第1章 。
まるで穴に落ちてしまったアリスの如く吸い込まれてしまいそうな程澄んだ瞳 。否 、澄んだと言うよりも非現実的という言葉の方が正しいのかもしれない 。その中に映る雪白はきっと笑えてしまうくらい滑稽な表情をしていたのだろう 。
―― 一体何が如何してこうなった 。雪白にはちっともさっぱり全く理解が出来ないし 、脳が理解する亊を拒んでいる 。例え倫道から外れていようと構わない 。それでも構わないから 、どうか目の前の少女に鉄槌を下させてください 。
亊の発展は今から四十五分前に遡る 。
雪白の前に並ぶのは未だ発達途中であろう体躯と顔立ちをした7人の少年達 。
誰も彼も嫌という程顔立ちが整っていて之からお見合いでもするんですか 、と問いたくなる様な雰囲気だった 。
只 、見合いにしては圧倒的に女の子の人数が少ない 。当然隣を見たところで其処には空気しかないわけで 。両手に花なんて夢の又夢だ 。
いや真面目に徐々女の子と言う名の栄養が足りない … !! 栄養失調で倒れたら如何してくれるんですかくそう 。
はァ … と重たい息を吐いた後 、彼等を伺えば何とも好奇の目に晒されていた 。
… それはそうか 。この学校男子校ですもんね … そんな中に女が混じってたらどう足掻いても視界に入る 。
その視線に耐えられなくて 、居心地の悪さや視線を振り払う様に雪白は口を開いた 。
『 … ゆきしろ 、雪白 奏 。2年B組に転校して来ました 。どうぞ宜しく 。好きな物は女の子 、嫌いなのは追い掛けられる亊 。趣味はゲーム 。… 情報は之くらいで足ります ? 』
取り敢えず夏海先生に言えと言われた情報だけ簡潔に伝えれば 、一息おいて彼等に尋ねる 。
然すれば 、その流れに便乗する様に1人の少年が高々と手を挙げた 。
『 じゃあ次 、俺が行くッス ! 俺は1年A組所属 、獅子王 明日 !! 好きな亊は身体を動かす亊 、嫌いなのは勉強ッス ! 趣味は冒険で 、好きな言葉は 「 弱肉強食 」 ッスかね ~ 。獅子 … つまりライオン ! ライオンの如く強い漢に ~ ムグッ 』
『 はいストップ 。明日くんの強い漢談義はその辺に 、ね ? 』
元気良く飛び出して来た少年明日くんは 、獅子と言うより犬と形容するに相応しい様な子だった 。世に聞くワンコ系男子とはこういう子の亊を言うのかと彼を目の当たりにして初めて理解出来た 。「 強い漢 」とやらを語る彼は普通ならば暑苦しく感じるであろうにも関わらず 『 そうなんだ 』と親切にも話しを聞いてあげたくなってしまう 。きっとそれは彼の持ち前の愛嬌の良さと特質だろう 。
熟れた蜜柑の様な発色の良いオレンジ色の髪 。ぴょこん 、と動物の耳の様にハネているのは寝癖だろうか 。… 何故だろう 、とても自然に見えるのが不思議で仕方ない 。もしかしたら本当に耳なのではないかと思える程やけにリアルで微かに揺れている 。
大きく開けた口から覗く八重歯に 、ギラリ煌めく蛍の光の様な色をした大きな丸い瞳は純粋無垢で有りながらもツリ目故か獅子の様な鋭さが見える 。外見も内面もワンコ系その物なのに生彩な彼から何処か獅子を彷彿とさせるのは「 獅子王 」と言う名字の印象形成なのだろうか 。
そんな明日くんを制したのは恐らくくせっ毛であろう柔らかな髪を揺らしている好青年 。… 何故だろう 。初めて会った筈なのに如何してこんなにも既視感を感じるのか 。漠然としないけれど 、何故かこの学校に転校して来て初めて会った人 … あの生徒会長が思い出された 。
『 あ 、すみません 雪白先輩 。俺は1年A組所属の瑠璃川 鶲 って言います 。好きな亊は劇とかの脚本を書く亊で 、嫌いな物は魚ですね 。趣味は劇に関わる亊です 。女性独りで大変でしょうけど … 想像より逞しい方で安心しました 。』
………… いや全然違いましたね 、生徒会長と似てるとか言ってすみませんでした !!!! 生徒会長と違ってホモでも誑しでも無く只純粋にいい子でした 。何この子めっっちゃくちゃ親切 … 「 先輩 」ってきちんと呼べる所も敬語使える所も礼儀正しくて逆に恐縮するヒェ … そんな礼儀正しくして貰える様な先輩でなくて御免なさい … と 、地面に額を擦り付けたくなった 。
申し訳無さでいっぱいになっていれば 、『 どうしたの ? 』とばかりにキョトンとした表情を此方に向けてくる鶲くん 。
他の1年生より少し大人びた顔立ち 。そんな彼がキョトンとした表情をすると嗚呼 、彼等と同い歳なんだな 。と変に納得してしまう 。深海の様な薄暗い青色のくせっ毛 。くせっ毛と言っても天然パーマ程のくせっ毛ではなく 、ウェーブの掛かった髪 。瞳は抹茶色で女性の様に細い輪郭 。体型は恐らく高校生男子の平均よりも細く頼り無さげな筈なのに彼の端整な顔を見ると同時にそんな考えも吹き飛んでいくのだから不思議だ 。物腰柔らかな態度にこんな女の子好きだと宣言する程の変人にすら気遣いの心をみせる許容の広さ 、そして人柄 。之は絶対に女の子に苦労しないタイプだと確信する 。そのイケメン具合に妬ましい気持ちが募るが不思議と憎めないのが逆に悩ましい 。
『 … あ 、嗚呼 。否 、雪白は元気があって良いと思いますし 、時間が有れば明日くんの「 強い漢談義 」でしたっけ 。付き合いますよ 。
それと 、鶲くんの気遣いが優し過ぎて目に染みそうです 。』
『 ゆっきー先輩 クールビューティ ! なのに優しいとか痺れちゃうッス ~ !!
! やっぱ解るッスか ?! そうなんスよ 、瑠璃ちゃんは優しくて恰好良くて俺の自慢の親友なんス ! 』
『 目に ?! 普通其処は心じゃないんですか … ??
アイタッ 、もう明日くんは力が強いんだから加減してよ 。… じ 、自慢だなんて ! 照れるなァ … 』
……… 滅茶苦茶自然過ぎてスルーしてしまったけれど 、まさかの 「 ゆっきー先輩 」。鶲くんの亊も 「 瑠璃ちゃん 」 と呼んでいるからに 、彼は渾名を付けて呼ぶ性分なのだろう 。
それにしても二人は本当に仲が良くて 、何だか見ている此方も和むというか … バシバシと鶲くんの背中を叩いては自分の亊の様に誇らしげな明日くん 、「 親友 」と言われて少し気恥しそうな鶲くん 。とてもではないが数ヶ月共に過ごした友達 、と言う感じではない 。こんなに気心が知れているのならきっと二人は幼い頃からのフレンズなのではないだろうかと予想が走る 。
然すれば 、そんな雪白の思考を遮る様に歌う様なアルトボイスが耳を捕らえた 。
『 同じく1年A組所属 、緋桜 彩音 です 。好きなのはダンス 、嫌いなのは … 可愛いって言われる亊 。趣味は作詞作曲 … もうお察しでしょうが俺 、「 イロドル ! 」ってアイドルグループに所属してる 「 王緋 」 です 。』
一瞬 、液晶越しに彼を見ているのかと思った 。
そう思うのも無理はない 。だって毎日の様にテレビに映る今話題のアイドルが急に3Dとして現れたのだ 。再度目を擦り彼を凝視すれば 、彩音くんは困ったように笑った 。
正直な話 、男性アイドルに興味のない雪白は彼について殆どと言っていい程知らない 。只 、友達が話してたなァくらいである 。
然し 、液晶越しに見る 「 王緋 」と今雪白の目の前に映る 「 彩音くん 」は何だか別人に見えて 、目が離せなかった 。勿論 、営業上キャラ作りをしているであろうから別人に見えるのは当たり前なのだが 、そうでなくてもっとこう深い根っこの部分 。こう言うのを宝石の原石と言うのだろうか 。アイドルをやっている時のテレビに映っている彼よりも何故か目の前にいる演じていない彼の方がずっとキラキラして見えた 。
燃えるような緋色と漆黒の黒を半分に分けたボブに片方の横髪だけ垂らしていると言う何とも奇抜かつ目立ちそうな髪型なのに 、彼の顔面がそれを和らげる 。兎の様にくりくりした髪とお揃いの緋色と黒のオッドアイの愛らしい瞳 。顔だけでなくて鼻や口も小さくて 、更には雪白よりも低い身長は小動物的と言うか女の雪白でも過保護欲を唆られる 。可愛いと言われるのが嫌いらしい彼だが何処からどう見ても可愛いで形成されている為 、つい口から 「 可愛い 」と零れてしまいそうになり口を噤む 。
危ない危ないと彼から視線を逸らせば 、彩音くんや明日くん達の背後に隠れて一定の距離以上近付いて来ない怯えた子犬の様な人物に目が止まる 。
如何したのだろう 、と彼と視線を合わせようと覗き込めば彼は身体をビクつかせ決して視線が合わない様に避けられる 。
… エッ 、雪白何かしました ??????
訳が分からない 。全く身に覚えが無い 。その人物は黄金を溶かした様な金色のさらりとした髪を綺麗に整えていて 、絶世の美形と言っても過言では無いと思う程の恐ろしく整った顔立ちをしている少年だった 。女顔で 、一瞬所かジッと見つめても女の人なのではないかと思えてしまう 。快晴の空の様に澄んだ空色の瞳を縁取る瞳に刺さっているのではないかと凝視してしまう程長くフサフサした睫毛 。鼻筋も外国人かと言いたくなる位の高い鼻筋で 、スタイルも良く制服すら何処かの礼装の様に見えてしまう 。之で高校一年生だなんてにわかには信じ難い 、浮世離れした容貌 。そして雪白はこんなに綺麗な男の子に見覚えが無い 。ましてこの外見 。一度でも目にしていれば忘れたくとも忘れられないだろう 。
それなのに何故避けられているのだろうと頭に疑問符を浮かべていれば 、それを察してか否か彩音くんは生贄を差し出すみたいに彼を雪白の前までぐいぐいと押しやった 。
『 ほら 、つぐみも挨拶しないと失礼だろ 。… 女の人が怖いのは解るけど 、徐々克服しときなよ ー 。』
『 こっ 、怖くなどない ! 僕は只苦手なだけだ !! 断じて 、断じて怖がっていない !!! 』
『 … へェ 。奏さん 、ちょっと此方に来て貰っても良いですか ? 』
『 な“ … っ ?! わ 、悪かった !僕が悪かったから 、頼むから止めてくれ … ! 』
『 アハハ 、グミちゃんの女嫌いは相変わらずッスね ~ 。弄られるのも又 、愛故ッスよ !! 』
『 待てこら 、愛故って言ったら何でも許されると思うなよ ?! と 、とにかく僕に女を近付けるな … !! くそ … ッ 鶲 、助けてくれ ! 』
『 う ~ ん … でも雪白先輩は女の人が好きみたいだし 、安牌じゃない ? 』
『 安牌な訳あるか !!! 』
『 … 確かに 、彩音くんには負けるけどつぐみくんも中々に女顔だからね 。』
『 『 ハ ???? 』』
『 ふ 、二人共顔が怖いッスよ ?! グミちゃんは美形だから余計迫力満点だし 、ひぃたんは普段可愛いから怖さ倍増しッス … !! ( ヒエェ )』
… 成程 。金髪の彼はどうやら女の子が苦手らしい 。苦手 、と言うより女性恐怖症と言う言葉の方が近そうだ 。
それと 、一つ之だけは訂正させて欲しい 。
雪白は女の子が好きなのであって 、女顔の女の子は許容範囲外である 、と 。
いやだって幾ら女顔であろうと男には変わりありませんし 。
彼等の仲睦まじい様子を蚊帳の外で傍観していれば 、その様子に気付いたのか再び金髪の彼を急かした 。
『 も ~ 、グミちゃん好い加減観念するッス !! B組の皆もゆっきー先輩も待ってるッスよ ? 』
『 う“ … 』
明日くんの穢れなき瞳を見た所為か 、B組の人達が控えていると聞いたからか 、漸く腹を括ったらしい彼は此方に体を向けた 。… 勿論視線は泳いでいるが 。
『 … 皆と同じで1年A組所属だ … です 。名前は眞中 つぐみ 、好きな物は … 家事全般 、き 、嫌いではないが苦手なのは女性です 。』
…… やはり女の子が苦手らしい 。之はある意味 『 貴方の亊が苦手です 。』と 、面と向かって言われているようなものだ 。硝子のハートがひび割れた音 、確かに聞こえた 。
女の子が好きな雪白 、女の子が苦手なつぐみくん 。どう考えても分かり合えそうに無い 。… 来世辺りなら未だ希望は有るかもしれないが 。
つぐみくんとA組の皆が話している姿は本当に楽しそうで 、何だか羨ましい様なそんな感情が湧き上がった 。「 男子になりたかった 」なんて 、そんな馬鹿げた一抹の願望が浮かんでしまったのも輪廻転生だなんて夢見がちな亊を信じたいと思える様になってしまったのももう手遅れでしかない 。雪白はもう随分とこの学院の人達に絆されてしまっているのだろう 。
―― 一体何が如何してこうなった 。雪白にはちっともさっぱり全く理解が出来ないし 、脳が理解する亊を拒んでいる 。例え倫道から外れていようと構わない 。それでも構わないから 、どうか目の前の少女に鉄槌を下させてください 。
亊の発展は今から四十五分前に遡る 。
雪白の前に並ぶのは未だ発達途中であろう体躯と顔立ちをした7人の少年達 。
誰も彼も嫌という程顔立ちが整っていて之からお見合いでもするんですか 、と問いたくなる様な雰囲気だった 。
只 、見合いにしては圧倒的に女の子の人数が少ない 。当然隣を見たところで其処には空気しかないわけで 。両手に花なんて夢の又夢だ 。
いや真面目に徐々女の子と言う名の栄養が足りない … !! 栄養失調で倒れたら如何してくれるんですかくそう 。
はァ … と重たい息を吐いた後 、彼等を伺えば何とも好奇の目に晒されていた 。
… それはそうか 。この学校男子校ですもんね … そんな中に女が混じってたらどう足掻いても視界に入る 。
その視線に耐えられなくて 、居心地の悪さや視線を振り払う様に雪白は口を開いた 。
『 … ゆきしろ 、雪白 奏 。2年B組に転校して来ました 。どうぞ宜しく 。好きな物は女の子 、嫌いなのは追い掛けられる亊 。趣味はゲーム 。… 情報は之くらいで足ります ? 』
取り敢えず夏海先生に言えと言われた情報だけ簡潔に伝えれば 、一息おいて彼等に尋ねる 。
然すれば 、その流れに便乗する様に1人の少年が高々と手を挙げた 。
『 じゃあ次 、俺が行くッス ! 俺は1年A組所属 、
『 はいストップ 。明日くんの強い漢談義はその辺に 、ね ? 』
元気良く飛び出して来た少年明日くんは 、獅子と言うより犬と形容するに相応しい様な子だった 。世に聞くワンコ系男子とはこういう子の亊を言うのかと彼を目の当たりにして初めて理解出来た 。「 強い漢 」とやらを語る彼は普通ならば暑苦しく感じるであろうにも関わらず 『 そうなんだ 』と親切にも話しを聞いてあげたくなってしまう 。きっとそれは彼の持ち前の愛嬌の良さと特質だろう 。
熟れた蜜柑の様な発色の良いオレンジ色の髪 。ぴょこん 、と動物の耳の様にハネているのは寝癖だろうか 。… 何故だろう 、とても自然に見えるのが不思議で仕方ない 。もしかしたら本当に耳なのではないかと思える程やけにリアルで微かに揺れている 。
大きく開けた口から覗く八重歯に 、ギラリ煌めく蛍の光の様な色をした大きな丸い瞳は純粋無垢で有りながらもツリ目故か獅子の様な鋭さが見える 。外見も内面もワンコ系その物なのに生彩な彼から何処か獅子を彷彿とさせるのは「 獅子王 」と言う名字の印象形成なのだろうか 。
そんな明日くんを制したのは恐らくくせっ毛であろう柔らかな髪を揺らしている好青年 。… 何故だろう 。初めて会った筈なのに如何してこんなにも既視感を感じるのか 。漠然としないけれど 、何故かこの学校に転校して来て初めて会った人 … あの生徒会長が思い出された 。
『 あ 、すみません 雪白先輩 。俺は1年A組所属の
………… いや全然違いましたね 、生徒会長と似てるとか言ってすみませんでした !!!! 生徒会長と違ってホモでも誑しでも無く只純粋にいい子でした 。何この子めっっちゃくちゃ親切 … 「 先輩 」ってきちんと呼べる所も敬語使える所も礼儀正しくて逆に恐縮するヒェ … そんな礼儀正しくして貰える様な先輩でなくて御免なさい … と 、地面に額を擦り付けたくなった 。
申し訳無さでいっぱいになっていれば 、『 どうしたの ? 』とばかりにキョトンとした表情を此方に向けてくる鶲くん 。
他の1年生より少し大人びた顔立ち 。そんな彼がキョトンとした表情をすると嗚呼 、彼等と同い歳なんだな 。と変に納得してしまう 。深海の様な薄暗い青色のくせっ毛 。くせっ毛と言っても天然パーマ程のくせっ毛ではなく 、ウェーブの掛かった髪 。瞳は抹茶色で女性の様に細い輪郭 。体型は恐らく高校生男子の平均よりも細く頼り無さげな筈なのに彼の端整な顔を見ると同時にそんな考えも吹き飛んでいくのだから不思議だ 。物腰柔らかな態度にこんな女の子好きだと宣言する程の変人にすら気遣いの心をみせる許容の広さ 、そして人柄 。之は絶対に女の子に苦労しないタイプだと確信する 。そのイケメン具合に妬ましい気持ちが募るが不思議と憎めないのが逆に悩ましい 。
『 … あ 、嗚呼 。否 、雪白は元気があって良いと思いますし 、時間が有れば明日くんの「 強い漢談義 」でしたっけ 。付き合いますよ 。
それと 、鶲くんの気遣いが優し過ぎて目に染みそうです 。』
『 ゆっきー先輩 クールビューティ ! なのに優しいとか痺れちゃうッス ~ !!
! やっぱ解るッスか ?! そうなんスよ 、瑠璃ちゃんは優しくて恰好良くて俺の自慢の親友なんス ! 』
『 目に ?! 普通其処は心じゃないんですか … ??
アイタッ 、もう明日くんは力が強いんだから加減してよ 。… じ 、自慢だなんて ! 照れるなァ … 』
……… 滅茶苦茶自然過ぎてスルーしてしまったけれど 、まさかの 「 ゆっきー先輩 」。鶲くんの亊も 「 瑠璃ちゃん 」 と呼んでいるからに 、彼は渾名を付けて呼ぶ性分なのだろう 。
それにしても二人は本当に仲が良くて 、何だか見ている此方も和むというか … バシバシと鶲くんの背中を叩いては自分の亊の様に誇らしげな明日くん 、「 親友 」と言われて少し気恥しそうな鶲くん 。とてもではないが数ヶ月共に過ごした友達 、と言う感じではない 。こんなに気心が知れているのならきっと二人は幼い頃からのフレンズなのではないだろうかと予想が走る 。
然すれば 、そんな雪白の思考を遮る様に歌う様なアルトボイスが耳を捕らえた 。
『 同じく1年A組所属 、
一瞬 、液晶越しに彼を見ているのかと思った 。
そう思うのも無理はない 。だって毎日の様にテレビに映る今話題のアイドルが急に3Dとして現れたのだ 。再度目を擦り彼を凝視すれば 、彩音くんは困ったように笑った 。
正直な話 、男性アイドルに興味のない雪白は彼について殆どと言っていい程知らない 。只 、友達が話してたなァくらいである 。
然し 、液晶越しに見る 「 王緋 」と今雪白の目の前に映る 「 彩音くん 」は何だか別人に見えて 、目が離せなかった 。勿論 、営業上キャラ作りをしているであろうから別人に見えるのは当たり前なのだが 、そうでなくてもっとこう深い根っこの部分 。こう言うのを宝石の原石と言うのだろうか 。アイドルをやっている時のテレビに映っている彼よりも何故か目の前にいる演じていない彼の方がずっとキラキラして見えた 。
燃えるような緋色と漆黒の黒を半分に分けたボブに片方の横髪だけ垂らしていると言う何とも奇抜かつ目立ちそうな髪型なのに 、彼の顔面がそれを和らげる 。兎の様にくりくりした髪とお揃いの緋色と黒のオッドアイの愛らしい瞳 。顔だけでなくて鼻や口も小さくて 、更には雪白よりも低い身長は小動物的と言うか女の雪白でも過保護欲を唆られる 。可愛いと言われるのが嫌いらしい彼だが何処からどう見ても可愛いで形成されている為 、つい口から 「 可愛い 」と零れてしまいそうになり口を噤む 。
危ない危ないと彼から視線を逸らせば 、彩音くんや明日くん達の背後に隠れて一定の距離以上近付いて来ない怯えた子犬の様な人物に目が止まる 。
如何したのだろう 、と彼と視線を合わせようと覗き込めば彼は身体をビクつかせ決して視線が合わない様に避けられる 。
… エッ 、雪白何かしました ??????
訳が分からない 。全く身に覚えが無い 。その人物は黄金を溶かした様な金色のさらりとした髪を綺麗に整えていて 、絶世の美形と言っても過言では無いと思う程の恐ろしく整った顔立ちをしている少年だった 。女顔で 、一瞬所かジッと見つめても女の人なのではないかと思えてしまう 。快晴の空の様に澄んだ空色の瞳を縁取る瞳に刺さっているのではないかと凝視してしまう程長くフサフサした睫毛 。鼻筋も外国人かと言いたくなる位の高い鼻筋で 、スタイルも良く制服すら何処かの礼装の様に見えてしまう 。之で高校一年生だなんてにわかには信じ難い 、浮世離れした容貌 。そして雪白はこんなに綺麗な男の子に見覚えが無い 。ましてこの外見 。一度でも目にしていれば忘れたくとも忘れられないだろう 。
それなのに何故避けられているのだろうと頭に疑問符を浮かべていれば 、それを察してか否か彩音くんは生贄を差し出すみたいに彼を雪白の前までぐいぐいと押しやった 。
『 ほら 、つぐみも挨拶しないと失礼だろ 。… 女の人が怖いのは解るけど 、徐々克服しときなよ ー 。』
『 こっ 、怖くなどない ! 僕は只苦手なだけだ !! 断じて 、断じて怖がっていない !!! 』
『 … へェ 。奏さん 、ちょっと此方に来て貰っても良いですか ? 』
『 な“ … っ ?! わ 、悪かった !僕が悪かったから 、頼むから止めてくれ … ! 』
『 アハハ 、グミちゃんの女嫌いは相変わらずッスね ~ 。弄られるのも又 、愛故ッスよ !! 』
『 待てこら 、愛故って言ったら何でも許されると思うなよ ?! と 、とにかく僕に女を近付けるな … !! くそ … ッ 鶲 、助けてくれ ! 』
『 う ~ ん … でも雪白先輩は女の人が好きみたいだし 、安牌じゃない ? 』
『 安牌な訳あるか !!! 』
『 … 確かに 、彩音くんには負けるけどつぐみくんも中々に女顔だからね 。』
『 『 ハ ???? 』』
『 ふ 、二人共顔が怖いッスよ ?! グミちゃんは美形だから余計迫力満点だし 、ひぃたんは普段可愛いから怖さ倍増しッス … !! ( ヒエェ )』
… 成程 。金髪の彼はどうやら女の子が苦手らしい 。苦手 、と言うより女性恐怖症と言う言葉の方が近そうだ 。
それと 、一つ之だけは訂正させて欲しい 。
雪白は女の子が好きなのであって 、女顔の女の子は許容範囲外である 、と 。
いやだって幾ら女顔であろうと男には変わりありませんし 。
彼等の仲睦まじい様子を蚊帳の外で傍観していれば 、その様子に気付いたのか再び金髪の彼を急かした 。
『 も ~ 、グミちゃん好い加減観念するッス !! B組の皆もゆっきー先輩も待ってるッスよ ? 』
『 う“ … 』
明日くんの穢れなき瞳を見た所為か 、B組の人達が控えていると聞いたからか 、漸く腹を括ったらしい彼は此方に体を向けた 。… 勿論視線は泳いでいるが 。
『 … 皆と同じで1年A組所属だ … です 。名前は
…… やはり女の子が苦手らしい 。之はある意味 『 貴方の亊が苦手です 。』と 、面と向かって言われているようなものだ 。硝子のハートがひび割れた音 、確かに聞こえた 。
女の子が好きな雪白 、女の子が苦手なつぐみくん 。どう考えても分かり合えそうに無い 。… 来世辺りなら未だ希望は有るかもしれないが 。
つぐみくんとA組の皆が話している姿は本当に楽しそうで 、何だか羨ましい様なそんな感情が湧き上がった 。「 男子になりたかった 」なんて 、そんな馬鹿げた一抹の願望が浮かんでしまったのも輪廻転生だなんて夢見がちな亊を信じたいと思える様になってしまったのももう手遅れでしかない 。雪白はもう随分とこの学院の人達に絆されてしまっているのだろう 。
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