8 エネルギーチャージ
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「なぁ、通報せぇ言うた先輩ってあの眼鏡のおっさんか?」
「あ、うん。先輩って言ってもめっちゃ上司で社長の秘書的な事までやってて。でも堅苦しい呼び方は好きじゃないからって先輩呼びなんだけど」
「そうか」
「すごくいい人なんだよ。社長があんなだからいつも社員全員に気配ってくれて。あの人がいなかったらきっとみんな辞めてたと思う」
警察相手じゃないからか、相手が服部くんだからか、聞かれてないことまでつい話してしまう。
「…社長は確かにすごく嫌な奴だった。でも…人の頭を即死させるほど殴れるなんて…その人の方が、どうかしてる」
「…せやな。どんな理由があろうと、殺人は絶対にやったらあかん行為や。俺もそう思う。せやから、ちゃんと犯人、捕まえてくるわ」
「…わかったの?犯人」
「ああ。すぐ終わらせてくるさかい、飯でも行こや」
「え…でも…」
「約束やぞ」
「あ、服部く…」
返事をする前に階段へと行ってしまった。昔の同級生とご飯に行くくらい、許容範囲なのだろうか。
(それとも、気遣ってくれたのかな…あの時みたいに)
私を家まで送る為に文句を言いながらも一緒にいてくれたあの時みたいに。数十分後、警察の人がぞろぞろと降りてくる。先輩と一緒に。
(え…なんで、先輩が…パトカーに…?)
「野々村」
「あ、服部くん。ねぇ、さっき先輩がパトカーに乗ってたけど…」
「犯人やからや。社長を殺ったんは、あの先輩や」
「うそ…そんな…だって、先輩は、本当にいい人で…」
「いい人過ぎたから、かもしれへんな。この会社、倒産するそうや」
「え…?な、なにそれ!そんな話一言もっ」
「社員には秘密にして給料日前に海外に逃げるつもりやったらしいで、あの社長はん。それを知って、社長はんがこっそり蓄えとる自分用の資金を、みんなの退職金にしたかった言うてたで」
ショックだった。会社が倒産することよりも、あんなにいい人だった先輩を犯罪者にしてしまった事が。
「あ、あの…倒産するんですよね?でも社長は死んじゃったし、私達どうすれば…」
「ああ、そこんとこは心配いらんで。腕利きの弁護士に頼んであるから、悪い様にはならへん。明日ここに来てもらうことなったから、すまんけど全員来てくれ」
「そうなんですか…わかりました。えっと、貴方は…?野々村さんと知り合いの様でしたけど」
「ああ、俺は服部平次。探偵や」
「探偵…」
みんなが服部くんからの説明を受けて、複雑な顔をしながらも1人、また1人ビルを出て行く。静まり返った事務室。
「飯、行くで。野々村」
「…食欲ない」
「アホ。こんな時こそ食わなあかんねん」
「わ!ちょっ…」
ぐいっと腕を引かれて、強引に連れ出される。当たり前だけど力でかなうはずもなく、されるがまま焼肉屋へ。
「ほれ、好きなだけ食え。奢ったる」
「…私たちのせいだよね。先輩が犯罪者になったのって」
「ちゃうわボケ」
「でも!先輩は私達の為にっ」
「誰かの為なら何しても許されるんか?そんな訳ないやろ。それに、ホンマにみんなの事を思うなら倒産のこと知った時点でさっさとその事話して全員揃って辞めてまえばよかったんや。殺しの選択を選んだんはあいつの弱さや。誰のせいでもあらへん」
「……私、どうしたらいい?」
「肉食え。次は米や」
言いながら、焼きたてのお肉をお皿にのせてくれる服部くん。箸を持って、そのお肉を口の中へ。
「…美味しい」
「せやろ。こっちも食え」
「うん。…美味しい。ほんとに、美味しい…」
ポロポロと溢れる涙。悲しいのか悔しいのか歯がゆいのか、わからないけれど。服部くんは何も言わず、次々にお皿へお肉をのせていく。
「そんな食べれないよ」
「俺の焼いた肉が食えへんっちゅうんか」
「そうじゃなくて、お腹いっぱいになる」
「あかん。これはあんたのノルマや。食うまで帰さへんで」
食べることは、生きること。きっと服部くんはそう言いたいんだ、私に。強く生きろと。
お米の入ったお茶碗を掴んで、お肉と一緒に頬張る。彼の言葉に応えるように。
エネルギーチャージ
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