4 悲しいほど貴方が好き
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1人にしてほしいと蘭に頼んでこもったバスルーム。膝を抱えて顔を埋めてどのくらい経ったか。
「美衣」
ドアの向こうから、平次くんの声がした。帰ってきたんだ。事件は解決したのか、和葉ちゃんは無事なのか。私の疑問に答えるように彼は言う。
「解決したで。犯人も捕まったし、和葉も無事や。遅なってすまん。入ってええか?」
「駄目。入らないで」
「そうか。ほな、入るで」
「え?!ちょっ、駄目って言ったのに!」
お構い無しにドアを開けて平次くんが入ってくる。思わず上げてしまった顔を、慌てて近くにあったタオルに埋める。
「…泣いとったんか」
「駄目って言ったじゃん」
「すまん。泣かせてもうて」
私の前にしゃがんで、平次くんが謝る。聞いたことない切なげな声。こんな顔見せたくないのに。
「探偵としても、和葉の幼馴染としても、行かなあかんかったんや。美衣より和葉が大事とか、そんなんとちゃう」
「…わかってるよ、そんなの!でも嫌だった!攫われたのが和葉ちゃんじゃなかったら行かなかったんじゃないかって思ったし、ずるいって思った!攫われたとか、そんなのずるいって!」
タオルを握りしめて、溢れ出る涙を押さえつけながら胸の中のモヤモヤを吐き出す。
「最低じゃん、そんなの!人の命がかかってるのに、ただの嫉妬で行かないでなんて我儘言って平次くん困らせて!和葉ちゃんが怖い思いしてたのに、ずるいなんて…!私…自分がこんなに最低な奴だとは思わなかった…!」
「美衣…」
「ちょっと前までは自分の幸せなんてどうでもよかったのに…平次くんと付き合えた途端、何よりも自分の幸せを考えて…!ほんと、最低…ごめんなさい…」
「美衣。顔見せてみ」
「やだ…絶対ひどい顔してる…」
「ええから。な?」
平次くんが優しく私の手に触れる。ゆっくりと顔からタオルを離せば、優しい目をした平次くんが見えた。
「はは。ほんま、ぐしゃぐしゃやな」
「だ、だから言ったじゃん…!やだもう。なんでそんな嬉しそうなの」
「嬉しいからに決まっとるやろ。美衣、俺の事大好きなんやな」
言いながら、平次くんが私の頬に伝う涙を拭う。まさかそんな風に言われるとは思わなくて、言葉が出ない。
「確かにあの電話はちょっと困ったけど、嫉妬するんはよう分かるし、怒られてもしゃあないと思って帰ってきたんやで。なのに美衣は、そんな考え方をした自分が最低やって自分に怒っとる。大したもんや」
「…幻滅、してない?」
「してへん。嫉妬心なんて誰にでもあるし、前までどうでもよかった自分の幸せを、何よりも考えるようになったやて?しかも俺と付き合った途端に。そんなん、最高の殺し文句やんけ」
「…でも、人の命がかかってるって時に…私…」
「でも行かせてくれたやろ。俺を本気で止めようと思えばいくらでも方法はあったのに、行かせてくれたし、顔ぐしゃぐしゃになるほど泣いて反省しとる。そんな奴を最低やとは思わへんけどな」
そう言って、私の頭を優しく撫でる平次くん。その温かさが嬉しくて、また涙が溢れてくる。
「お、おかえり…平次くん…」
「ああ。ただいま。美衣」
ちゅっとキスをされて、涙の味やって平次くんが笑う。つられて笑えば、もう一度唇が重なった。
「え…なんか静かになったんだけど、大丈夫かな?」
「まさか平次、バスルームで盛っとんちゃう?!」
「お前ら!静かにしてろって!」
ドアの向こうから聞こえてきた声に、平次くんと顔を見合わせて笑う。勢いよくドアを開ければ、蘭と和葉ちゃんと工藤くんが尻もちをついているのが見えた。
「あ…ち、違うの!ちょうど今声かけようかなって!ね?!」
「せ、せやせや!聞き耳なんて立てとらんよ?!」
「バレバレだっつーの…。仲直りしたか心配ってこいつ等がうるせぇから俺は仕方なくだな」
「新一ずるい!新一も助け舟出した方がいいんじゃとかって真っ先に聞き耳立ててたのに!」
「あ、おい!バラすなよ!」
「ったく…揃いも揃って悪趣味な奴らやのー。心配せんでも、ちゃんと仲直りたわ」
「ほ、ホンマに?!」
「おう。美衣?何してん」
洗面所で顔を洗って多少はマシになったけど、明らかに大泣きしましたって顔が鏡に写ってる。
「無理ー!こんな顔、工藤くんに見せられない!」
「はぁ?おいこら。なんで俺は良くて工藤はあかんねん」
「平次くんは駄目って言ったのに勝手に入って来たんじゃん!」
「ほーん。なら工藤も勝手に見たったらええわ!来い工藤!」
「お、おい!巻き込むなっての!」
「やだー!無理無理!こんなビジュ悪い状態で推しに会えないー!」
「おっ前!なんやその反応は!!こちとら彼氏やぞこらぁ!ちゃっちゃっと見せんかい!」
「…大丈夫そうだね」
「うん。せやな」
嫌がる私を工藤くんに見せようとする平次くん。ぎゃあぎゃあやり合ってる姿を、蘭と和葉ちゃんがほっとした顔で見ている。
「明日の朝帰るんやんな?出直すわ」
「あ、うん。またね」
「あのね平次くん!推しと彼氏は違うの!例えるなら、そう!ステーキとたこ焼き的な!」
「どっちも美味いけど、ステーキは滅多に食えへん高級品。たこ焼きは気軽に食えるB級グルメっちゅうわけか。ええ度胸や。顔貸せ」
「ちょっ、違う!!合ってるけど違う!!待って待って!落ち着いて!助けて工藤くん!!」
「だから俺を巻き込むな!!勝手にやってろ!」
「そんな無慈悲なー!!」
今まで自分のことをおざなりにしてきた私にとって、弱い部分も汚い部分もさらけ出せる平次くんの方がよほど大きな存在なのに。貴方が私の心を七色に染めたのに。
壁際に追い込まれ、片手で両頬を掴まれる。濃厚なキスが頭をよぎって恥ずかしさにぎゅっと目をつぶった。
「アホ」
「あいたっ!な、なんでデコピン?!」
「お仕置や。何を期待しとったんか知らんけど」
「ひっ…ひどい!平次くんのばか!ばーか!」
「ほな工藤、毛利の姉ちゃん。また明日な」
「おう」
「また明日ね」
「さっさと帰れ!あんぽんたん!」
「悪口小学生レベルやんけ」
ポカポカと平次くんの背中を叩きながら、ドアまで見送りに行く。工藤くんと蘭から私達が見えなくなった瞬間、腰を抱き寄せられて唇が重なる。濃厚なキス。
「…その顔、工藤に見せんなよ。ほな、また明日」
ぼそっと耳元で呟いて、平次くんは帰って行く。熱くなった両頬を手でおさえて、早く明日になればいいと思った。
悲しいほど貴方が好き