第1章 。
校門へ足を踏み入れれば 、随分と広いなと未だ知らぬ校舎を見上げては、今日から此処で新しい生活が始まるのかと緊張にも似た感情が湧き上がり、気を引き締めようと拳を握り締めて 。
然すれば何やら前方からこの学校の制服 と思わしき衣服を身に付けた人が此方へ向かって来ている 。
この学校の理事長さんかな、と思いつつよく目を凝らして見ればそれは自分と同じくらいの歳の青年で 。
もしかして生徒会長さんだろうか 。
そんな事を考えている間に青年はどんどん此方へ近付いてくる 。
こ 、 こう言う時ってどう反応するのが正解なんだ …!?
なんて慌てふためく雪白に構う事無く彼は足を進める。後三十メートル程しかない 。
嗚呼どうしようと少しばかり俯いていた顔を上げれば、生徒会長と思われる人物 が自身の目の前まで接近しており思わず、息を呑んだ 。
息を呑んだのは驚いたから、と言うのもあるが何よりその美しさだった。
老若男女を魅力する圧倒的オーラ、絹の様なさらり 、とした銀髪 。 ビー玉に似た瞳を細め、形の良い唇は少し上がっていて 。まるで、宝物を見るかの様な愛おしそうな慈しむ様な眼差しで此方を見ては 、陶芸品の如く白くも骨ばった男の子らしさを感じさせる手を自身に差し出して 。
『 ようこそ我が栖蘭高校へ 。俺は此処の生徒会長 、
時雨と名乗る青年はやはり此処の生徒会長だったようで。にこり 、その端整な顔で微笑んでは色気の含んだ声色で歓迎の言葉を口にした 。
なんと言うか出逢った人を片っ端から落としてそうだなこの人 、と言うのが雪白の感想だった。
こんな笑顔と声で出迎えられたら誰だって嫌でも恋に落ちてしまうだろう 。
―――まぁ 、雪白は恋になんて落ちませんけどね 。( 真顔 )
いやだって、女の子じゃないですし 。推定180 ㎝は有るであろう男なんて論外 だ 。
雪白は可愛い女の子を所望しているのだから 。
え ? 一人称が変わってないかって?仕方ないだろう、一応プロローグはそれっぽく纏めなくちゃいけない。だから、敢えて一人称を私にしていたのだ。もう1話 が始まっているのだから戻してもいいだろう 。( メタ発言 )
なんて誰に向けているのか解らない心の声は彼に不信感を与えたのか 、少し眉を潜めて首を傾げている 。
やばいやばい 。転校初日に目を付けられてはたまったものじゃない 。
『 っ、はい。此方こそ宜しくお願いします 。… 僕は雪白 奏です 。』
此方も少しぎこち無いながらも 、微笑んで彼の手を握り返す 。
はぁあ … 危なかった … 一応男装しているし、 男として転入する訳なので女の子達と気兼ねなく話せるように男の子っぽい口調 、 一人称で返した 。
然すれば 、緊張していると解釈したらしい彼はそんな緊張しないでと自身の顔を覗き込む様な体勢でまた微笑んだ 。
逆に緊張するので辞めていただきたいものだ 。
普通の女の子だったら卒倒ものである 。
『 さぁ 、皆が君を待っているよ 。大丈夫、皆とってもいい子達ばかりだからね 。ほら、行こうか ? 』
…………ん ?
待て待て行くのは良いが、その前にこの手をどうにかして欲しい 。
自身の手の方へと視線を向ければ未だ手は繋がれた侭で 。寧ろ、早く行くよ 。とばかりに手を引かれる始末である 。
『 あ 、 あの … その 、 手 。僕一人でも歩けますよ?』
少しばかり遠慮がちに彼と瞳を合わせながら伝えれば彼は今更気付いたのか 、おや 。なんて声をあげて 。
『 ふふ 、君の手の触り心地が良かった所為かな 。離し難くって 。
奏くんは未だ転校初日だろう?それなら、こうして手を引いてあげた方がいいんじゃないかな 。』
いやそうじゃなくて!!!手を!!離してくれません ?!後ろに着いて歩けば良いでしょう?!?
触り心地が良い等と言われれば、内心気色悪いと鳥肌をたたせて 。
普通の女の子なら照れたりする所なのだろうが 、そんな暇等ない 。照れる要素が一切と言っていい程見当たらない 。
なんなの ??? 此奴ホモなの ???
なんて思いつつも初日から面倒事を起こす訳にもいかない 。
此処はぐっ 、と抑え笑顔で 『 有難う御座います 』とだけ答え大人しく手を引かれておいた。
そうして校舎内に入れば極一般的な玄関が広がっており、雪白のいた高校とさして変わらない様な気がする 。
しかし 、初めての土地はやはり何処か緊張してしまうもので 。
キョロキョロと辺りを見回してしまう 。
中履きに履き変えれば 、麗しい生徒会長と長い廊下を歩き始めて 。
… 本当に今更だが 、こう言う案内とかって生徒会長ではなく 、担任が案内するものなのではないのだろうか 。
不思議に思い自身よりも10㎝以上も高い彼を見上げながら問 。
『 こう言う案内役って担任の先生とかがしてくれるモノじゃないんですか … ? 』
雪白は167㎝だ 。女の子としては身長 高い方だと思うんだけどなぁ … 。と、謎の敗北感を感じていれば 、少し気まずそうな表情をした後 、
『 あ 〜 、2年B組の担任の先生は少 アバウトと言うか、なんと言うか…でね ?』
と 、苦虫を噛み潰した様な表情で重々しく告げられた 。
… 一体どんな先生だと言うのだ 。転校早々不安しかない 。
まぁ 、大丈夫だよ 。と 、全然大丈夫じゃなさそうな声色で丸め込まれればどうやらもう直ぐ教室に着くようで 。ガヤガヤと騒がしい声が聴こえてきた 。
嗚呼 … どんな可愛い女の子との出逢いが待っているのだろうか 、ふへへへへ 。おっと … 頬を緩めるな頑張れ 。頑張るんだ ! 雪白 !!
自分自身に喝を入れればいよいよ扉の目の前まで迫って来た 。
一歩、また一歩と近付く度心臓が早鐘を打つ 。
遂に扉の目の前に立てば 、すぅ … はぁ … と 、 深呼吸をして 。
――― よし 。心の準備は出来た 。後は扉を開けるだけだ 。
『 奏くん 。準備はいいかい ? 』
彼は扉を引く為手を掛ければ 、律儀に此方に確認を取って 。
まさかとは思うが 、この人扉を開けてくれるのか ?!
……なんて紳士な事か 。
と、本日二度目の敗北感を味わいつつ頷けば時雨さんは満足気に笑った 。どうしよう勝てる気がしない。
嗚呼 、くそ 。彼が女の子だったら確実に惚れていたのに 。と 、残念に思うと同時に扉が開かれた 。
『 どうぞ ? 』
まるで執事の如く慣れた手つきと仕草で自身を教室内へと招く彼は何とも言えない美しさと言うか、やけにサマになっていて 。
導かれた先には教室が有るだけなのに、一瞬何処かの豪勢なパーティ会場にすら見えてしまった 。
この男は何処までも自分をどう魅せればいいのかを熟知している 。
しかし 、何時までも立ち止まっているわけにも行かず 、中へ入り転校生が居ていいであろう皆から1番注目が集まる場所まで移動すれば 、 前を向いてこれから共に学校生活を送る事になるクラスメイトの顔を見回して 。
はてさて 、可愛い女の子に美人さん 、もしくはロリっ娘系とか委員長系とかとにかく 、どんな女の子がいるのか期待に胸を膨らませ 。
…………。
………………うん?
いやあの 、可愛い女の子どころか女の子一人見当たらない気がするのは気の所為だろうか 。いや 、きっと気の所為だ 。
女の子が一人もいないなんてそんな現実あってたまるか 。
けれど 、何度見回しても女の子と思わしき姿は見当たらない 。
… … 可笑しい 。教室を間違えただろうか 、 と教室から出ようとすれば例の生徒会長さんによって肩を掴まれ阻止される 。
『 奏くん ? 何処に行くつもりだい ?』
『 あの、僕の教室って本当に此処なんですか ?見た感じ 、… 女の子が1人も見当たらない気がするのですが … 』
女の子がいない生活なんて耐えられる筈がない 。
嗚呼、どうか間違えだと言ってくれと願っていればそんな雪白の願いを打ち砕くかのように彼から容赦のない言葉が紡がれた 。
『 ── え ?
此処 、男子校だよ ? 』
そうかそうか男子校か … だから女の子 が いない訳ですねおーk ……… はい ?
ん ??? 何かの聞き間違いかな ???今 、この人無駄に良い声 で “ 男子校 “って言いませんでした ?
いやそんな 、まさか 。彼の言葉を聴いて呆然としていれば心配そうに顔を覗き込まれるが 、今はそれどころじゃない 。
え?どういう事 ? と 、 回らない思考を必死にぐるぐると張り巡らせては10秒 、いや1分した後漸く此処が ‘ 男子校 ‘ だと言う事を理解 した 。
要するに雪白は “ 共学 “と “ 男子校 “ 、間違えて転校 してしまったのだ 。
“ 男子校 “それは 、男しか存在しない学校 。女の子等いる筈がなかった 。
絶望の淵に立っている雪白の考え等知る筈もない彼はまた 、甘ったるい笑顔を此方に向けて 。
『 ふふ 、君は本当に面白い子だね 。見ていて 、飽きないよ 。
それじゃあ 、之から栖蘭高校の生徒として 、宜しくね ? 奏くん 。』
彼の笑顔は今の雪白には悪魔の微笑みにしか見えなかった 。
── 嗚呼 、神様雪白が何をしたって言うんですか 。
只 、女の子にちやほやされる生活を願っただけなのに 、之はあんまりです 。
『 …… ゆ 、 雪白の天国生活は何処ですかぁぁぁああああ … ?!』
雪白の悲痛な叫び声は教室内だけでなく、同じ階の端にまで響き渡った 。