7 時は流れて
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「そういえば、遠山さん、だっけ?結婚したらしいよ」
そう紗奈から聞いたのは、24歳の春。社会人2年目になったばかりの頃だった。
「国末さんのお母さん情報?」
「うん。この前照明が言ってた。ついに人のもんになってもうたかーって言ってたから、照明のものだったこと1回もないじゃんってツッコんどいた」
「あはは。想像出来るなー、その感じ」
相手は服部くんだろう。高校から付き合ってたんだから、きっとまた、やっとかって友達に言われたりしたのかもしれない。
「それで?紗奈達は?結婚しないの?もう5年も付き合ってるじゃん」
「うーん。今はそれより仕事頑張りたいかな」
「そっか。すごいよね、紗奈は。向上心あって」
「ずっとやりたかった仕事だからね。美衣は?最近どう?仕事」
「どうもこうもないよ。超辞めたい」
学生の頃に思い描いてた大人って、もっとかっこよかったのに。実際の私は思っていた大人とは程遠い。
「恋愛の方は?大学の時は割と彼氏いたのに、働き出してからさっぱりじゃん」
「だって出会いないんだもん!それどころじゃないんだもん!」
「ごめんって。ほら、今日は飲も!」
嫌なことや憂鬱な気分をお酒で流し込むことを覚えた。愛想笑いも、自分を押し殺すのも、上手くなった。
大きな悩みがある訳じゃない。日々の生活に不満がある訳でもない。仕事が嫌なのなんて、殆どの大人がそうだし。
「ねぇ、ちょっとー。今日は寝るの早くない?」
「ん〜…その商品は…カバー力がすごくてぇ…」
「夢の中でも仕事してんの?尊敬しかないわ」
酔って眠ってしまった紗奈。いつもの事だと、国末さんに電話をかける。数十分後、車で迎えに来てくれた。
「あ、国末さーん。いつもごめんね」
「いやいや、こちらこそやで。いつも連絡くれておおきに。これ、紗奈の分な」
「多いってば」
「貰えるもんは貰っときや。その代わり、また寝てもうたら連絡たのむで」
「もちろん。じゃあ、ありがたく。ご馳走様です」
国末さんと紗奈は彼女が大学を卒業したのをきっかけに同棲を始めた。財布は別らしいけど、彼はいつもこうして奢ってくれる。
「ほーんとスパダリだよね、国末さん」
「スパダリ?なんやそれ」
「スーパーダーリンの略」
「スーパーダーリンて。小っ恥ずかしいわ。そんなんちゃうて」
「そんな事あるよ。さすがジムで働いてるだけあっていい体してるし」
「まぁそこは、お手本にならなあかんしなぁ」
当然のように私も車に乗せて送ってくれる。大学の時は紗奈の家の目と鼻の先のアパートに住んでた私。
今はお互い引っ越して、少し距離が出来たけど。今日みたいに定期的に会うようにしている。大人になると、お互いが会おうと思わなければ会えないから。
「そういえば、聞いたか?和葉ちゃんが結婚したて」
「あ、うん。おめでたいね」
「ホンマになぁ。野々村ちゃんは、結婚願望とかあるん?」
「めっちゃある。専業主婦になりたい」
「はは。それ働きたくないだけちゃう?」
「バレたか。ちなみに紗奈は、今はまだ仕事を頑張りたいそうです」
「あー、聞きたかったことバレてたか」
「なんだかんだ私も国末さんとは5年の付き合いですからね」
「せやな。これからもよろしゅう頼むで」
「こちらこそ」
それは、これからも紗奈と共に過ごすって事。相変わらずラブラブな2人に頬が緩む。
「送ってくれてありがとね」
「おん。ほな、またな」
家の前でおろしてもらい、軽く手を振って家の中へ。誰もいない部屋にただいまと呟き、お風呂に直行する。明日は休みだけど、なんの予定もない。
(朝ゆっくり寝れるとか最高…)
睡眠がとれる喜びを噛み締める時がくるなんて、あの頃の私は夢にも思っていなかった。湯船に浸かって凝り固まった体が解されていく快感。
遠山さんなら、ウエディングドレスはAライン。きっととても可愛らしかっただろうと思った。
時は流れて