8 エネルギーチャージ
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月曜日が嫌いになるのに時間はかからなかった。色んな人がいる、良いところもある、なんて綺麗事を思えたのは半年くらいまでだった。
「おい。この処理、午後までにやっておけ」
「え…あの、今からお昼休憩なのですが」
「だから何だ。さっさとやれ。間に合わんぞ」
「…はい」
小さな会社の事務職。面接ではめちゃくちゃ感じの良かった社長は、いざ入社してみると絵に書いたようなクソで。
それでも今日までやってこれたのは、他の上司がみんないい人だったから。
「野々村さん、手伝うよ」
「いえいえ!このくらいなら10分もかかりませんから!私1人で大丈夫です」
「そうかい?じゃあ代わりにコンビニでスイーツでも買ってくるよ」
「えー!嬉しい!ありがとうございます!」
私よりこき使われてる人達が頑張ってるのに、私だけ逃げるなんて出来なくて。我慢しながら働いている。
(これでよし、と。催促されるの嫌だし社長室に届けよ)
こじんまりとしたビルの3階が社長室。書類を持って階段を上る。ドアを数回ノックしても、返事はない。
(はぁ?いないの?人に仕事頼んでおいて?)
イライラしながら今度は少し強めにノックをしながら呼びかける。
「社長!頼まれた書類持ってきました!社長!」
すると、部屋の中からガラスが割れるような音がした。何かあったのだと思いドアを開ける。
「失礼します!社長!今の音はっ…」
割れた窓ガラスに、テーブルに倒れ込み頭から血を流している社長。動揺して持っていた書類を床に落とす。
「ど、どうしよ…きゅっ、救急車…!」
「野々村さん!今なんか大きな音がしたけど、大丈夫かい?!」
「あ…せ、先輩…!しゃ、社長が…!」
「こ、これは…!大変だ!すぐに救急車と警察を!」
「は、はい!」
言われるがままに救急と警察に電話する。スマホを持つ手が震える。こんなドラマみたいな事が現実に起きるなんて。
「どうも。警視庁の目暮です。社長が頭から血を流しているのを見つけた第一発見者は、貴方ですな?」
「は、はい。頼まれた書類を渡そうと社長室に来たら、窓ガラスが割れる音がして、中に…」
「なるほど。その時部屋の中に人は?」
「いませんでした」
「わかりました。また後ほど詳しく話を聞かせてもらいますので、このままこちらで待機をお願いします」
「はい…」
入口にはパトカーと警察の人。頭にこびりついて離れない。社長の無惨な姿。救急隊員の人が言っていた。この頭の傷は即死でしょうと。
(確かに社長は嫌な奴だった。恨んでる人もいたと思う。でも、人の頭を…即死させる程に…)
「なぁ、あんたか?第一発見者」
「あ、はい。そうで、す…」
警察の人だと思って、瞑っていた目を開けて俯いていた顔を上げる。そこにいる人を見て、一瞬息を忘れた。
「野々村?」
「は、服部くん…?」
「おー!やっぱそうか!久しぶりやなぁ!元気しとったか?」
「う、うん。服部くんも、元気そうだね」
「もちろんや。にしても、まさか事件現場で再会するとはなぁ」
「うん…刑事になったの?」
「ちゃうちゃう。探偵や。偶然通りかかったら警察がおったから、こら事件や思うて入れてもん」
「あ、そうなんだ」
「現場も見てきたし警部はんにも一通り話は聞いたけど、もうちょい詳しゅう聞かせてもろてええか?」
警察の人も特に服部くんがいることに違和感を感じてないみたいだし、捜査協力が普通のことなのだろうと、頷く。
「ほな、発見した時の状況やけど、あんたが社長室についてすぐ窓ガラスの割れる音がしたんか?」
「あ、ううん。何度かノックして、反応がないから強めにノックしながら声をかけた後に、音がしたの」
「なるほどな。3階に行ったんはあのエレベーターでか?」
「ううん。階段」
「階段?なんでわざわざ」
「エレベーターは社長専用なの。お前らは俺より下なんだから階段を使えっていつも言われてて」
「嫌な奴やなぁ。ほんなら、ここの社員は誰もエレベーターには乗らへんっちゅうことやな?」
「うん。見つかったらめちゃくちゃ怒られるから」
数年ぶりに会った服部くんは、当たり前だけど大人になっていて。だけど、話す感じはあの頃と何も変わらない。
ここが事件現場でなければ、懐かしさにもっと浸れたんだろうけど。そう思いながら、彼の質問に答え続けた。