4 見据える先
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そもそも日本って言語が3種類もあって、世界的に見ても難しいと言われてるらしい。そんな言葉を日常的に使いこなしてるんだから、そのうえ違う言語を覚えるとか。
「無理ゲーだと思うの」
「現実逃避しても赤点は回避出来ひんって」
「わかってるよ!わかってるけど全然覚えられないんだもん!」
担任に次の英語のテスト、せめて赤点回避してくれないと進級が危ういと言われてから自分なりに頑張ってはいるものの。成果は感じられない。
「なぁ、今日スタバ行かへん?」
「行きたい!けどごめん…残って勉強する…家だと絶対サボっちゃうから…」
「あー、そっか。ほなしゃあないな。テスト終わったらパーッと遊ぼ!」
「うん。ありがとう」
友達に手を振り、教科書に向き直る。だんだんと教室から人がいなくなり、ついには私だけに。
(…サッカー部が練習してる。いいなぁ。私も体動かしたい)
普段はあんなに走ってめっちゃ疲れそうくらいにしか思わないのに。深いため息をこぼす。
「野々村?何してん」
「服部くん」
ドアの所から声をかけられ視線を向ければ、剣道着を着た服部くんがいた。部活の途中なのだろう。
「自主勉中〜。服部くんは部活?」
「ああ。忘れもん取りに戻ったらあんたが見えてな。自主勉て、テスト期間は来週からやろ?」
「それじゃ間に合わないからやってる。担任に次赤点回避出来ないと進級できないって言われて」
「自分、そないにアホやったんか」
「ええ、まぁ。英語が特に苦手で…」
「ほーん。勘は鋭いのにな」
言いながら、服部くんが近付いてくる。そして私の机に広げられた教科書をひょいっと奪い取る。
「勉強方が合ってへんのとちゃうか?蛍光ペンで線引いたり大事なとこに丸したりして、やった気になってなんも頭に入ってへんのやろ」
「名推理だね、さすが探偵」
「アホ。わかっとんならやり方変えろや」
「だって他のやり方とかわからないし」
「まずこの文法の基本の形を覚えんねん。ほら、書いてみ」
「あ、うん」
「次に例文を考える。教科書に載ってんの丸パクリするんやなくて、身近なもんで。これやったら、暗号を考えんのは解くことよりも難しい、とかな」
「それ服部くんの身近なことじゃん」
くすくすと笑いながら、言われた通り自分のわかりやすい単語で例文を作る。服部くんに言われるがまま、次々に文を考えては書く。
「よし。これで今回の範囲で出る文法は全部や。こいつをまるっと覚えて、後は出てきそうな単語を抑えとったら赤点はとらへんやろ」
「え…すごい!なんかいけそうな気がしてきた!私なら出来るって英語でなんて言うの?」
「I can do it.やな」
「いや発音良っ!!ちょっ、もっとなんか喋って!」
「なんかて…Are Kunisue and your friend dating?」
「おおー!かっこいい!なんて言ったかさっぱりわかんないけど!」
「国末とあんたの友達、付き合うとんか?」
「そー!そうなの!!え?!なんで知ってるの?!」
服部くんは私の前の席に腰かけて、シャーペンを手に取りノートの端に関係図を書きながら説明してくれる。
「和葉とその国末っちゅう兄ちゃんの実家、家が隣同士でな。オカン同士が繋がっとるから色々情報入ってくるみたいで、俺とあの坊主も国末とは前にちょっと事件絡みで知り合いやから、なんでもかんでも話してくんねん」
「へぇー。そうなんだ。確かにコナンくんと国末さん、なんかコソコソ話してたなぁ」
「まぁ、堤と付き合うたって話は、オカンからやなくて国末本人から和葉が聞いた言うてたけど」
「あ、もしかしてツーショット送られてきた?」
「あー、せやせや。頼んでもないのに見せてきたわ」
「私も送られてきたよ!国末さんイケメンだし、お似合いだよね!」
そういえば国末さんは関西弁好きだったし、出身はこっちなんだと思ってたけど、まさか服部くんの幼馴染の隣の家住みだったとは。微妙な繋がりだ。
「まぁ元気そうでよかったわ。彼氏おんなら前みたいな事も起こりにくいやろし」
「うん。新しいバイト先も国末さんと同じでね、制服姿が超似合うってはしゃいでたよ」
「ほーん。そらよかったな」
「あからさまに興味なくすじゃん。てか、部活いいの?」
「ええねん。剣道は好きやけど別にプロ目指そ思うてる訳とちゃうし」
「ふーん。でも強いんだよね?」
「ああ。強いで」
「言い切っちゃうんだ」
「ホンマのことやからな」
立ちあがる服部くん。窓から差し込む夕日が
彼の横顔を照らしている。
「剣道のプロじゃないなら、服部くんは何になりたいの?」
「決まっとるやろ。探偵や。解けへん謎なんか一個もない。名探偵になる」
なりたい、じゃなくて。なるって言い切るその横顔は眩しくて。とてもかっこいいと思った。
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