10 ふたりの秒針
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「ほんっとごめんね!変なとこ見せて!」
「いやいや、ここはお姉さんの家だし自由に過ごしてもらって。なんならご褒美だし」
松田さんが帰ったと連絡がきて、家に戻ると両手を合わせて謝るお姉さん。
「ううん。一緒に住んでるんだから美衣ちゃんの家でもあるもの。本当にごめん。自分じゃどうにもならなくて、また松田に甘えちゃって…駄目だな、私」
「お姉さん…何かあった?松田さんが昨日も帰るの遅かったって言ってたし」
「あ、ううん!何も!大丈夫だから!」
「…もしかして、私の事?」
「ど、どうして?」
「前に私のお父さんには、お姉さんからも連絡してくれたって聞いたから…もしかしたらそうなのかなって」
「あ、いや…うん。そうね、でも大丈夫!また連絡してみるから!」
昔から、こうゆう空気はよくあった。周りの大人が私の両親が私をどう思ってるかを知って、必要以上に気を使ってくれている。
「お姉さん。私は大丈夫だよ。今更何言われても傷ついたりしないから。お父さんが私をどう思ってるか、知ってるから。何があったか教えて」
「美衣ちゃん…。あの、連絡はついたの。大事な娘さんを預かるわけだし、安心してもらおうと思って警察であることや、私の連絡先、このマンションのセキュリティとかも詳しく書いた手紙を送ったの。そしたら昨日電話がかかってきて…」
「え、すごい。電話かけてきたの?わざわざ?珍しい」
「うん…でも、代理の人で、お父さん本人ではなくて。それで…いい機会だから、そのまま貴方にお願いします。お金ならいくらでも振込みますのでって…言われて…」
なんとなく予想通りだ。それでお姉さんにこんな悲しそうな顔をさせてしまって、逆に申し訳ない。
「ごめんね、お姉さん。私のせいで」
「違う!美衣ちゃんは何も悪くない!謝らないで!あっちがおかしいんだよ!あんなこと言う人が、人の親だなんてっ…!」
「まだ何か言われた?」
「あっ…ううん、ごめんなさい。あなたのお父さんなのに…」
「お姉さん。大丈夫だから。全部教えて」
「…一つだけ、娘さんに向けて伝言があるって言われて。連絡は、もうしなくていい。読みもしないもの、毎度…削除するのが…面倒だって…」
「そっか。読んでさえないなら、返事なんてくるわけないよね」
「っ…美衣ちゃん!ずっとここに居ていいからね!私は絶対、あなたの味方だから!」
どうしてお姉さんが泣きそうな顔をするんだろう。私の手を握ってくれてる小さな手。にこっと笑う。
「教えてくれてありがとう。お姉さん」
「美衣ちゃん…。ごめんね。本当にごめん…!」
「やだな。どうしてお姉さんが謝るの?何も悪くないのに。私は大丈夫だよ。それより、本当にずっとここに居ていいの?」
「もちろん!ずっと一緒に住もう!私で良ければ保護者代わりにもなるから!」
「やった。あのね、蘭と園子が遊びに来たいって言ってたから、今度連れてきてもいい?」
「もちろん!お泊まりだってしていいから!」
「嬉しいな。私、家に友達連れてきたことないから、楽しみ」
「…うん!沢山遊んでいいからね…!」
「ありがとう、お姉さん。お姉さんに会えて本当に良かった」
それは紛れもない本心。私を心配げに見つめるお姉さんに平気だと伝わるように、その後はいつもより少し明るく振舞った。
次の日の朝。目を覚ますとお姉さんはもういなかったけど、テーブルには美味しそうな朝ごはんが置いてあった。
(サンドイッチ美味しい!安室さんに教えてもらったのかな?)
なんて思いながら食べていたら、急に視界が滲んで。ぽたぽたと涙がテーブルを濡らしていく。
「…なんで泣いてんだろ。私」
理由もわからないまま、次々にこぼれ落ちる涙。せめてもの抵抗に上を向いた。
「堤。浮かない顔だな。サンドイッチは上手に作れなかったのか?」
「ううん。降谷くんの教えてくれたレシピ通り作ったら最高に美味しかった」
「じゃあなんでそんな浮かない顔を?」
「…私、最低なことしたの。言う必要ないことを言って、傷つけた。大人失格だ」
「野々村さんがそう言ったのか?言う必要のないことだって」
「違うけど、世の中には知らなくていいことってあるでしょ」
「そうだな。けど、自分に関係する事で知らない事があるのは、俺なら嫌だな。しかもそれで心を痛めてる人がいるなら、尚更な」
言いながら、降谷くんがカフェオレを私の目の前に置く。警察署内の自販機にはない、私の好きなやつ。
「これは班長、これはヒロ、これが萩原で、これが松田から」
「…あは。5本も?揃いも揃って甘やかさないでよー。泣くぞこんにゃろう」
「胸貸そうか?」
「いい。泣いてる暇があったら、これからどうしたらいいかを考える。ありがとう、降谷くん」
「僕が思うに、愛というパーツひとつあるだけで、過去は変えられる。そして今日も」
「…うん。そうだね。私もそう思う。こうしちゃいられない!私行かないと!」
「ああ。行ってらっしゃい」
カフェオレを鞄に5本詰め込んで、部屋を出る。そこには他の4人が当たり前かのような顔して立ってる。
「お、その顔は元気出たな」
「さすが零。昔からの慰め役なだけある」
「堤の元気出て嬉しいけど、他の男のおかげってのが腑に落ちないからって怒らないの、陣平ちゃん」
「うっせぇ。怒ってねぇよ」
「…みんなからの愛のおかげで鞄が激重なのよ。松田、荷物持ちしない?ご飯くらいなら奢る」
「ほら、姫のご指名だぞ、松田」
「よかったな、松田」
「やったじゃん、陣平ちゃん」
「うるせぇっての!ったく。俺らの愛なめんな。そんなちっこい両手に収まるかよ」
言いながら、松田が私から鞄をひょいと取り上げ歩き出す。みんなの方を見れば、彼の言う通りだと言わんばかりの顔。また泣きそうになりながらも笑顔を返して、松田の後を追った。
ふたりの秒針