19 夏の幻
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「いいのかな。こんな場所貸切にしてもらっちゃって。新一達も戻ってないのに」
「いいんじゃない?せっかくの好意だから有難く受け取っとこ」
遊園地内にあるレストラン。他の客はもういない。ここにいるのは私と蘭とお姉ちゃんと松田さんの4人だけ。
(爆発の時間が迫ってるんだ…)
「松田くん。外に出ていいよ」
「誰が出るかよ。惚れた女と死ぬ時に一緒にいれるなんて、とんでもなく贅沢だろうが」
「…バカなんだから。煙草吸ってもいいよ。最後くらい」
「お、まじで?最高」
この後、映画はどうなったんだったか。思い出せない。お姉ちゃんも、きっと同じ。私はここで死んでしまうんだろうか。
(平次くんに、ちゃんと伝えたかったなぁ…)
「わ、これすごく美味しいよ。美衣」
「ねぇ、蘭。私、工藤くんのためになら死んでもいいと思ってたの」
「え…」
「工藤くんはずっと私の推しで、希望で、生きる意味だった。推しの幸せの為に、ずっと生きてきた」
「美衣…」
「今も工藤くんは私の推しだし、もし自分の命で工藤くんが助かるなら命を差し出す。でも、でもね、そんな時…こなければいいって思うの。工藤くんの幸せ以外に、明日を生きたいと思う理由が出来ちゃったから…」
蘭がテーブルの上に置いている私の手に、自分の手をそっと重ねる。彼女の顔を見れば、優しく笑ってる。
「私だってそうだよ。大切な人が自分の犠牲で助かるなら、きっとそうする。でもそんな時、こなければいいって思うよ。だって一緒に幸せになりたいもの」
「…蘭も、そうなの?」
「もちろん。新一だって、きっとそう。何もおかしい事じゃない。だからそんな顔しないで?私は嬉しいよ。美衣が明日にちゃんと、自分の姿も見据えてくれるようになって」
「…うん。明日も、明後日も、これからもずっと…大好きなみんなと、一緒にいたい。平次くんと、一緒にいたい…」
「お呼びだぜ、大阪坊主」
蘭の言葉に泣きそうになりながら俯いて。松田さんの言葉に、ゆっくりとドアの方を見る。そこには、腕に怪我をした服部くんの姿。
「遅なってすまんな。美衣」
「平次くん…!」
「感動の再会のとこ悪いけど、それ外してよこせ」
「ちょっと松田くん。ごめんね、デリカシーのない奴で」
「いや、助かるわ」
「新一!どうしたの、その怪我!」
「なんでもねぇよ。思ったより時間かかっちまって悪かったな。蘭も、その腕のやつ外すぞ」
「え?あ、うん」
「お願いします。松田さん」
「制限時間は解除出来たけど、エリアは解除出来ひんかった。すまんけど、頼むわ」
「ああ。任せとけ。よくやったな、服部。工藤。お疲れさん」
パスを持って、部屋を出て行く松田さん。初めてちゃんと名前を呼んでいるところを見た。
「4人とも、最後に一度あのジェットコースター動かしてくれるらしいから、乗っておいでよ。私は松田くんと行くから」
「本当ですか!やった!行こう、新一!」
「ああ。そうだな」
「美衣?行かへんのか?」
「…腕、痛い?」
「ああ、こんなもんかすり傷や。大したことあらへん」
「…すぐ戻ってくるって言ったのに」
「あー、すまん。思ったより手強い依頼でな。ジェットコースター行かへんのか?もうみんな行ってもうたで」
結局今回は最後まで、事件の全貌も犯人も思い出せなかった。平次くんが帰ってきたから、解決した事がわかるだけ。
「すごく、怖かった。もう会えないんじゃないかって…」
「美衣…」
「平次くんが工藤くんに負けないくらいすごい探偵だって知ってるのに、必ず解決してくれるって思うのに、心配で堪らなかった…。良かった。また会えて…」
涙が溢れるのと、平次くんが私を抱き寄せるのと、殆ど同時だった。彼の心音と体温が伝わる。ちゃんと生きてる。
「人には、大体動機っちゅうもんがある。俺は探偵やのに、その理由が説明できひんのや。なんでこんな短い間で、自分の中でこんなにも変わってしもたんか…。考えても考えても、わからんくて。でも今、抱きしめずにはおられへんかった。考えるより先に体が動いてまう。それくらい、好きでたまらんのや。美衣のことが」
「…五稜星だ」
「は?なんやて?みちしるべ?」
「ごめん、なんでもない」
「お前なぁ…ちゃんと聞いとったか?!俺の告白!」
「聞いてました!アレンジがきいてて良かったです!」
「何の話やねん!まさか伝わってないんか?!俺はお前が好きやって言うてんねん!どうしようもなく!」
平次くんがそう叫んだ時、窓の外で大きな花火が夜空に咲いた。これも遊園地側の粋な計らいだろうか。
「綺麗…」
「…なぁ、ちゃんと伝わったか?」
「あ、うん。もちろん。私も好きだよ、平次くん」
「なんか思ったんとちゃう。もっと嬉しくて泣いたり顔真っ赤にしたりせぇや」
「いやぁ、無事にまた会えた事の感動の方が大きくて…なんかごめんね」
「…まぁ、ええわ。ほな俺ら、付き合うやんな?」
「私でよければ、喜んで」
「美衣がええ。目、つむり」
「え…」
平次くんの顔が近づいてきて、心臓が跳ねる。顔が熱くなる。ギュッと固く目をつぶった次の瞬間、手の甲にちゅっとキスをされた。
「…意地悪」
「そうそう、そうゆう顔が見たかったんや」
「平次くんのアホ。おたんこなす。色黒。早食い野郎」
「攻撃力低い悪口やな」
「単細胞。口悪男。ウエストポーチダサい」
「待て待て待て。ダサないやろ!ウエストポーチは!」
「気づいてないのが1番やばい」
「なんやてぇ?」
「でも好き。どうしようもなく」
「…なんじゃそれ。可愛すぎるやろ」
平次くんの瞳が熱を持って、距離が近づく。そっと目を閉じれば、今度こそ唇同士が優しく重なった。