8 光と影のロマン
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「野々村、目覚ましたけど病院を飛び出したみてぇだ」
「はぁ?何でや」
特に体に異常はなく、彼女が倒れたのは疲労やストレスのせいだろうと医者は言った。だからこれ以上事件には巻き込むまいと、蘭に任せて服部と2人捜査に乗り出した。
「さぁな。蘭が追いかけたけど、見つけられなかったらしい。電話出ねぇし…」
「なぁ、前から気になっとったんやけど、なんであいつだけ名字呼びなん?毛利の姉ちゃんも鈴木の姉ちゃんも名前呼びやのに」
「男の人に名前で呼ばれるのが嫌なんだと。父親を思い出すから」
「そら、呼ばれへんな」
「ああ。ガキの頃から、1番身近な人達に無関心を突きつけられて生きてきたから、自分でも自分はいてもいなくてなもいい存在なんだって思っちまってる気がするんだよ。野々村は」
子供みたいに泣くとこを、見た事がない。ガキの頃からずっと一緒にいるのに。わがままを言うとこも、声を荒らげて怒るとこも。
「あいつは俺の幼馴染で、命の恩人だ。幸せになってほしいって思ってる」
「…毛利の姉ちゃんは?」
「な、なんでそこで蘭が出てくんだよ」
「ええから答えろ」
「蘭は…幼馴染で、大事な奴だ。俺が幸せにしてやりたいと思ってる」
「ほーん。そうかそうか」
「と、とにかく!もしそっちに野々村が来たら教えてくれ!じゃあな!」
一方的に切られる電話。こっちに来る可能性なんてないに等しいのは彼もわかっているだろうに。今回の事件のことも、大岡紅葉のボディガードを受けたことも、彼女は知らないはず。
一体どこに行ったのだろう。連絡しようかとスマホの画面を眺めていると、一台のタクシーが目の前に停る。
「いた!服部くん!」
「…は?な、なんで俺がここにおるって知っとんねん!」
「細かいことはいいから!教えて!今どんな状況?」
「来れるはずのない奴が目の前に現れてビビり散らかしとる」
「そうじゃなくて!部長さんは!?どこにいるの?!」
「枚本か?和葉と一緒にホテルやけど…」
「そっか…。カルタの特訓中?」
「まぁ、そうやろな」
「和葉ちゃんに練習相手になってあげてって言われなかった?」
「…お前、ほんまはどっかで見てたんとちゃうやろな」
どうやら正解みたいだ。友達とその女どっちが大事やねん!的な喧嘩まで発展したとみた。て事は、相手が違うだけでストーリー的にはほぼ同じ展開。
(ああ、もう!肝心な犯人と真相が思い出せない!なんで!)
「おい!大丈夫か?!顔真っ青やぞ!」
「え?あ、うん。平気」
「平気なやつの顔色ちゃうねん!病院飛び出してきたって工藤に聞いたで。ほれ、座って水飲め」
「あ、ありがとう。病院に戻れとは言わないんだね」
「緊急な何かがあるんやろ。医者も寝たら大丈夫や言うてたし」
「…うん」
「ほんで?誰に聞いてん。俺がここにおるって」
「え?えっと、蘭が服部くんを未来の旦那さんって言う大岡紅葉って人と会ったって言ってたから…」
「それで紅葉の家まで来たんか?アホなんか鋭いんかわからへんな」
服部くんのバイクの横に2人でしゃがんで話す。渡されたペットボトルは新品で、彼の傍には開封済みのものが置いてある。
(優しいな…)
「ほんで?血相変えて飛んで来てまで俺に聞きたかったんは、枚本の居場所だけか?」
「え?あー…なんで、私には教えてくれなかったの?大阪に帰るって」
「は…」
「あ、いや、今のはなし。ごめん。忘れて」
怪しくないようにそれらしい理由をと思って口にして、すぐ後悔した。友達でもない奴にわざわざそんなこと言わないってわかってるのに。
「…連絡、しようとは思ったんや。けど、なんか、俺だけ別れを惜しんどるみたいで小っ恥ずかしくて…やめてん」
「…別れ、惜しかったの?友達でもない嫌いな奴なのに?」
「やかましわ。悪いか」
「ううん。悪くない。びっくりするほど、嬉しい」
「…そらよかったな」
「めちゃくちゃ情に厚いんだね、服部くん。見習わないとだ」
「まぁ、それでええわ」
予想外の答えを聞けて、予想外に嬉しくなってる自分に驚いて。なんだか感じたことのない感情が渦巻く。
「前にさ、服部くんが言ってた明るくて可愛い幼馴染って和葉ちゃんだよね?言ってた通り、明るくて可愛い人だね」
「そんなん言うてへんわ!まぁ、幼馴染ではあるけどな」
「照れなくていいのに。正直で真っ直ぐな服部くんとお似合いだよ」
「…なぁ、あんた。俺の事好きなんか?」
からかってるでもなく、冗談でもなく。服部くんは真っ直ぐに私を見つめてそう言った。
「…好きだよ?もちろん。だって工藤くんの相方で親友だもの。好きじゃないわけがない」
「あー、そうですか。お前に聞いた俺がバカやった。あほらし」
「え。何故私は呆れられてるの」
「ここにおるって工藤に連絡すんで」
「あ、うん。ありがとう」
スマホを操作する服部くん。彼と反対方向に顔を向けて、自分の伸びた影を見つめる。気持ちが1人で動きだすようだと。
光と影のロマン