16 ピルグリム
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ご飯はいらないとお姉ちゃんから連絡がきたから、久しぶりにコンビニご飯ですませてテレビを見てるとチャイムがなる。
「はーい」
「よう。悪いけど開けてくれ」
「松田さん。今開けますね」
モニターに映ったのは眠るお姉ちゃんを抱っこしている松田さん。正面玄関のロックを解除して、玄関へ。
インターホンがなってドアを開ければ、松田さんがちょっと上がらせてもらうぞ、と中へ入ってくる。
「松田さんとご飯食べてたんですね」
「ああ。昨日あんま寝れてなかったみたいで、帰りの車で寝ちまってな」
言いながら、お姉ちゃんを彼女の部屋に連れていきベットに優しくおろす松田さん。サングラス越しでも優しい顔をしてるのがわかる。
「仲直りしたんですね。よかったです」
「聞いたのか」
「はい。昨日めちゃくちゃ荒れて帰ってきて」
「悪かったな。迷惑かけて」
「いえ。全然。でも意外でした。松田さんがお姉ちゃんにちゃんと告白したのが1回だけだって聞いて」
「あー、向こうで話さねぇか?起こしちゃ悪いし」
「はい。お茶入れます」
「サンキュ」
お姉ちゃんの部屋を出て、リビングの椅子に座る松田さん。冷蔵庫から麦茶を取り出して2つのコップに注ぐ。
「千早、初恋の女にはさ、ガンガン気持ち伝えてとにかく押しまくったんだよ。ガキだったし」
「めっちゃぽいです」
「でも、振られてばっかでさ。だから、同じようにしたって駄目だって思ったんだよ。気持ちを伝えるのは、何も告白するだけが方法じゃねぇし、言葉にすると安くなるって言うしな」
「なるほど…。確かに松田さん、誰がどう見てもお姉ちゃんを好きですもんね」
「まぁそれで本人に気持ち疑われてちゃざまぁねぇけど」
「まだ千早さんのことが好きなんですか?」
「な訳ねぇだろ。そりゃ久しぶりに会ってやっぱ美人だなって思ったし、懐かしさに浸ったのは認めるけど」
頬杖をついて松田さんがため息混じりに言う。サングラスの奥の瞳が、どこか遠くを見ているよう。
「千早には、なんつーか綺麗な恋だった。初恋だったし、今も恋愛感情はねぇけど大切な存在だし、幸せになってほしい。でも紗奈に対しての想いは、そんな綺麗なもんじゃない。どんな手を使っても俺のものにしてぇし、俺の事を好きになって俺なしじゃ生きていけなくなればいいって思う」
「…激重ですね」
「だろ。まぁでも、紗奈に嫌われんのが1番怖いってのもあるし、大前提ちゃんと俺に惚れてないと意味ねぇし、傷つけるつもりはないから心配すんな」
「そんな心配はしてないです。だって松田さんは、素敵な警察官ですもん」
「へぇ。そう見えるか?嬉しいね」
そう言って笑う松田さんはどこかあどけなくて。出したお茶をぐいっと一気に飲んで立ち上がる。
「ご馳走さん。帰るわ」
「あ、はい。お気をつけて」
「おう。ん?紗奈、起きてたのか。つーか、何やってんだ?そんな所にしゃがみこんで」
リビングのドアを開けた松田さんが、足元を見ながら言う。三角座りをして顔を埋めてるお姉ちゃん。
「べ、別に…目が覚めたら、話し声がしたから…様子見に来ただけだし…」
「顔赤くね?熱あんのか?」
「な、ないし、赤くない!」
「…お姉ちゃんもしかして、さっきの話聞こえてて、照れてる?」
「そっ、そんなこと…!」
「図星って顔だな」
「…そんな風に思ってるなんて、知らなかったもん」
「なんだよ、可愛いな。もっと聞かせてやろうか?」
「い、いらない!」
しゃがみこんで目線を合わせた松田さんが、お姉ちゃんの頭を優しく撫でる。耳まで赤いお姉ちゃんが、勢いよく立ち上がる。
「…松田くんがいないと生きていけないなんて事はないけど、一緒に生きていきたいとは思ってるよ」
「は?え、プロポーズか?」
「違うから!」
「違ぇのかよ。期待させやがって。弄ぶなよな、人の心を」
「そ、そんなつもりは…ごめんなさい」
「キスしてくれたら許してやる。ちゃんと口にな」
「しないからね?」
「そこは騙されろよ」
「はいはい。帰るんでしょ、気をつけてね」
不服そうな松田さんの背中を押して玄関へ向かわせるお姉ちゃん。微笑ましく思いながらその後ろをついていく。
「じゃあな、ちゃんと鍵かけろよ」
「わかってるよ」
「あ、そうだ。紗奈」
「なに?」
「好きだぜ」
「え…」
「また明日」
ふっと笑って松田さんは帰って行く。バタンとドアが閉まって、お姉ちゃんがその場にへなへなと座り込む。
「うわぁ…今の録音しとけばよかった。ボイスガチャならSSRだわ…」
「…美衣ちゃん。私、松田くんのこと好きになってもいいと思う?」
「え、当然。というか、好きになるなって方が無理では」
「だよねぇ…。でも私、箱推しなのに…」
「推しと好きな人は違うよ、お姉ちゃん」
「…そうだね」
耳まで真っ赤なお姉ちゃんの横にしゃがんで、ふと思う。他人に向けられた愛の言葉ですら、こんなにも甘く響くのに。自分に向けられたら、どんな心地がするんだろう。
何故か頭に浮かんだ服部くんの顔。声が聞きたいと思った。