10 ふたりの秒針
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大阪から帰ってきた私の目に飛び込んできたのは、玄関の男物の靴。そして部屋へと続く廊下には脱ぎ散らかされた服。
(間違いない…!お姉さん、男の人連れ込んでる…!なんなら、おっぱじめてる?!いや、時間的に事後か!なんにせよ、気付かれないうちにもう一度外に…)
「お、嬢ちゃん。帰って来たのか」
「ま、松田さん!!」
出ようとした時、ひょいっと部屋から顔を覗かせたのは松田さん。上半身裸でズボンだけ履いてる状態で、スタスタとこちらに来る。
「お、豚まん!食っていい?」
「あ、はい。どうぞ」
「サンキュー。なんか色々大変だったみたいだな。ニュースになってたぜ、皐月会の事件」
「そうですね。でも、服部くんのおかげで生きてます」
「へぇ?あの色黒坊主か。好きなのか?」
「そりゃまぁ、好きですよ。工藤くんの相棒で親友なので」
「はぁ?なんだそりゃ。そいつの肩書きが好きなのか?」
「いや、そんなことは。…それより松田さん。ついにお姉さんとやったんですか」
「ごほっ!おまっ…もうちょい聞き方ってもんがあんだろ」
「すみません。正直それが気になって話が入ってこなくて」
「やったけど、付き合ってはねぇよ」
「お、襲ったんですか!獣…!」
「うるせぇ。ちゃんと合意の上だ。でもまぁ、ズルいっちゃズルいよな。俺が断れねぇように仕向けてんだから」
この落ち着きよう、初犯じゃない。つまり何度かやってるけど付き合ってはなくて。でも普段からあの仲良さで、松田さんの片想いで。
「なんかもう、言葉にできない!」
「は?何だ急に」
「この高ぶる気持ちをどう消化したらいいのかわからないので、ちょっと走ってきます!!」
「…マジで行っちまった。変な奴」
さっき帰ったばかりの家を飛び出して、行くあてもなく街を歩来ながら数時間前の事を思い出していた。
「今度はちゃんと大阪案内したるから、また来いよ」
「ああ。そうする」
「あの、服部くん。和葉ちゃんとは、付き合ってないんだよね?」
「付き合うてへんわ!自分と工藤と一緒にすな!」
「ば、バーロー!俺達だって付き合ってねぇよ!」
「そ、そうよ!付き合ってないなら、私は美衣を応援するからね!」
「応援て…あいつ別にそうゆう意味で俺の事好きなわけとちゃうやろ。本人がそう言うてたし」
「え?!言われたの?!好きって?!」
「工藤!お前の彼女話通じへんぞ!」
私は1人、売店でお土産を選びながら少し離れたところで仲良さそうに話す3人を眺めて、眼福だなぁと思ってた。
「だから彼女じゃねぇって! けど、服部と出会ってから野々村が変わったのはマジだと思うぜ」
「うん、絶対そう!前ほど新一は神様って感じがなくなったし!最近、恋って素敵だなって思うって言ってたし!美衣本人が気付いてないだけじゃないかな?自分の気持ちに」
「ありえるな。あいつ、自分のことは本当に鈍感っつーか、見ないようにするとこあるし」
「…見ないように、なぁ」
「その顔は心当たりあるって感じ?!そうなの?!服部くん!」
「な、ないわボケ!あのアホ早う呼んでこい!新幹線来てまうぞ!」
お土産を両手いっぱいに買って、みんなのもとへ向かう。そういえば和葉ちゃんがいない。前世の記憶では、こうゆう場面ではいつもいたのに。
「いっぱい買ったね、美衣」
「うん。お姉さんに。あとこれは、工藤くんに」
「オメーな。一緒に来たやつに土産買うってどうゆうことだよ」
「いいじゃん。減る物だし。まぁ蘭の作った物には敵わないだろうけど」
「一言余計だっての。ありがとな」
「はい。これは蘭に。こうゆうの好きでしょ?」
「え!ありがとうー!これ気になってたんだ!予算的に諦めてたのに…鞄につけちゃお」
「あとこれ、服部くんに」
「はぁ?なんでやねん」
「今回色々とお世話になったから。ありがとう。和葉ちゃんと一緒に食べてね」
差し出したお菓子の箱。それを受け取った服部くんはその場で包装紙を開けて、中のたこ焼きせんべいを数枚取り出しながら言う。
「なんでそこで和葉が出てくんねん。俺への礼なんやろ?受け取ったるけど、礼されるような事した覚えはないで。友達助けんのに理由なんていらへんしな。せやからこれは、お前が食え。半分こや」
取り出した数枚を私に差し出す服部くん。今確かに、友達と言った。
「え…友達?私と服部くんが?」
「そうや言うとるやろ!さっさと受け取らんかい!」
「あ、うん!ありがとう!大事に食べる!」
「普通に食えどアホ」
「ふふ。よかったね、美衣」
「うん。友達にレベルアップした」
「友達で良かったのか?服部」
「なんやこら工藤。あの姉ちゃんにお前が言うてたことバラしたってもええねんで」
「わ、悪かったよ。怒んなって」
「ね、今日は和葉ちゃんと一緒じゃないの?」
「は?なんやさっきから和葉和葉って。幼馴染やからってそんな毎日一緒におるわけやないぞ。工藤達じゃあるまいし」
そうなのか。前世の記憶ではいつも一緒なイメージだったけど、確かにメインで見えていた訳ではない。元からそうだったのか、はたまた私が変えてしまったのか。
(…いや、それはないか。服部くんの人生を大きく変えるような出来事なんて何も…)
思い出すバイクでの大ジャンブ。映画であればあそこにいたのは和葉ちゃんで。もっとロマンチックな場面だった。
(え、まさかあれがなかったからって、そんな変わらないよね?え?そうだよね?)
だってあの後、無事に救出された私達。服部くんの元に一目散に走って来て心配したと和葉ちゃんは泣いていた。
「美衣ー!新幹線出ちゃうよ!早く!」
「あ、うん!乗ります!じゃあね、服部くん」
「おう。またな」
「…うん。またね!」
何気ないその一言が嬉しくて、思わず手なんて振ってしまって。服部くんが分けてくれたたこ焼きせんべいは、なんだか勿体なくて食べられなかった。