7 時は流れて
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「野々村!やれば出来るやんけ!!」
「ありがとうございまーす!」
英語のテスト、赤点回避出来た私は担任からたくさん褒められて進級も無事に出来ることになった。
「やったなぁ、美衣!」
「うん!超ハッピー!服部くんにお礼しなきゃ!」
「あ、噂をすれば!あそこにおんの、服部とちゃう?」
「あ、本当だ」
廊下の先に見えた後ろ姿に声をかけようとして、やめた。隣に遠山さんが見えたから。
「せやから、今度の試合見に来てや」
「しゃあないのー。行ったるからちゃんと勝ちや」
「うん!平次が応援してくれたら百人力や!」
「大袈裟やアホ」
どこからどう見ても両思いな2人。この学校中のみんなが知ってることだ。
「話しかけへんの?」
「うん。またでいいや。それより!テスト終わったしスタバ行こ!」
「ええね!行こ行こ!」
私と服部くんはただの同級生。なにか理由がなければ特に話すこともない。紗奈と国末さんもあれ以来、喧嘩もなく順調で、時間はあっという間に過ぎていった。
「え?国末さんの大学の文化祭?」
「うん。一緒に行かない?」
「行きたいー!いつ?」
「来週の土日なんだけど」
「了解!じゃあ土曜日行くから泊めてね」
「もちろん!楽しみにしてるね!」
電話を切って、もうそんな時期かとカレンダーを眺める。自分の高校の文化祭は今年も友達とはしゃぎまくった思い出しかない。それはそれで楽しかったけど。
(1回くらいは彼氏と過ごしてみたいよねぇ、やっぱり)
「お、野々村。何してんこんな所で」
「服部くん。紗奈と電話してたの」
「ほーん。なんでわざわざこんな寒いとこで」
「校舎内だとうるさいから。あ、そうだ。服部くん。テストおかげさまで赤点回避出来たよ。ありがとう」
「テストて…いつの話しとんねん。もう2ヶ月前やんけ」
「あはは。なかなか話すタイミングなくて」
「あるやろ。同じ学校やねんから」
確かに彼を見かけることは多々ある。でも、わざわざ他の人と話してる時に声をかけるほど親しい間柄でもないから。
「やー、なんか声かけづらいじゃん?そんな仲良くない人って」
「おいこら。喧嘩売っとんか」
「え。だってそうでしょ?」
「まぁ仲ええとは言わへんかもやけど、仲良くないはなんかちゃうやろ。自分、割とドライやな」
「よく言われる。これお礼にあげる」
「なんや。のど飴?」
「今それしか持ってなくて」
「そらおおきに」
レモンののど飴を服部くんの手の上にひとつ乗せた時、彼を呼ぶ声が聞こえた。
「平次ー!そないなとこでなにしてんのー?昼休み終わってまうでー!」
「和葉。おー、今行くわ。ほなな、野々村」
「うん。ばいばい」
冷たい風が頬を撫でる。のど飴をひとつ口に放り込めば、その酸っぱさに意識が向く。早足で教室へ戻った。
それが、私と服部くんの最後の会話だった。
「ねぇ、聞いた?ついに付き合うたらしいで!あの2人!」
「服部くんと遠山さん?」
「うん!やっとやんなぁー!」
「ほんとにね」
知ろうとしなくても、同級生の彼の噂は勝手に耳に入ってきた。前よりいい雰囲気の2人も、何度も見かけた。
「あれ。紗奈、スマホカバー変えた?可愛い」
「うん。照明とクリスマスにお揃いで買ったの」
「えー!めっちゃいいじゃん!」
「美衣もお揃いにする?」
「そんな虚しいお揃い嫌だ」
冬休みには紗奈の家に泊まりに行って、国末さんとの惚気をたくさん聞かされた。変わらず上手くいってるようだ。
「私達ももう3年か〜。美衣、進路どうするの?」
「大学に行こうとは思ってるけど、何処にするかはまだ決めてない。紗奈は国末さんと同じ大学行くの?」
「うーん。まだ考え」
「そっか。あーあ。ずっと高校生でいたいね」
「それなぁ」
そんな私達の願いも虚しく、時は過ぎていく。何になりたいから何をやりたいかなんてわからないまま。大人になっていくのだった。