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幸せとは

山内 響子は暗い幼少期を過ごしてきた。
小学校、中学校とクラスからイジメられていたのだ。
幸いにも死に追いやる程のものではなく、クラス中から無視される程度のものだったが、少なからず同種の友達と呼べる存在がいたことで、彼女にそこまでイジメられているという認識を与えなかった。

基本的に私は嫌われる人間なんだ。

それが彼女が出した結論である。
そんな響子が動物に対して心を開いていったのは必然だったのだろう。
中学を卒業してからは高校へは行かず、動物の専門学校へと進学。
就職先に悩んでいたとき、犬猫のボランティアスタッフ募集という広告を見つけると迷わず連絡していた。

週5日、私はボランティアスタッフとして街頭に立っている。
ボランティアと言っても完全に無償では無く、一回出る毎に僅かばかりの謝礼がもらえる。
もちろん団体もボランティアで成り立っているので、この僅かな謝礼も大変なのだろうが、週5日出ても生活は厳しい。
それでも悲惨な目に遭っている犬や猫達の為なら私は頑張れる。

「おはようございます」
小さな声で挨拶した。
「おはよう」
「おはようございます」
何人かのスタッフが挨拶を返す。
今日は5〜6人のスタッフが来ていて、返事をしたのは2人だった。
何故かはわからないが、ここのスタッフには私と同じように社会に馴染めず、又は心の病を抱えている人たちが多い。
私は保護している犬たちと軽くふれ合うと、今日の活動の準備に取り掛かった。

活動内容は、街頭に立って悲しい目に遭っている犬や猫達の現状を多くの人に知ってもらう事、施設運営の為の募金を募る事が主だ。

「それじゃ響子さんと陽子さんのペアでA街に行ってくれる?」
「わかりました」
「は〜い」

陽子さんは最近入って来たスタッフで誰にでも丁寧に接する。
こんな私にも優しくしてくれる良い人だ。

「響子さん今日はよろしくお願いします」
「いえ。こちらこそ。よろしくお願いします。頑張りましょうね」

私は普通に接しているつもりでも、言葉が無感情と受け取られる事があり、幾度か他のスタッフと衝突する事があった。
その点陽子さんはそんな私を理解してくれていて、ぶっきらぼうな私の言葉にもニッコリと微笑んでくれるのでやりやすい。

「今日ビー太郎病院連れてくから」

施設の代表がさらりと怖い事を言った。
ビー太郎は保健所から引き取って来たビーグル犬で、以前からあまり体調がすぐれず、みんなが気にかけていた。
ここ最近は元気そうにしていたのだが、やはり厳しいのだろうか。

「ビーちゃん、調子悪いんですか?」
「いや、以前と殆ど変わらないんだけどね〜、一昨日くらいからご飯食べてないんだよね〜」

周りのスタッフも手を止め耳を傾ける。

「検査してもらうだけだから。お散歩も行けてるし、問題ないと思うよ〜」
「そうですか。わかりました」
「検査終わったらみんなに連絡入れるから。大した事は無いと思うから、活動よろしくね!」

スタッフ全員が返事をした。

「ビーちゃん、ちょっと心配ですね」
陽子さんの言葉に頷きながら、私は活動へと出発した。
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