。
わたしに残っていたのは、姉とともにつけられた二つ名
海賊狩り"魔女"だけだった。
そんなある朝。
起きると外が騒がしい。
着替えて出て見ると潜水艦が停泊していた。
「潜水艦?」
「おお、カズサ。起きたか。
こやつらはハートの海賊団。
船長のトラファルガー・ローが2500万ベリーの賞金首だ。
どうするね?」
わたしに気が付いたクロッカスさんが情報をくれる。
2500万か。
美味しい額だ。
でもこの間けっこう儲けたからしばらく生活はできるしなあ。
どうしようかな。
「どうする、とはどういうことだ?」
悩んでいると"PENGIN"と書かれた帽子をかぶった青年が近づいてきた。
「…お前、まさか噂の魔女か。おれたちを海軍に突き出すか?」
「よく御存じで。
あなたたちを海軍に突き出すかは…今悩んでるところ」
鋭い声にへらりと返す。
PENGINの声が聞こえたのか、周囲にいた海賊たちの空気が張り詰める。
「なんだあの女」
「もしかして、あいつが船長たちが言ってた海賊狩り?」
「ただの小娘じゃねえか」
「でも魔女だろ?気味が悪いぜ」
「ははっ、悩むまでもねえよ。そんなの!!!!」
「おいっ!」
ペンギンの制止を無視して、オレンジ色の髪にキャスケット、
サングラスの青年が人だかりを割って出てきた。
「?」
「おいペンギン!!こいつ海賊狩りなんだろ?
だったら、やられる前にやるだけじゃねえか」
「いや、だがこいつはまだ…」
「なーに甘いこと言ってんだよ、ペンギン?
ここは偉大なる航路なんだぜ?
何かあってからじゃ船長に悪いだろ!!
見てろって。
こんなガキ、おれが一発ぶっ飛ばして終わりだぜ!!」
キャスケットがニヤニヤ笑いながらもわたしを睨む。
気持ちはわからんでもない。
海賊が海賊狩りに警戒するのは当然だろう。
「でも、狩る気もないのにぶっ飛ばされるのは嫌かなあ」
つぶやくわたしを無視してキャスケットがかけてきた。
「はっ、だったら海賊狩りなんて辞めるんだな!!
これを気にさあ!」
「…っ」
「「「!!!?」」」
何を言っても無駄らしい。
突っ込んできたキャスケットの拳を半身を返して避ける。
と、同時にキャスケットの鳩尾に拳を叩き込む。
「うっ…!?」
一瞬で地に突っ伏したキャスケットに周囲の海賊も、キャスケット本人も動揺を隠せない。
「とりあえず、このぴよぴよが船長じゃないのはよくわかった」
「なっ、なんだと!!!?」
キャスケットがいきり立つ。
「おい、シャチ!!!!
いい加減にしろ!!!!」
「るせえ!!!!」
ペンギンの制止を無視して、シャチと呼ばれた青年から鋭い回し蹴りが繰り出される。
「なんかごめんね、ペンギン」
蹴りをジャンプでかわして、シャチの後ろを取る。
そっと背中を押すだけで、シャチはまたもや地に突っ伏した。
「まだやる?」
頭から地面に突っ込んだせいで脳震盪を起こしたのか、シャチからの返事はない。
「ペンギン、この…シャチって子を……」
そう言って、室内に戻ろうと振り返るとクマがいた。
「!!!?
く、くま!!!?」
「う、く、クマですみません」
打たれ弱いな…
しかも喋った。
能力者だろうか?
「あ、いやこちらこそなんかゴメン。
ねえペンギン。
こちらは…?」
「そいつはベポ。うちのクルーだ」
「っ!!!?」
ベポと呼ばれたクマの影から低い声と、鋭い斬撃が飛んできた。
何とか後ろに跳ねてかわす。
「へえ。今のを避けるか」
「切られたくないからね」
嫌な汗をだらだらかきながら、目の前に立つ男に笑いかけた。
背の高い、痩せた男性。
でもつけるべき力はつけている。
隈と髭のせいでガラは悪く見えるが黙っていればいい男だろう。
…こんな殺気を発していなければ。
「…トラファルガー・ロー。あなたが船長ね」
「手配書でも見たか」
「いいえ。さっきクロッカスさんに聞いたばかりよ。
でも、2500万ベリーの価値がありそうだから。
いえ、それじゃあ安すぎるんじゃない?」
「見る目はあるようだな。
面白い。
お前、カズサだな?
海賊狩り"魔女"の片割れ」
ゆっくりと問いかけられる。
殺気は、いっこうに影を潜めない。
「ええ、そうよ。どうする?
せっかくだから、殺していく?」
「いや。
……カズサ、お前、おれの船のクルーになれ」
「…
……それはちょっと。
海賊に興味ないし」
一瞬思考が停止してしまったがなんとか正常と思われる回答を述べた。
トラファルガー・ローは一瞬呆けたような顔をして、
それからくつくつと笑いだす。
「おれはお前に興味がある」
「わたしはない」
「おれが決めた」
「知らんから」
「ちょっ、船長…」
「黙ってろペンギン。そこで呆けてるシャチの怪我でも診てやれ」
ペンギンが止めに入るも食い下がるトラファルガー・ローに、わたしは少し焦りだした。
だってこの男本気だ。
それに強い。
2500万?嘘つけ。
そんな安い男じゃない。
「そうだな。
カズサ。
お前がおれに勝てたらおれはお前を諦める。
煮るなり焼くなり好きにすればいい。
だが、逆におれが勝ったらおれはお前を連れて行くぞ。
おれは海賊だ。
欲しいものは奪って得る」
「わたし海賊じゃないし。
身勝手な…」
「海賊だからな」
…どうしよう。
まずったな。
今のわたしではトラファルガー・ローに勝てるかどうかわからない。
目算は五分五分。
出来れば避けたいとろこだが、いかんせんわたしは彼のクルーに手をあげてしまっている。
そんな理由がなくたって、きっと目の前の殺意から逃げることはできないのだろう。
「わかった。
さっきぶっ飛ばしてしまったシャチに免じてその勝負にのる」
「ふん。シャチが理由ってのは気に入らねえが…
まあいい。
カズサ。
おれの女になれっ…!!!!」
「ちょ、かわってるっつーのっ!!!!」
言い終わる前にトラファルガー・ローが距離を詰めてくる。
慌てて後方へ飛んでかわし、太刀を払う。
「クロッカスさん!!」
「カズサ!!!!」
クロッカスさんに声をかけると、ノータイムで愛刀が飛んでくる。
「へえ、魔女は剣士だったのか」
「まあね」
トラファルガー・ローの猛追を、何とか押しとどめる。
「はっ…!!!!」
「なかなかじゃねえか」
刀と刀がぶつかり合う、キンキンした音だけが周りに響く。
「うらあっ!!!!」
「ちっ…」
刀を大なぎに薙いで距離を取る。
トラファルガー・ローにできた一瞬のすきに潜り込むが、
素早い身のこなしで躱される。
かれこれ数十分。
一向に決着はつかないし、つく気配もない。
…まずったな。
この展開が一番嫌だったんだ。
体力勝負になると、どうしても分が悪い。
だから。
次の一撃で決める。
「…!!!?」
わずかにトラファルガー・ローと距離をおき、その隙に刀を鞘に納める。
「どうした。降参か?」
「まさか」
右足を前へと踏み込む。
ワノ国に伝わる剣技。
「居合」
「なにを……
っっ!!!?」
キン
油断したらしいトラファルガー・ローの刀をわたしの刀が弾き飛ばした。
トラファルガー・ロー自身も腹に一線くらい、わずかに後ずさるのが精いっぱい。
「…せん…ちょう…?」
クマが、シャチが、みな呆然とこちらを見ている。
「船長!!!!」
ペンギンがトラファルガー・ローに駆け寄ってくる。
「くるなっっ!!!!」
しかしトラファルガー・ローはそれを制した。
「船長!!!?」
「まだ、終わってねえ」
「まだ…やるの…?」
「カズサ。おれはお前がほしい。
お前がおれの船に乗る気になるまでおれはお前と戦う」
腹から血を出しながらも、トラファルガー・ローは不遜に笑う。
なんで…?
「なんで?
今さっき会ったばかりじゃない。
そんなに執着するものでもないでしょう?
わたしはただの海賊狩りよ。
何よりあなたの仲間を傷つけているのに…」
「ふん。シャチのことを言っているならとんだおかと違いだ。
何もしてねえ、するかどうかも決めてねえ相手に
力量もわきまえず喧嘩を売ったんだ。
殺されなかっただけありがたいもんだぜ」
視界の隅でシャチが悔しそうに顔をしかめている。
それを知ってか知らずがトラファルガー・ローは
いい勉強だ。
と吐き捨てた。
「じゃあわたしは…?」
「お前を見ていたいと思った。
だから連れて行く。それだけだ」
「………」
「おれと来い。カズサ」
そんなこと言われたって。
わたしにはわたしの生活がある。
「だってわたし、海賊狩りだよ」
「そんなの関係ねえ」
「あなたの仲間たちが認めないよ」
「誰か反対する奴がいるか」
トラファルガー・ローがぐるりと周囲を見渡すと
つなぎの海賊たちはいっせいに首を横に振る。
「船長が決めたんならなあ」
「強いし」
「女の子が増えたら嬉しいし」
「おれはい
「負けたからってひがむなよシャチ」
「ひがんでねえよ!!」
「ペンギンが止めたときにやめときゃ良かったのに」
「っ、何だよお前ら!!
くっそ、わかったよ!!!!
おい、カズサ!!!!
お前なんかすぐに負かしてやるんだからな!!!?
そのときに泣いたって許さねえんだからな!!!!」
からかわれたシャチが盛大に啖呵をきる。
「だ、そうだ。
お前がまだ拒む理由はあるのか?」
「…う…」
とてもいい人たちなのはわかる。
わたしだって、広い世界に出てみたいと思わないわけじゃない。
今の生活にそこはかとなく閉塞感を感じていたのも事実。
きっと願ってもいないチャンスなんだろう。
でも。
海軍に入った姉さんは心配しないだろうか。
クロッカスさんに散々お世話になったのにいきなり飛び出すような真似して失礼ではないか。
決心が、つかない。
「カズサ、わしのことなら気にするな」
気が付くとクロッカスさんがわたしの隣で微笑んでいた。
「せっかくのチャンスなんだ。
お前もこの広い海を見てきたらどうだ。
姉さんには手紙を書いておくさ。
一周し終えたら土産話を聞かせてくれ。
ついでにラブーンの仲間の情報でも探してきてくれ」
「クロッカスさん……
…わかりました」
「いっておいで」
「はい。行ってきます」
再度、トラファルガー・ローに向きあう。
「トラファルガー・ロー」
「ああ」
「わたしを、連れて行ってくれますか?」
「ああ」
差し出された手をとる。
その途端にハートの海賊団がわあっと盛り上がる。
「仲間が増えたぞー!!!!」
「宴だー!!!!」
「次はおれと手合せしてくれー!!!!」
「よろしく、お願いします!!!!」
こうして、わたしの旅は始まった。
偉大なる航路
入り口
二子岬
そこでわたし、カズサは海賊狩りを営んでいた。
たまに近くの島に行って食料や物資を調達して
それ以外は日々訪れる海賊を捉えて生活の糧にする。
何も知らない海賊たちが、わたしを連れて行こうとしたり慰み者にしようとしたり。
その度に彼らはわたしの獲物となる。
以前は姉も一緒にこの二子岬で海賊狩りをやっていたが
あるとき唐突に海軍にスカウトされていなくなってしまった。
集団行動の嫌いなわたしはここに残り今に至る。
わたしに残っていたのは、姉とともにつけられた二つ名
海賊狩り"魔女"だけだった。
そんなある朝。
起きると外が騒がしい。
着替えて出て見ると潜水艦が停泊していた。
「潜水艦?」
「おお、カズサ。起きたか。
こやつらはハートの海賊団。
船長のトラファルガー・ローが2500万ベリーの賞金首だ。
どうするね?」
わたしに気が付いたクロッカスさんが情報をくれる。
2500万か。
美味しい額だ。
でもこの間けっこう儲けたからしばらく生活はできるしなあ。
どうしようかな。
「どうする、とはどういうことだ?」
悩んでいると"PENGIN"と書かれた帽子をかぶった青年が近づいてきた。
「…お前、まさか噂の魔女か。おれたちを海軍に突き出すか?」
「よく御存じで。
あなたたちを海軍に突き出すかは…今悩んでるところ」
鋭い声にへらりと返す。
PENGINの声が聞こえたのか、周囲にいた海賊たちの空気が張り詰める。
「なんだあの女」
「もしかして、あいつが船長たちが言ってた海賊狩り?」
「ただの小娘じゃねえか」
「でも魔女だろ?気味が悪いぜ」
「ははっ、悩むまでもねえよ。そんなの!!!!」
「おいっ!」
ペンギンの制止を無視して、オレンジ色の髪にキャスケット、
サングラスの青年が人だかりを割って出てきた。
「?」
「おいペンギン!!こいつ海賊狩りなんだろ?
だったら、やられる前にやるだけじゃねえか」
「いや、だがこいつはまだ…」
「なーに甘いこと言ってんだよ、ペンギン?
ここは偉大なる航路なんだぜ?
何かあってからじゃ船長に悪いだろ!!
見てろって。
こんなガキ、おれが一発ぶっ飛ばして終わりだぜ!!」
キャスケットがニヤニヤ笑いながらもわたしを睨む。
気持ちはわからんでもない。
海賊が海賊狩りに警戒するのは当然だろう。
「でも、狩る気もないのにぶっ飛ばされるのは嫌かなあ」
つぶやくわたしを無視してキャスケットがかけてきた。
「はっ、だったら海賊狩りなんて辞めるんだな!!
これを気にさあ!」
「…っ」
「「「!!!?」」」
何を言っても無駄らしい。
突っ込んできたキャスケットの拳を半身を返して避ける。
と、同時にキャスケットの鳩尾に拳を叩き込む。
「うっ…!?」
一瞬で地に突っ伏したキャスケットに周囲の海賊も、キャスケット本人も動揺を隠せない。
「とりあえず、このぴよぴよが船長じゃないのはよくわかった」
「なっ、なんだと!!!?」
キャスケットがいきり立つ。
「おい、シャチ!!!!
いい加減にしろ!!!!」
「るせえ!!!!」
ペンギンの制止を無視して、シャチと呼ばれた青年から鋭い回し蹴りが繰り出される。
「なんかごめんね、ペンギン」
蹴りをジャンプでかわして、シャチの後ろを取る。
そっと背中を押すだけで、シャチはまたもや地に突っ伏した。
「まだやる?」
頭から地面に突っ込んだせいで脳震盪を起こしたのか、シャチからの返事はない。
「ペンギン、この…シャチって子を……」
そう言って、室内に戻ろうと振り返るとクマがいた。
「!!!?
く、くま!!!?」
「う、く、クマですみません」
打たれ弱いな…
しかも喋った。
能力者だろうか?
「あ、いやこちらこそなんかゴメン。
ねえペンギン。
こちらは…?」
「そいつはベポ。うちのクルーだ」
「っ!!!?」
ベポと呼ばれたクマの影から低い声と、鋭い斬撃が飛んできた。
何とか後ろに跳ねてかわす。
「へえ。今のを避けるか」
「切られたくないからね」
嫌な汗をだらだらかきながら、目の前に立つ男に笑いかけた。
背の高い、痩せた男性。
でもつけるべき力はつけている。
隈と髭のせいでガラは悪く見えるが黙っていればいい男だろう。
…こんな殺気を発していなければ。
「…トラファルガー・ロー。あなたが船長ね」
「手配書でも見たか」
「いいえ。さっきクロッカスさんに聞いたばかりよ。
でも、2500万ベリーの価値がありそうだから。
いえ、それじゃあ安すぎるんじゃない?」
「見る目はあるようだな。
面白い。
お前、カズサだな?
海賊狩り"魔女"の片割れ」
ゆっくりと問いかけられる。
殺気は、いっこうに影を潜めない。
「ええ、そうよ。どうする?
せっかくだから、殺していく?」
「いや。
……カズサ、お前、おれの船のクルーになれ」
「…
……それはちょっと。
海賊に興味ないし」
一瞬思考が停止してしまったがなんとか正常と思われる回答を述べた。
トラファルガー・ローは一瞬呆けたような顔をして、
それからくつくつと笑いだす。
「おれはお前に興味がある」
「わたしはない」
「おれが決めた」
「知らんから」
「ちょっ、船長…」
「黙ってろペンギン。そこで呆けてるシャチの怪我でも診てやれ」
ペンギンが止めに入るも食い下がるトラファルガー・ローに、わたしは少し焦りだした。
だってこの男本気だ。
それに強い。
2500万?嘘つけ。
そんな安い男じゃない。
「そうだな。
カズサ。
お前がおれに勝てたらおれはお前を諦める。
煮るなり焼くなり好きにすればいい。
だが、逆におれが勝ったらおれはお前を連れて行くぞ。
おれは海賊だ。
欲しいものは奪って得る」
「わたし海賊じゃないし。
身勝手な…」
「海賊だからな」
…どうしよう。
まずったな。
今のわたしではトラファルガー・ローに勝てるかどうかわからない。
目算は五分五分。
出来れば避けたいとろこだが、いかんせんわたしは彼のクルーに手をあげてしまっている。
そんな理由がなくたって、きっと目の前の殺意から逃げることはできないのだろう。
「わかった。
さっきぶっ飛ばしてしまったシャチに免じてその勝負にのる」
「ふん。シャチが理由ってのは気に入らねえが…
まあいい。
カズサ。
おれの女になれっ…!!!!」
「ちょ、かわってるっつーのっ!!!!」
言い終わる前にトラファルガー・ローが距離を詰めてくる。
慌てて後方へ飛んでかわし、太刀を払う。
「クロッカスさん!!」
「カズサ!!!!」
クロッカスさんに声をかけると、ノータイムで愛刀が飛んでくる。
「へえ、魔女は剣士だったのか」
「まあね」
トラファルガー・ローの猛追を、何とか押しとどめる。
「はっ…!!!!」
「なかなかじゃねえか」
刀と刀がぶつかり合う、キンキンした音だけが周りに響く。
「うらあっ!!!!」
「ちっ…」
刀を大なぎに薙いで距離を取る。
トラファルガー・ローにできた一瞬のすきに潜り込むが、
素早い身のこなしで躱される。
かれこれ数十分。
一向に決着はつかないし、つく気配もない。
…まずったな。
この展開が一番嫌だったんだ。
体力勝負になると、どうしても分が悪い。
だから。
次の一撃で決める。
「…!!!?」
わずかにトラファルガー・ローと距離をおき、その隙に刀を鞘に納める。
「どうした。降参か?」
「まさか」
右足を前へと踏み込む。
ワノ国に伝わる剣技。
「居合」
「なにを……
っっ!!!?」
キン
油断したらしいトラファルガー・ローの刀をわたしの刀が弾き飛ばした。
トラファルガー・ロー自身も腹に一線くらい、わずかに後ずさるのが精いっぱい。
「…せん…ちょう…?」
クマが、シャチが、みな呆然とこちらを見ている。
「船長!!!!」
ペンギンがトラファルガー・ローに駆け寄ってくる。
「くるなっっ!!!!」
しかしトラファルガー・ローはそれを制した。
「船長!!!?」
「まだ、終わってねえ」
「まだ…やるの…?」
「カズサ。おれはお前がほしい。
お前がおれの船に乗る気になるまでおれはお前と戦う」
腹から血を出しながらも、トラファルガー・ローは不遜に笑う。
なんで…?
「なんで?
今さっき会ったばかりじゃない。
そんなに執着するものでもないでしょう?
わたしはただの海賊狩りよ。
何よりあなたの仲間を傷つけているのに…」
「ふん。シャチのことを言っているならとんだおかと違いだ。
何もしてねえ、するかどうかも決めてねえ相手に
力量もわきまえず喧嘩を売ったんだ。
殺されなかっただけありがたいもんだぜ」
視界の隅でシャチが悔しそうに顔をしかめている。
それを知ってか知らずがトラファルガー・ローは
いい勉強だ。
と吐き捨てた。
「じゃあわたしは…?」
「お前を見ていたいと思った。
だから連れて行く。それだけだ」
「………」
「おれと来い。カズサ」
そんなこと言われたって。
わたしにはわたしの生活がある。
「だってわたし、海賊狩りだよ」
「そんなの関係ねえ」
「あなたの仲間たちが認めないよ」
「誰か反対する奴がいるか」
トラファルガー・ローがぐるりと周囲を見渡すと
つなぎの海賊たちはいっせいに首を横に振る。
「船長が決めたんならなあ」
「強いし」
「女の子が増えたら嬉しいし」
「おれはい
「負けたからってひがむなよシャチ」
「ひがんでねえよ!!」
「ペンギンが止めたときにやめときゃ良かったのに」
「っ、何だよお前ら!!
くっそ、わかったよ!!!!
おい、カズサ!!!!
お前なんかすぐに負かしてやるんだからな!!!?
そのときに泣いたって許さねえんだからな!!!!」
からかわれたシャチが盛大に啖呵をきる。
「だ、そうだ。
お前がまだ拒む理由はあるのか?」
「…う…」
とてもいい人たちなのはわかる。
わたしだって、広い世界に出てみたいと思わないわけじゃない。
今の生活にそこはかとなく閉塞感を感じていたのも事実。
きっと願ってもいないチャンスなんだろう。
でも。
海軍に入った姉さんは心配しないだろうか。
クロッカスさんに散々お世話になったのにいきなり飛び出すような真似して失礼ではないか。
決心が、つかない。
「カズサ、わしのことなら気にするな」
気が付くとクロッカスさんがわたしの隣で微笑んでいた。
「せっかくのチャンスなんだ。
お前もこの広い海を見てきたらどうだ。
姉さんには手紙を書いておくさ。
一周し終えたら土産話を聞かせてくれ。
ついでにラブーンの仲間の情報でも探してきてくれ」
「クロッカスさん……
…わかりました」
「いっておいで」
「はい。行ってきます」
再度、トラファルガー・ローに向きあう。
「トラファルガー・ロー」
「ああ」
「わたしを、連れて行ってくれますか?」
「ああ」
差し出された手をとる。
その途端にハートの海賊団がわあっと盛り上がる。
「仲間が増えたぞー!!!!」
「宴だー!!!!」
「次はおれと手合せしてくれー!!!!」
「よろしく、お願いします!!!!」
こうして、わたしの旅は始まった。