5 微妙な繋がり
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「照明と喧嘩した」
テスト週間に入り、今日も今日とて居残り勉強をしてた私に紗奈からそう電話がかかってきた。
「え?!喧嘩?!なんで?!てかいつの間に名前呼びに!」
「前にさ、ずっと好きな人がいたって話したじゃん。名前呼びは先週から」
「あ、うん。したね。律儀にありがとう」
「今日テスト勉強しようって初めて照明の家に行ったの。そしたら、どう見ても手作りのお守りがあって、その好きな子に前作ってもらったものだって言われて…」
「うーわ。それは嫌だわ。手作りってとこがまた」
「でしょ?!だからこんなの持ってるなんてまだ好きなのかって聞いたらそんなんじゃないって言うから、じゃあ捨ててくれって言ったらそれは嫌だって言うから…ムカついてクッション投げつけて帰った」
電話の向こうの彼女は泣いてるようで、鼻をすする音が聞こえる。そして頭をよぎる嫌な予感。
「ね、あのさ。その昔好きだった人って…どんな子か知ってる?」
「え?さぁ…あ、でも実家が隣だから小さい頃から知ってるって言ってた気がする」
「そ、そうなんだ…」
「それがどうかした?」
「ううん!どんな子だろうと思って!彼氏でもないのに手作りお守り渡すとかあんまないし!」
「だよね。普通あげないよね?まさか今も輝明のこと狙ってたりする…?」
「そ、それはわからないけど!紗奈が怒るのは当然だよ!」
「でしょ?!あのお守り捨てるまで絶対許してやんないつもり」
前に服部くんがノートの端に書いてくれた関係図を見ながら、嫌な予感は膨らむ。
「ごめんね、こんな電話して。勉強中だったよね?」
「何言ってんの!話ならいつでも聞くからね!」
「うん、ありがとう。じゃあまたね」
電話を切ってため息をこぼす。この予感を確かめなければ勉強どころではない。スマホをとりだして、メッセージを送った。
ー今、電話できる?
すぐに既読がついて、電話がかかってきた。
「も、もしもし」
「おう、野々村か?どないしてん」
「…服部くんってできるって返事くれるんじゃなくて電話かけてくれるタイプなんだ。推せる〜」
「はぁ?なんの話や」
「あ、ごめん。ちょっと聞きたいことあって。前にさ、国末さんと遠山さんが実家隣同士だって教えてくれてじゃん」
「ああ、せやで」
「遠山さんって、前に国末さんにお守り作ってあげた事あるか知ってる?」
「あんで。なんやテニスの大会に出るから作ってくれて頼まれた言うてたけど」
嫌な予感的中だ。国末さんがずっと好きだった人は遠山さんで間違いない。大きなため息と一緒に頭を抱えてしまう。
「それがどないしてん」
「あー、そのお守りが喧嘩の原因になったみたいで」
「喧嘩?堤と国末が?」
「うん」
「ほーん。ちゅうかあいつ、まだ持っとんのかそのお守り」
「服部くんまで怒らないでよ」
「お、怒ってへんわ!」
「一応確認するけど、遠山さんが国末さんのこと好きな可能性とかある?」
「はぁ?!あるわけないやろ!」
「あ、だよね。はーい。ありがとう」
面倒な事になりそうで、早々に電話を切る。聞きたいことは聞けたし、とりあえず略奪の心配はなさそうだけど。
(紗奈には言わない方がいい、かな?)
その夜、紗奈から国末さんから謝りのメッセージがきたけど、お守りはまだ捨ててないらしく、許してないと聞いた。
「うーん」
「美衣、ずっと唸ってるけどその問題わからへんの?」
「あ、いや。ちょっと考え事してて」
「なんや。余所事考えるくらい余裕出てきたん?凄いやん」
「うん。自分でも驚いてる。勉強法変えたらこんな変わるのかと」
「ほんま?私にも教えてや、その勉強法」
服部くんに教えてもらったやり方を説明しようとノートを開いて、あの関係図が視界に入る。
(付き合ったの国末さんから直接聞いたって事は、遠山さんと今も繋がってるって事だよね?しかも恐らく彼から連絡してる…うーん)
「美衣?おーい。…あかん。また考え込んでもうた」
一晩悩んでもどうするべきか答えは出なくて。他人の恋愛に口出しするものじゃないとは思うけど、友達が傷ついてるのを無視はできない。しかもこうも繋がりがあると余計に。
(国末さんまさか、まだ遠山さんに未練が…?だとしたら最悪ノパターンだよ!)
「おいこら。そこの百面相女」
「いたっ」
おでこに軽い痛みがはしって前を向くと、服部くんがいた。さっきまで友達が座ってたはずなのに。
「服部くん。何してるの?」
「あんたに話があって来たんや。友達は先帰る言うてたで」
「え!ほんとだ!もうみんな帰ってるじゃん!いつの間に!」
「何をそんな考え込んでてん。そのノート見る限りじゃ勉強は順調そうやけど」
「あー、ちょっとね。それより服部くん、私に話って?」
「昨日の電話。なんやねんあれ」
「え?何って…なんか変なことあったっけ」
「和葉が国末のこと好きなんちゃうか言うてたやろ。なんでそう思うたんや」
あんな明らかに両片思いのくせにして、遠山さんが他の男を好きな可能性があるかもと、不安になって聞きに来たのか。
「可愛いとこあるね、服部くん」
「はぁ?アホなこと言ってないで理由聞かせんかい」
いくら探偵でも、好きな子の気持ちまではわからないんだろうか。なんて思いながら、ノートを閉じた。