9 渡月橋〜君想ふ〜
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「もう!本当に心配したんだからね!」
「すみませんでした…」
病院を抜け出した事を蘭にこっぴどく叱られた。推理力もない記憶だけが頼りの私。でも肝心な部分は何も思い出せない。
だから、事件のことは工藤くんと服部くんに任せて、かるたの大会当日までは大人しく過ごした。
「あれ。蘭さん達も来てくれたんですか」
「美衣がかるたを守ったおかげで大会が出来るからって、皐月会の会長さんが招待してくれたの」
「ああ、それで。ゆっくり楽しんでいってくださいね」
「来未子ー!早う用意して!絶対あんな女に負けたらアカンからな!」
「はいはい。今行くよ」
「和葉ちゃんの方がやる気に満ち溢れてるね…」
「うん。ごめん、蘭。ちょっとトイレ」
「うん。この辺いるね」
犯人も真相もわからないけど、あの決勝会場が崩れてしまうことは確か。ぐっと拳を握って、船へと向かった。
「蘭!野々村は?」
「あ、新一!それが、トイレに行くって言ったきり戻ってこなくて…電話も繋がらないの」
「なんやて?ほんまあいつは何をしとんねん」
「俺達が探すから、蘭はここにいてくれ。戻ってくるかもしれねぇから」
「うん。わかった」
どれくらいの時間が経っただろう。決勝戦へと向かう紅葉と部長さん、そして会長が船へとやって来る。
「おや?君は…野々村さんじゃないか。どうしたんだ。こんな所で」
「…思い出した。皐月さんだ」
「…何を、言っている?今からその船で皐月堂へ向かうんだ。決勝戦をする為に。どいてくれないか」
「行かせられません。だってあなた、あそこでこの子達を道連れに死ぬつもりでしょう?」
「…あの時君がかるたを守らなければ、そこで終わっていたのに」
「うっ…!」
「きゃあ!」
「か、会長はん?!」
チクッとした痛みを感じた後、急激な眠気に襲われる。閉じていく視界の中で、紅葉と部長さんが逃げ出そうとするのが見えた。
「おい!紅葉!」
「…へ、平次くん?あれ、うち…」
「眠っとったんや!ここで!何があった?!」
「何が…そうや、会長はんに!針のようなもので刺されたと思ったら急に眠なって」
「麻酔針か…」
「会長の姿がねぇってことは、1人で向かったのか?皐月堂に」
「ちゃう!野々村さんが一緒や!おったんよ、彼女もここに!会長さんが死ぬつもりやとかなんとか言っとった!」
「なに?!おい服部!」
「わかっとる!!」
2人が走り出した次の瞬間、皐月堂の下層で爆発が起こる。燃え上がる炎に顔を歪ませながらも、バイクへ飛び乗った。
(今…なんか揺れた…?)
「起きたかね」
「…会長。ここは…」
「皐月堂の中だ。君と少し話がしたい」
「…死ぬつもりなんですね。愛する人の為に。罪をかぶって」
「不思議な子だ。まるで全てを知ってるように感じるよ」
「いやいや、ただの女子高校生です。ただ、推しがいる人のことはよくわかるから」
「推し…?」
「生きてるだけで尊くて、この人の為なら死ねるって思える相手です。私にとっての推しは」
「なるほど。それなら確かに、皐月は私の推しだな」
この人が犯罪に手を染めたの間違いない。殺人とゆう最も重い罪を犯した。それでも、さほど恐怖を感じないのは似てるからかもしれない。自分と。
「私もこの前、推しの為なら死んでもいいと思って、危ないことをしました。そしたら、怒られて。推しが可哀想だとも言われました」
「…そうか」
「それでも、推しが推しでなくなるよりはマシだと思ったけど…もっと他の方法もあったのかなって思いました。自分の命を危険にさらさずに済むような方法が」
「人はどうしても、楽な方を選びたがる。自分を犠牲にするのが、1番楽だからな」
「…確かに、そうですね。他人が傷つくより、自分が傷つく方がずっといい」
「そうだ。だが君も、その推しにとっての他人なのだということを忘れてはいけない」
「…会長さん。自首しましょう!今からでも遅くないです!」
「すまないな。もう手遅れなんだ」
会長さんが儚げな顔でそう言った次の瞬間。大きな音を立てながら、バイクが皐月堂に突っ込んできた。
「な、なんだ?!」
「野々村!無事か!?」
「工藤くん!!うん!平気!」
「君達は…」
「観念するんやな、会長さん。もう全部わかっとんねん」
「…そうか。君達が、彼女に教えたんだね。聞こうか。君達の推理を」
服部くんと工藤くんが私と会長さんの間に立つ。なんて頼もしい背中だろう。そして、2人による推理が始まった。