蘇芳を忘れた方が楽になれる…

そう思っていたけれど忘れられるわけがなかった

私が初めて心から愛した人…

また逢えるって言葉は辛くなるから好きじゃないと言ってたけど

私は毎日期待してた…
なんの確信もなかったけど…

いっそのこと他の人と結婚してしまったほうが吹っ切れると思った

別れてから蘇芳のことが頭から離れることはなかった

蘇芳は私の幸せを一番願っていてくれてると思って

だからお見合いをした…

でも間違いだった…
普通の生活なんて要らない




指輪交換の最中に私は
「ごめんなさい」
と言い残し


気がつけば指輪を外し走り出していた

ドレス姿のまま
回りなんて気にもしないで無我夢中で走った

行き着く場所は決まっていた

蘇芳が昔、地上で暮らしていた時のマンションの前に来ていた

引き払うことなく今も借りたままだった

いるはずのない部屋の前

今も蘇芳と繋がっているようで嬉しくて涙が溢れた

「蘇…芳…」

式を抜け出し
いるはずのないマンションの前
私は途方に暮れていた


『ほ～ら、酷い顔してるよ、前に言ったよね？
いい女は滅多に涙を流さないのは化粧が崩れるからだって。
だから泣くな、いい女が台無しだぞ？
つか…その恰好…なに？』

突然現れた蘇芳の姿を見て言葉が出なかった

蘇芳が目の前に…

なんで？どうして？
疑問系の言葉しか浮かばないのと同時に
何が起こっているのかすらわからない

「な…んで…」
これが精一杯の言葉だった

『あんたに呼ばれた気がしてさ
当たってたみたいだな
ったく、久々に逢えたと思ったらいきなり泣き顔かよ
ま、泣き顔もそそられるけど？』