1 運命のルーレット廻して
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「わ、月が綺麗」
警察署を出て、真っ黒な空を見上げてそう言う私を工藤くんはじっと見ている。不思議に思ってしばらく考え、ハッとする。
「違うよ!?今のは純粋な感想で決して愛してるって意味ではっ」
「体は?平気か?医者はもう問題ないって言ってたけど」
「あ、うん!超元気!」
「助けてくれてありがとな。オメーは俺の命の恩人だ」
「い、いやいや、そんな大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃねぇよ。あの黒ずくめの男、毒薬を持ってたって松田さんから聞いた。殴られてたら、それを使われてたかもしれない」
「おお…さすが探偵。合ってる」
「ん?なんか言ったか?」
「あ、ううん。なんでも」
「そうゆうわけだ。本当に感謝してる。ありがとな、野々村」
月明かりに照らされて笑う工藤くん。その笑顔を見て自分のやったことは間違ってなかったと思う。
「で、だ。聞きたいことがいくつかある」
「え?なに?」
「オメー、なんであそこにいた?」
「なんでって、私も普通に友達と遊びに行ってたんだよ」
「ほー。その友達はどこ行った?」
「さ、先に帰ったの。なんか用事思い出したとかで」
「それで?オメーはなんで帰らずにあんな人目のつかない場所の茂みに隠れてたんだ?」
「そ、それは…そう!落し物探してて!そしたら偶然、工藤くん見つけて!なんかヤバそうな雰囲気だったから、これまた偶然そこにあった金属バットを掴んで夢中で飛び出したのです!」
私はあの日死ぬと思ってた。だからそこに居合わせた理由とか何も考えてなくて。苦し紛れの言い訳に工藤くんが納得するはずもなく。
「探偵なめんなよ。何を隠してやがる」
「か、隠すなんてとんでもない!全て事実です!真実はいつもひとつでしょ!ね?!」
「話す気はねぇってか。まさかあのヤバい奴らと繋がってたんじゃねぇだろうな?」
「まさか!それはない!私はただの工藤くんオタクの女子高生だよ!」
「それも前から不思議だったんだよな。ガキの頃からオメー、俺の事やたら好きだろ。別にその頃は俺もただのガキだったのによ」
「いやいや。あの頃から工藤くんは素晴らしい探偵だったよ。忘れもしない初推理ショーを聞いた時の感動!」
「それはもう忘れろ!ったく、あん時もほかのみんなは寝てると思ってたのに、狸寝入りなんかしやがって」
その頃にはもう前世の記憶が甦っていたから、見逃す訳にはいかないと必死で起きていたのを覚えてる。
「誰にも言わない。約束する。それでも、話せねぇのか?」
「…すみません。実は友達と行ったってのは嘘で工藤くんと蘭ちゃんのデートを一目見ようとトロピカルランドに行きました」
「はぁ?!おまっ…何してんだ!バカじゃねぇの?!」
「ごめんなさいー!だって工藤くんのデートしてるとこ見たかったんだもん!すごく幸せそうだったね!あの噴水のとことかもうカップルだった!」
「なっ!ばっ、バーロー!カップルじゃねぇし!つーか、絶対一目じゃねぇな?!」
工藤くんは幼馴染の1人として、私を心配してくれてる。嬉しいけど話す訳にはいかない。これ以上頭のイカれた奴だと思われたら、流石に口を聞いてもらえないかもしれない。
「ったく…人が本気で心配してんのに。もう無茶すんなよ。死んでたかもしれねぇんだぞ」
「ありがとう。でも心配してもらうようなことは何もないよ。私が工藤くんを裏切るなんて天地がひっくり返ってもありえないし、工藤くんを守れるなら死んでもいいんだ。何も悔いはない」
「やめろよ。俺はそんなのちっとも嬉しくねぇし、もし俺を守ってオメーが死んだら、俺は一生俺を許さない。だから、簡単に死んでもいいなんて言うんじゃねぇよ」
「うん。ごめんなさい。優しいなぁ、工藤くんは」
「…なぁ、なんでそんなに俺を好きなんだ?これといった何かがあったわけでもない。園子や蘭と同じように幼馴染として過ごしてきた。オメーのそれは恋愛感情でもないんだろ?なのに、どうして…」
確かに工藤くんからしたら、不思議な感情だろう。彼からすれば私はただの幼馴染。でも私にとって彼は、推しであり生きる活力であり、誰よりも幸せになってほしい存在。
「ずっと工藤くんを見ていたの。だからだよ」
「ずっとって…だからそれは園子や蘭も一緒だろうが」
「違うね。ずっとっていうのはご飯の時も遊んでる時もお昼寝の時もずぅっとだよ」
「怖ぇよ…」
「幼馴染でよかったよね、ほんと。他人だったらストーカーになってたかもしれない」
「真顔で言うな」
「待てよ。そしたら工藤くんに捕まえてもらえる…?それもありか」
「なしだっつーの!ったく。バカなこと言ってないで帰るぞ」
「はーい」
夜遅いからと家の前まで送ってくれた工藤くんが、私の住むアパートを見ながらため息混じりに言う。
「オメーさ、いい加減引っ越したらどうだ?せめてもうちょっと防犯システムのあるところに。女の一人暮らしなんだからよ」
「いいよ、ここで。大家さん優しいし、家賃安いし」
「親父さんは?最近帰ってきてんのか?」
「さぁ?3ヶ月くらい姿は見てないけど、お金は振り込まれてるからどっかで元気にやってるんだと思う」
「そっか。なんか困ったら言えよ」
「うん。ありがと」
「じゃあまたな」
工藤くんに手を振って、家の中へ。私の両親は昔から仲が悪く、子供にも興味のない人達だった。それでも私がちゃんと育ったのは、前世の記憶があったからだ。
物心ついた頃から推しがいて、精神年齢は恐らく20代後半。だから両親の愛がなくても、お金さえ与えられれば生きてこれた。
両親もそれをわかっていたようで、小学校高学年の時から実質、一人暮らしのようなものだった。
(工藤くんにはああ言ったけど、実際はもう1年近く姿見てないなぁ、お父さん。まぁお金さえくれたらどうでもいいけど)
毎月きちんと口座に振り込まれる生活費。それさえあれば、私は生きていける。この世界には大切な推しがいるから。
大袈裟でもなんでもなく、言葉通りずっと見ていた推しがいる。それは何よりも尊いこと。
(…成功したんだ。工藤くんを守れた。ありがとう、神様)
齢17歳。大きく変わった運命の中。これからも、私は推しの幸せの為に生きていく。
運命のルーレット廻して