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幸せとは

自宅から電車で1時間。
ギターと重いアンプを運んで街に出る。
ここは最近路上ライブに利用している場所で、けっこう立ち止まって聴いてくれる人が多い。

手書きの看板を立ててギターをアンプに繋ぐ。
さて、1曲目は何を歌おうか。
誰もが知っているであろう流行歌をチョイス。
イントロの間に自己紹介をする。

「岩手から歌手になる為に上京してきました。新沼 煇と申します」

大体いつも13時くらいから歌い始め、遅い時は22時くらいまで歌っている。
そんなに多くの人が立ち止まってくれる訳じゃないが、それでも1枚、また1枚とCDが売れていった。

今日は良い感じだな。

確かな手応えを感じながら歌い続け、気づけば夕方。
少し休憩してからまた歌い始める。

「それでは、次はオリジナル曲で『いつかどこかで』聴いて下さい」

この曲は、上京する時、当時付き合っていた彼女との別れを書いた曲で、離れ離れになる前に別れを選ぶ、という内容になっている。

さよなら ごめんね
勝手な僕なんか忘れて
君は幸せになって
いつかどこかで会えたなら
僕なんか忘れていて
知らない誰かと
笑っていて欲しい

最後のサビを歌い終えお辞儀をするとまばらな拍手が起こる。その中から1人の女性が近づいてきた。

「良い曲ですね。今の曲CDとかあるんですか?」
「あ!はい!ありがとうございます!CDありますよ!」
「1枚欲しいんですけど、いくらですか?」
「ホントですか!?ありがとうございます!千円になります!」
「そしたら1枚下さい。今の曲、聴かせたい友達がいるんです」
「そうなんですか!似たような経験されたんですか?」
「そんなところです」

クスリと笑う女性に、そうなんですか〜!と相槌を返しCDを渡す。

「本当にありがとうございます!もう少し歌いますので、よかったら聴いて下さい」
「あ〜、これから待ち合わせがあるので、今日はこれで!何かSNSやってるなら探します」
「ホントですか!?ありがとうございます!TwitterとYouTubeで新沼 煇で検索すれば出てきますので、是非お願いします!」
「わかりました。頑張って下さい!」

そう言って会釈すると女性は駅の方へと立ち去った。
今日はこれで10枚目だ。まだまだ頑張らないと。

「それでは次もオリジナル曲を歌いたいと思います」

数人の方が足を止めて聴いてくれている。

「それでは聴いて下さい。オリジナル曲で『幸せとは』」



ー了
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