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第1章 。



いや 〃 本当に待って欲しい 。
この状況を可笑しいと思うのは雪白だけなんです?!
まぁ確かに雪白以外は雪白が男装している事等知る筈もないのだから当然と言えば当然なのだが 。
いやでも色々と待って欲しい。お願いだからそんな雪白を憐れんだ目で見るのはやめて ???揃々泣きそうだよ???
そりゃあ転校してきたばかりの奴が急に 顔面蒼白で頭を抱えだしたら
『 アイツ頭可笑しいんじゃねぇの? 』
とは 、なるけど !なりますけど ?!
でもこの場合可笑しいのは雪白じゃなく 理事ちょ――― … そうだ 、理事長だ 。どういった経緯で雪白が男子校に転入する事になったのか聴きに行くべきだ 。
流石に雪白が女だと解れば理事長も転校 取り消し位するだろう。否、して貰わないと困るのだ 。
しかしその為にはまず 、この場を切り抜けなければ 。
さっさと自己紹介して終わろう 、うん 。

『 … 雪白 奏です 。宜しくお願いします 。 』

宜しくって言っても今日でおさらばですけどね 。理事長に交渉して何がなんでも雪白はこの学校から転校しなくては 。男しかいない学校なんて有り得ない 。女の子のいない世界等雪白が生きていける筈がないだろう 。
そして先程から気になっている事が一つ 。

どうして担任は未だにこの場にいないのか 。

え 、 なんで皆してそう普通にしてられるの ?!之が普通 なの ?!本当 、担任どうなってるの … ??不安しかないんだけど … ?
本当に皆はさして気にしてないのか雪白の自己紹介を聴いて 『 へぇ 、なんか名前 みたく白雪みたいに真白だよな 』『 顔も女っぽいし “ 白雪姫 “ って感じだな 』『 嗚呼、確かに !』なんて本人を差し置いてよく解らない会話を繰り広げていた 。
そりゃあ雪白は女なんですから女顔でしょうよ…と言うか、白雪姫って黒髪に血のように赤い唇の絶世の美女じゃありませんでした?!雪白の何処をどう見たらそう思うのですか!!!絶対名前が似てるだけだ。
もうなんか … どうにでもなれ…なんて半ば投げやりな気持ちで自席へと歩いていけばやけに視線を感じて気持ち悪い 。男にガン見されるとか本当勘弁なんだけど 。
やっとの思いで席へ着き座ればそれを確認 した生徒会長は頑張ってね 、とだけ声を掛けて教室から出て行った 。
嗚呼 、そうかあの人3年生だもんな … なんか迷惑掛けて済みません … 。と 、若干 自分の行為を振り返り申し訳ない気持ち になっていれば何やら隣から声を掛けられ 吃驚する 。
まさか自分みたいなのに声を掛ける物好き がいるとは 。

『 僕 、 相良さがら のぞむ って 言うんだ 。宜しくね ?解らない事があったら何でも聞いて欲しいな 。隣の席だから 、何かあったら頼ってね 。 』

物好きさん事望くんはとても紳士に微笑んで何とも素晴らしい台詞を此方へ投げ掛けてくれた 。
誰もが好きになってしまいそうな笑顔がとても魅力的な人だった 。
色素の薄いふわ 〃 した茶髪に吸い込まれそうな秘色の瞳 。
甘い顔立ちは将来性が伺える。きっと 、女の子ウケもいいのだろう 。
第二ボタンまでボタンを外しており其処から覗く鎖骨が ── って 、あれもしかしてネックレス ? 彼の胸元には丸型のネックレスが隠す様に掛かっておりなんだか この癒し系の彼とは不釣り合いだと思った 。

『 どうも有難う … 御座います 。のんちゃん 、 って呼んでもいいですか … ?』

『 ふふ 、どうして敬語なの ?同い年だし クラスメイトなんだからタメでいいんだよ ?
あっ 、もしかして緊張してるのかな 。さっきも体調が悪そうだったし … 無理しないでね !
それと 、のんちゃんって呼ばれた事無いから嬉しいなぁ 。君の事はかなちゃん…って呼んでもいいかな ?』

『 だ 、 大丈夫 !未だ慣れないだけで体調は悪くないから 。
…うん 、有難う 。大歓迎だよ 。のんちゃん之から宜しくね。 』

『 ふふ 、うん 此方こそ仲良くしてね 。』

… 何だろう 。この人マジで良い人ですね … 。先程の奇行を体調が悪いと捉えるなんて天然にも程がある 。
なんて癒されていれば自身の後ろから緩く 懐に簡単にするり 、と入り込んで来そうな雰囲気の声色が聴こえた 。

『 のぞむんばっか狡いわぁ 。俺もてんこ ― せぇと話したいねん !ね 、俺とも仲良うしてや ?』

後ろを振り返ればにこ 〃 と上機嫌に微笑む可愛らしい男の子がなんとも愛らしい事 を言っていた 。
真っ黒な髪を鎖骨下辺まで伸ばしており 、それでいて艶があって枝毛一つない とても綺麗な髪質だった 。
前髪で片目を隠しており 、赤いピンで止めているのがやけに似合っていた 。
瞳は夕焼け空の様に淡い色をしており、華奢な体躯もガリ〃 と言う訳ではなく程よく筋肉が付いていて 。
それに加えて関西弁と来たらもう萌え要素 の塊でしかない 。狙っているのか 。

『 えっ ?!嗚呼 、是非仲良くして下さい !ええと 、お名前を伺っても … ? 』
『 んあ !? 名乗るの忘れとったわぁ … 恥ずかしいなぁ 。俺は さざなみ 百合ゆり 言うねん 。よろしゅうなぁ ~ 』

『 百合…って可愛い名前…ですね ?僕 、百合の花好きですよ 。』

あと 、GL ( 百合 ) の方もね ( 本音 )

『ほんま ?!俺も百合の花好きやねん !なんや 、気が合うなぁ 』
『 そうですね 、 仲良くなれそうな気がします 。』
『 ちょ 、僕を差し置いて仲良くするのやめて ?百合 ── って 、もうHR終わりか 。次の授業の準備しないと 。かなちゃん 、次は数学の授業だy … … あれ ?いない 。』

そう 、雪白はチャイムが鳴ったと同時に 教室から飛び出し急いで理事長室へと向かった。話の最中申し訳ないが今直ぐ抗議しなければいけないんだ 許せ (

そう心の中で二人に謝罪をしつつ勢いよく飛び出したはいいものの、転校してきたばかりの奴が理事長室が何処にあるか解る筈もなく1 階から4階までを2回程往復してから漸く辿り着いた 。
ちょ、待っ … 酸欠 … 死ぬ … 。
ぜはー、ぜはー、と理事長室の前で荒く呼吸を繰り返していれば、ガチャリ、扉が開く音がした。それを不思議に思い、顔を上げれば其処には雪白の会いたかった人物が立っていた。

『 雪白 奏くん、だね?私はこの学院の理事長。日本ひのもと だ。ふふ、来ると思っていたよ。さァ、入り給え。』

── …

理事長室に入れば何やら高級感溢れる品々に囲まれておりうっかり壊してしまわないかと不安に駆られる。
そんな雪白を他所に目の前の理事長、と書かれた席に座っているのは紛れもなく此処の理事長。
手を絡め顎を乗せてニコニコとしている様子はそれはそれは肖像画の様に綺麗で。
白髪のお爺さんを想像していた雪白は呆然とするばかりだ。
紫がかった黒髪を肩下まで伸ばしており、藤色の瞳は眼鏡で隠れてはいるが確かに優しげに細められている。きっと、眼鏡の下には物凄い綺麗な顔が隠されているに違いない。勿論ほうれい線等はあるのだが、肌も若々しく未だ三十代くらいであろう。…理事長って、もっと歳がいってなければいけないのかと。
どう話しを切り出そうかと思考を巡らせるもどうしたらいいものか一向に答えが見当たらない。あまり小賢しいのは好まない。此処は直球でいこう、と口を開いた。

『 あッ、あの!折角この学院に転入したのは良いのですが、その…転校先を間違えてしまって…。実は私、女なんです。皆さんとても優しくて親切にして下さッたのに大変心苦しいのですが、転入を取り消しては貰えないでしょうか…!』

ばッ、と頭を下げれば、理事長は『 よいよい、頭をあげよ 。』と促す。
然すれば、顔を上げるべく足を一歩後ろに下げたと同時にとんでもない爆弾発言を投げられた。

『 ふっふっふ、良いではないか。貴殿もこの学院を気に入ってくれたのであろう?ならば態々転校する必要等ない。この男所帯にも一輪の花が必要。まさしく学院の紅一点!面白いではないか!うむ。転校の余地無しだ!』

一体この理事長は何を仰っているのか。
思わず目が点になる。いやいや紅一点とかそんなの目指してないんで!!と言うか面白いとかそんな理由で校則どころか法律破っていいんですか?!?!

『 えッ?!いや、そんな…!だ、第一皆さんの迷惑になるんじゃ…!!』
『 迷惑等ではない。遠慮は無用ぞ、お嬢さん。』

違います遠慮じゃないんです。雪白は女の子のいない学校なんて来たくないんです。そう、声を大にして言いたかったが流石に心の内に留める。
もういっそ土下座でも何でもするんで転校させて下さい!!!!!!!

『 私には学院を好きだと言ってくれた生徒を転校させるなんて無慈悲な真似出来んよ。鬼の所業ではないか。』

いやそのお言葉こそが無慈悲なんですけど?!!酷にも程がある…!!!!貴方は鬼か。
理事長が雪白の為に言ってくれているのは解る。けれど、女の子好きの雪白がこの学院で生きている訳がないと思えばもう素直に言うしかない、と口を開こうとしたが、それは理事長の言葉によって遮られてしまった。

『 私はね。この学院の生徒を本当に誇らしく思っているのだよ。…少々個性的な子ばかりだけれどね。けれど、私はそんな個性の輝き達をお互いに受け止め合うこの学院の子達を尊敬している。だからこそ、貴殿がこの学院を去る亊を、皆に心苦しいと言ってくれた亊を嬉しく思ったよ。大丈夫、貴殿ならこの学院を、生徒達の輝きを受け止める亊が出来る。いや、更に輝かせられる。だから、私の願いを叶えてはくれまいか?どうか、この学院に残って貰いたい。』

先程言おうとした言葉は口から零れる亊なく全て飲み込んでしまった。
嗚呼、狡い人だ。そんな亊を言われてしまったら断るに断れない。断れる人がいたら、それこそきっと鬼だ。まるで理事長は雪白の全てを知っているかのように、心すら見透かしていたかのように思える。
彼の言う大丈夫、は何故かそれくらい意味が含まれているような気がして。雪白は頷くしかなかった。
然すれば、雪白が頷いたのをみた瞬間先程までの真剣な眼差しは何処へやら子供のような明るさに戻り、『 やった―!』と声を上げる彼はもう確信犯なのではないかと本気で疑う。もう呆れを通り越して笑えてしまうではないか。クスリ、笑った雪白を見て日本理事長は何故か満足気に頷いて

『 うんうん、やはり女性は笑った方が良い。よし、折角の紅一点だ。明日からは元の姿で来るように!』

『 … … … はい ? 』

思わず聞き返せば何故か背中を押され、理事長室を追い出される。『 それじゃあ、又明日から宜しくね!お嬢さん。嗚呼、その格好で来たら制服剥ぎ取るからね? 』と、にこやかな笑顔と有無を言わさない言葉を発せられた。

なっ、なんて人の話を聞かない人なんだこの人…!!!!!
駄目だどうしよう。もう既に明日から不登校になりそうだ。余りの自由奔放さに精神を削られつつも雪白は確かに心のどこかで之から始まるこの無茶苦茶な学校生活に胸を高鳴らせていた。
── なんて 。きっと気の迷いだ。あの理事長に毒されたに違いない、と雪白には胸が高鳴る理由なんて知る由もない。
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