第1章 。
『 お ー いたいた 、雪白 。やっぱ女子がいるのといないのじゃ違うねェ 。 』
長い帰路の真ん中で自身を呼び止める声に雪白は振り返る ── ことはせず、窓辺から控え目に顔を覗かせる桜達に目を向けた。
嗚呼 、こんな満開の桜の木の下で可愛い女の子とお花見したらどんなに楽しいだろうかと想いを馳せては胸を踊らせる反面 、此処が男子校だと言う事実をより残酷なものにさせる 。
『 お ー い 、雪白 。先生を無視するとはどういった了見だ ー 。』
全く 、花は折りたし梢は高しとはこの亊だ 。
… と言うか 、無視されてるって理解しているのなら諦めるとかしたらどうなんですかねェ … 。
『 待て 、今舌打ちしたろ ?! 』
『 いえ 、雪白には何の亊だかさっぱり 』
『 白々しいんだよ …ったく 。噂通りつれないねェ 。折角の紅一点だってのに浮いた話一つ無いとは何亊だ 。』
『 そう言う先生こそ 、浮いた話が幾つも出てくるから毎回彼女さんにフラれるんですよ 。』
『 おっ前 ! それは断じて違う ! 俺は彼女を一途に愛しているのに何故か変な噂が広まったり 、寝取られたりしてフラれるんだよ … ! 何故だ … 俺の何が悪いってんだ … !! 』
頭を抱え 、悲しみに打ちひしがれている目の前のダメな大人は夏海 千歳 。
一応雪白達のクラス 、2 ーB の担任である 。… が 、恥ずかしくて人様にとてもでは無いが言えないような人物だ 。寧ろ 、何故フラれるのか理解出来ていない亊にほとほと疑問を感じる 。
深緑色の髪を無造作に散りばめて顔は隠れがちだが 、アーモンド型の透明な瞳にスっとした鼻筋 、薄い唇は俗に言うイケメンと言うやつで 。惜しい亊に顔立ちは整っているのだから宝の持ち腐れこの上ない 。
いかにも普段着 、と言った格好の上にスーツを羽織っているという何ともだらしない服装 。正直 、中身を見なくても付き合いたくない 。世の女の子達は一体何故こんなのと付き合おうと思うのか 。
只 、そうは言っても腐っても教師 。長所が無いわけではなくて 。
だからこそ 、先生は好きな人の前では格好付けたがる癖を治すべきだと思う 。… 大抵空回りして失敗するわけですし 。もっと自分を曝け出しても受け入れてくれるような人と付き合うべきなのではないだろうか 。
『 ん ? どうした ~ じっと見て … ハッ 、まさか先生に惚れたか … ?!いや ~ 、俺も罪な男だねェ 。よしよし 、先生がイロイロ教えてy… ぐはっ 』
前言撤回 。制裁の余地なしだ 。余りの気色の悪さに反吐が出そうになるのをぐっと堪えれば 、代わりに手が出た 。雪白の拳は見事に先生のみぞおちに命中したらしく、先生の方が逆に嘔吐しそうになっているが 、不思議と罪悪感はない 。
頭を抱えたり腹を抱えたり忙しい人ですね 。
『 最近のJK怖い … 暴力的 … ( 震え声 )』
『 先生なら平手打ちされ慣れてるでしょう 。』
『 傷口抉るような亊言うなよ … 先生泣くぞ!!』
『 どうぞどうぞ 。雪白はそれを写真に収めて今後脅迫のネタとして使用しますので 。』
『 > > 社会的死 < <
… 雪白 、しょ ~ じきに言え 。先生に何か恨みでもあるのか … ? 』
『 いえ 。初日にいなかった亊と 、廃人の癖に彼女が常にいるって亊以外特には 。』
『 結構あんなおい ! そこは頬を染めて 「 こんな亊言えるのは先生くらいです … 」って言うところだろ !!』
『 先生の好みなんぞ至極どうでもいい亊この上ないないんですが 、結局何話に来たんですか 。』
そう問えば 、当初の目的をすっかり忘れていたのか 『 おお 』なんて間の抜けた声を上げては 『 何だっけなぁ 』と視線を天井に向け 、頭をがしがしと搔き暫く呆けた顔をした後 、『 そうだそうだ 。』なんて ぽん 、と手を打った 。
『 ウチの学校はちょいと特殊でな 。“ 広がりの輪 “ とやらを大切にする教育方針らしく 、校長提案の毎年恒例の “ 全校隠レンボ “ ってのがあるんだよ 。』
『 “ 全校隠レンボ “ 、ですか 。』
『 そ 。普通の学校じゃ学年やクラスが違えば話すどころか知らない奴が多いだろ 。ところが 、“ 全校隠レンボ “ を行う亊で色々な奴と関わる亊が出来るって言う寸法だ 。まァ 、一種の学校行事みてぇなもんだな 。』
『 嗚呼 … 成程 。』
つまり 、社交性を高める目的の他にも 、この学校を楽しめる様にこうして学校全体で関わる亊で友達を作ろうってわけですね 。まァ 、確かにそれなら不登校の生徒等は出なそうだ 。いかにもあの校長が考えそうな亊ですね 。
『 呑み込みが早くて何より 。そこで 、だ 。隠れんぼをするにあたって前もって交流して貰う必要があるんだ 。名前の把握とかも兼ねてな 。』
HAHAHA校長先生も随分と面白い亊を考えてくれやがりますねェ 。は ー ー ー ????? つまり否応無しに雪白はこの学院の男達の名前を覚えなければいけない上に関わりを持たなければいけないわけで 。更に此方の情報を明け渡さねばならないなんてパワハラとして訴えたい 。
『 … 珍しく表情動かしたと思ったら 、解り易く嫌そうな顔してんな 。( 苦笑 )
まァ 、気持ちは解らなくもない 。コレは俺達教師も強制参加だからな 。ちったぁ 、俺を労わって欲しいもんだ 。』
『 ご愁傷様です 。それと 、雪白は表情豊かな愛らしい生徒じゃないですか 。』
『 何処がだ 。何をもってそんな自信有り気に言えるのかは解らんが 、表情乏しいにも程があるからな ?!!常に無表情のポーカーフェイスじゃねぇか !! 』
?????????
… 雪白が無表情 … ???? 嘘だ 、こんなに心の中が煩い雪白が無表情だなんてそんな馬鹿な … !!! エッ 、それじゃあ自分では笑ってるつもりでも人様の瞳には真顔に映っていたと … ?!
否まさか 。そんな筈がない 、と信じたくて真実を確かめるべく先生の方へ向き直ると 、口角をあげ 、瞳を細めながら精一杯の笑顔で彼に問う 。
『 … 笑えてますよね ? 』
『 いや 、ものすげぇ無表情だぞ 。』
………………… 。
暫くの間 、先生と雪白の間に静寂が訪れる 。辺りは静まり返り 、言葉が通じない筈の鳥達でさえも異様な空気の重さに逃げ出す始末だ 。あの空気の読めない下世話な夏海先生すら何て声を掛ければ良いのか解らず戸惑い 、決して視線を合わせようとしない 。
なんてこった 。どうやら雪白の表情筋は死んでいるらしい 。つまり 、テンションと表情が、全く釣り合ってなかったと言うことだ 。
寧ろ 、17年間人間やって来て他人に言われるまで気付かないって逆に凄い 。
風に靡く桜吹雪が雪白の前を通り過ぎる 。
嗚呼 、いっそこのまま桜と共に風に乗って何処か遠くへ消えてしまいたい … 。なんて黄昏ていれば 、背後から全てを悟った様な声と哀愁が漂う呟きが聞こえた 。
『 … 逆に俺はもっとクールで無表情でいれば良いのにって別れた彼女に毎回言われるから逆に羨ましいぜ … 。』
『 … 皆 、ないものねだりですね 。』
… まさか先生に対して優しく接してあげようと思える日がくるとは 。人間ちょっとした亊で変われるものだなァ、としみじみ思う 。
『 まぁそんなもんだろ 。もし 、嫁の貰い手がなくなったら俺が貰ってやろうか ~ ? 』
『 丁重にお断りします 。嫁の貰い手がないのは先生でしょう 。』
言葉の刃が突き刺さったらしく 、胸を抑えている先生を横目にやはり人間そう簡単に変われるものでは無いと自身と先生を見て思い返したのだった 。
長い帰路の真ん中で自身を呼び止める声に雪白は振り返る ── ことはせず、窓辺から控え目に顔を覗かせる桜達に目を向けた。
嗚呼 、こんな満開の桜の木の下で可愛い女の子とお花見したらどんなに楽しいだろうかと想いを馳せては胸を踊らせる反面 、此処が男子校だと言う事実をより残酷なものにさせる 。
『 お ー い 、雪白 。先生を無視するとはどういった了見だ ー 。』
全く 、花は折りたし梢は高しとはこの亊だ 。
… と言うか 、無視されてるって理解しているのなら諦めるとかしたらどうなんですかねェ … 。
『 待て 、今舌打ちしたろ ?! 』
『 いえ 、雪白には何の亊だかさっぱり 』
『 白々しいんだよ …ったく 。噂通りつれないねェ 。折角の紅一点だってのに浮いた話一つ無いとは何亊だ 。』
『 そう言う先生こそ 、浮いた話が幾つも出てくるから毎回彼女さんにフラれるんですよ 。』
『 おっ前 ! それは断じて違う ! 俺は彼女を一途に愛しているのに何故か変な噂が広まったり 、寝取られたりしてフラれるんだよ … ! 何故だ … 俺の何が悪いってんだ … !! 』
頭を抱え 、悲しみに打ちひしがれている目の前のダメな大人は
一応雪白達のクラス 、2 ーB の担任である 。… が 、恥ずかしくて人様にとてもでは無いが言えないような人物だ 。寧ろ 、何故フラれるのか理解出来ていない亊にほとほと疑問を感じる 。
深緑色の髪を無造作に散りばめて顔は隠れがちだが 、アーモンド型の透明な瞳にスっとした鼻筋 、薄い唇は俗に言うイケメンと言うやつで 。惜しい亊に顔立ちは整っているのだから宝の持ち腐れこの上ない 。
いかにも普段着 、と言った格好の上にスーツを羽織っているという何ともだらしない服装 。正直 、中身を見なくても付き合いたくない 。世の女の子達は一体何故こんなのと付き合おうと思うのか 。
只 、そうは言っても腐っても教師 。長所が無いわけではなくて 。
だからこそ 、先生は好きな人の前では格好付けたがる癖を治すべきだと思う 。… 大抵空回りして失敗するわけですし 。もっと自分を曝け出しても受け入れてくれるような人と付き合うべきなのではないだろうか 。
『 ん ? どうした ~ じっと見て … ハッ 、まさか先生に惚れたか … ?!いや ~ 、俺も罪な男だねェ 。よしよし 、先生がイロイロ教えてy… ぐはっ 』
前言撤回 。制裁の余地なしだ 。余りの気色の悪さに反吐が出そうになるのをぐっと堪えれば 、代わりに手が出た 。雪白の拳は見事に先生のみぞおちに命中したらしく、先生の方が逆に嘔吐しそうになっているが 、不思議と罪悪感はない 。
頭を抱えたり腹を抱えたり忙しい人ですね 。
『 最近のJK怖い … 暴力的 … ( 震え声 )』
『 先生なら平手打ちされ慣れてるでしょう 。』
『 傷口抉るような亊言うなよ … 先生泣くぞ!!』
『 どうぞどうぞ 。雪白はそれを写真に収めて今後脅迫のネタとして使用しますので 。』
『 > > 社会的死 < <
… 雪白 、しょ ~ じきに言え 。先生に何か恨みでもあるのか … ? 』
『 いえ 。初日にいなかった亊と 、廃人の癖に彼女が常にいるって亊以外特には 。』
『 結構あんなおい ! そこは頬を染めて 「 こんな亊言えるのは先生くらいです … 」って言うところだろ !!』
『 先生の好みなんぞ至極どうでもいい亊この上ないないんですが 、結局何話に来たんですか 。』
そう問えば 、当初の目的をすっかり忘れていたのか 『 おお 』なんて間の抜けた声を上げては 『 何だっけなぁ 』と視線を天井に向け 、頭をがしがしと搔き暫く呆けた顔をした後 、『 そうだそうだ 。』なんて ぽん 、と手を打った 。
『 ウチの学校はちょいと特殊でな 。“ 広がりの輪 “ とやらを大切にする教育方針らしく 、校長提案の毎年恒例の “ 全校隠レンボ “ ってのがあるんだよ 。』
『 “ 全校隠レンボ “ 、ですか 。』
『 そ 。普通の学校じゃ学年やクラスが違えば話すどころか知らない奴が多いだろ 。ところが 、“ 全校隠レンボ “ を行う亊で色々な奴と関わる亊が出来るって言う寸法だ 。まァ 、一種の学校行事みてぇなもんだな 。』
『 嗚呼 … 成程 。』
つまり 、社交性を高める目的の他にも 、この学校を楽しめる様にこうして学校全体で関わる亊で友達を作ろうってわけですね 。まァ 、確かにそれなら不登校の生徒等は出なそうだ 。いかにもあの校長が考えそうな亊ですね 。
『 呑み込みが早くて何より 。そこで 、だ 。隠れんぼをするにあたって前もって交流して貰う必要があるんだ 。名前の把握とかも兼ねてな 。』
HAHAHA校長先生も随分と面白い亊を考えてくれやがりますねェ 。は ー ー ー ????? つまり否応無しに雪白はこの学院の男達の名前を覚えなければいけない上に関わりを持たなければいけないわけで 。更に此方の情報を明け渡さねばならないなんてパワハラとして訴えたい 。
『 … 珍しく表情動かしたと思ったら 、解り易く嫌そうな顔してんな 。( 苦笑 )
まァ 、気持ちは解らなくもない 。コレは俺達教師も強制参加だからな 。ちったぁ 、俺を労わって欲しいもんだ 。』
『 ご愁傷様です 。それと 、雪白は表情豊かな愛らしい生徒じゃないですか 。』
『 何処がだ 。何をもってそんな自信有り気に言えるのかは解らんが 、表情乏しいにも程があるからな ?!!常に無表情のポーカーフェイスじゃねぇか !! 』
?????????
… 雪白が無表情 … ???? 嘘だ 、こんなに心の中が煩い雪白が無表情だなんてそんな馬鹿な … !!! エッ 、それじゃあ自分では笑ってるつもりでも人様の瞳には真顔に映っていたと … ?!
否まさか 。そんな筈がない 、と信じたくて真実を確かめるべく先生の方へ向き直ると 、口角をあげ 、瞳を細めながら精一杯の笑顔で彼に問う 。
『 … 笑えてますよね ? 』
『 いや 、ものすげぇ無表情だぞ 。』
………………… 。
暫くの間 、先生と雪白の間に静寂が訪れる 。辺りは静まり返り 、言葉が通じない筈の鳥達でさえも異様な空気の重さに逃げ出す始末だ 。あの空気の読めない下世話な夏海先生すら何て声を掛ければ良いのか解らず戸惑い 、決して視線を合わせようとしない 。
なんてこった 。どうやら雪白の表情筋は死んでいるらしい 。つまり 、テンションと表情が、全く釣り合ってなかったと言うことだ 。
寧ろ 、17年間人間やって来て他人に言われるまで気付かないって逆に凄い 。
風に靡く桜吹雪が雪白の前を通り過ぎる 。
嗚呼 、いっそこのまま桜と共に風に乗って何処か遠くへ消えてしまいたい … 。なんて黄昏ていれば 、背後から全てを悟った様な声と哀愁が漂う呟きが聞こえた 。
『 … 逆に俺はもっとクールで無表情でいれば良いのにって別れた彼女に毎回言われるから逆に羨ましいぜ … 。』
『 … 皆 、ないものねだりですね 。』
… まさか先生に対して優しく接してあげようと思える日がくるとは 。人間ちょっとした亊で変われるものだなァ、としみじみ思う 。
『 まぁそんなもんだろ 。もし 、嫁の貰い手がなくなったら俺が貰ってやろうか ~ ? 』
『 丁重にお断りします 。嫁の貰い手がないのは先生でしょう 。』
言葉の刃が突き刺さったらしく 、胸を抑えている先生を横目にやはり人間そう簡単に変われるものでは無いと自身と先生を見て思い返したのだった 。