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幸せとは

どうして昴がいるの?なんで?どう言う事?

私の頭は混乱していた。

「加奈、ゴメン。私が呼んだの」
「え?どう言う事?」

突然の事でまったくついていけない。

「昴君、少し向こう行っててくれる?加奈にちゃんと説明するから」

玲愛の言葉に頷き、席から離れていく昴を私はただ呆然と見ていた。

「加奈に電話する前に昴君から連絡があったのよ。」
「どう言う事?」
「加奈と別れた報告。もちろん、最初は怒った」
「…」
「でもね、本当は別れたかった訳じゃないんだってわかったの」
「じゃあ、なんで?」
「それは本人から直接聞いた方が良いと思って呼んだの。勝手に連絡してゴメンね」
「ううん…わかった。話し、聞くよ」

私の心臓は破裂しそうなくらい激しく鼓動していた。
玲愛が席を立ち昴を呼びに行く。
私の頭はまだ混乱していたが、別れた理由を知りたいと願う気持ちが少しだけ冷静にさせた。

昴を連れて玲愛が戻ってくる。

「私は少し向こうに行ってるね」
「玲愛も一緒に居て。その方が安心する」
「わかった。昴君もそれでいい?」
「もちろんだよ。居てくれた方が良い」
「ありがとう」

玲愛は私の隣に座り優しく手を握ってくれた。

「加奈…ごめん」
「…うん」
「ちゃんと説明しなくて、傷つけてごめん」
「…うん」
「俺、来月から海外に転勤するんだ」
「え?」
「5年は帰ってこれないらしい…」
「それで?…それが理由?」
「5年経っても、ずっと向こうで働く事になるかもしれないし…そんな俺に加奈を縛りつける訳にはいかないと思ったんだ」
「何それ?意味わかんない…」
「5年だよ?5年も加奈に寂しい思いをさせるなんて出来ないと思ったんだよ」
「…だから別れたの?」
「うん。だったら俺と別れて幸せになって欲しいと思ったんだ」
「何それ。自分勝手すぎない?」
「ゴメン…でもさ」

昴の話を聞いてるうちにだんだん腹が立ってきた。

「そんなのわかんないじゃん。じゃあ昴は5年合わなかったら違う女性と付き合うわけ?」
「それは無い!」
「そしたら私だってわからないじゃん!」

少しヒートアップしかけた私たちを玲愛がなだめた。

「昴君は自分勝手ではあるけど、加奈の事を想って、の事だと思うよ」
「…そうだとしても、勝手すぎるよ…」
「ちゃんと話し合おうとしなくてゴメン。加奈の事が好きだから、大切だから、寂しい思いをさせるくらいなら俺に縛られないで幸せになって欲しいと思ったんだ」

別れた理由を知っても、私の心は晴れなかった。
好きなのに別れなきゃいけないなんて、私にはわからないよ…。

「それで…昴君はどうしたいの?ここに来たって事は他に言いたい事があるんじゃないの?」

昴は玲愛の言葉に頷くと真っ直ぐに私を見つめた。

「加奈。傷つけて本当にゴメン。自分勝手な事ばかり言ってるけど、やっぱり俺は加奈が好きなんだ。でも、5年も1人にさせるくらいなら他の人と幸せになって欲しいとも思う。だから…だから、俺が帰って来た時、まだ1人でいたなら、もう一度告白させて欲しい」

すぐには答えられなかった。
昴の真剣な眼差し。しばらくの沈黙。
この席だけどんよりしてるかもしれないな、そんな事を考えたら少し笑ってしまった。

「…わかった。私も待たない。だから昴も向こうで良い人と出会ったら私の事気にしなくていいから」
「それは…」
「無いなんて言わないでよ。私だって昴の事縛り付けたく無いし、それだったら別れる必要もないじゃん」
「…わかった。加奈…ありがとう」
「昴の事、待ってるつもりは無いからね」

そう言った昴に笑顔を見せると、彼も優しい笑顔を返した。

「よし!話も落ち着いたし、飲もう!!」
「いや…俺バイクだよ…」
「昴残念。今日玲愛の奢りなんだよ」
「マジで!?そしたら食う!」
「いや、昴君は奢らないよ?」

マジかよ〜と言って笑う昴。隣には玲愛。
昴と付き合う時、玲愛に紹介したら絶対幸せにしろって言ってたっけ。
それから5年。私は幸せだったよ。
またいつか3人が揃った時、私と昴が付き合ってなかったとしても、こうして同じ時間を過ごせたなら、それは幸せな事だと思う。

「加奈、これ美味しいよ!早く食べないと昴君が全部食べちゃうよ」
「いや!?俺そんな食わないよ!?」

いつもの笑顔。でも3人とも少しだけ無理をしてるのかもしれない。それでもこの場を設けてくれた大切な親友に、私の事を想うがゆえに別れを選んだ優しすぎる彼に、感謝している。

「やっぱり美味しいものを食べてる時が一番幸せ」

玲愛の言葉にみんなで笑った。
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