18 現実彼氏
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どれくらいの時間が経ったのだろう。ほんの数秒かもしれないし、数分かもしれない。わからないけど、電子レンジが温め終わった事を教えてくれた。
「た、たこ焼き、出来たよ…?」
「おいこら。わざわざ大阪からバイク飛ばして来た俺の告白を、なかったことにするつもりちゃうやろな」
「そっ、そんなつもりないけど!でもあの、心臓バクバクで何が何だかわからないから…一旦、食べてほしい…」
「…ほんまや。顔真っ赤」
「見ないで」
「食うけど、隣座るんやぞ」
「え?!無理!」
「無理ちゃう。ほら来い」
電子レンジからたこ焼きを取り出して、掴んだままの私の手を引いてカウンターの椅子へ向かう服部。仕方なく、彼の隣に座る。
(これじゃ、全く落ち着けない…)
「うまっ。なんやこれ。前とちゃうやろ?」
「あ、うん。ちょっとアレンジしてみた」
「天才やな」
「…あの、手は、離さないの?片手じゃ食べにくいでしょ」
「離さん。言うとくけどな、これでもかなり我慢したってんねん。感謝せぇアホ」
「ええ…。唐突かつ理不尽な怒り」
「ほんで?返事は」
「返事?」
「告白の返事に決まっとるやろ。あんたは俺の事どう思っとんや」
今度は真っ直ぐ、私を見てる服部。心臓が爆発して、顔から火が出てしまいそうだと思いながら、下を向く。
「好き…。服部の彼女になりたい」
「お、おお。そうか。ほんなら、そうしよ」
「うん…」
黒羽に言われた通り、ちゃんと伝えたけど。恥ずかしすぎて顔が上げられなくなってしまった。
「…どんだけ俯いてんねん。顔見せろや」
「無理。死ぬから」
「死なへんわ。無理やり向かすで」
「駄目。そんなことしたら刺す」
「物騒なこと言うなや」
「爪楊枝で」
「ならいいとはならへんぞ」
私の腕を掴んでた服部の手が緩んで、今度は手を握る。ビクッと肩が跳ねて体が強ばる。
「ちっこい手やな」
「こ、殺す気…?」
「なんでやねん。愛でとんじゃ」
「ずるい…なんで服部はそんな余裕なの…」
「探偵やからな」
「それ関係ある?」
「知らん」
「適当がすぎる」
服部の手は、大きくて暖かい。相変わらず心臓はうるさいけど、じんわりと嬉しさも感じ出す。
「…私、服部の彼女なんだね」
「そうや」
「彼女って、何したらいい?」
「せやな。とりあえず、彼氏の顔見るとこからちゃうか」
「う…確かに…」
「冷めても美味いわ、これ」
たこ焼きを食べてるなら、こっちじゃなくカウンターを向いているのではと、少しだけ顔を上げてチラ見する。バッチリこっちを見てた服部と目が合う。
「…やられた」
「こっちの台詞じゃボケ。上目遣いとか卑怯やぞ」
言いながらふいっと視線を逸らした服部の頬は赤くて。どうやら照れてるらしい。するつもりなんてなかった偶然の産物、上目遣いに。
「…服部、本当に私の事好きなんだ」
「はぁ?疑っとったんか」
「そうじゃないけど、照れてるの見たらなんか実感したというか」
握ってた手を緩めて、私の手を自分の胸に押し当てる服部。プチパニックで声にならない声が出た。
「わかるか?めっちゃドキドキしとるの」
「え?…ほ、本当だ。なんで?」
「なんでやとぉ?あんたが顔もまともに見れへんのと同じ理由じゃアホ」
「…服部も、私にドキドキしてるんだ。なんだ、お揃いだね」
手から伝わる服部の心臓の音は、私に負けじと早くて。それがなんだかすごく嬉しくて。今どんな顔してるんだろって気になって、視線を彼の胸元からゆっくり上げる。
「…なんか服部、発光してない?」
「はぁ?やっとこっち見たと思ったら、何を言うとんねん。するわけないやろ」
「だってなんか、周りキラキラして見える」
「…そらお前、あれや。彼氏フィルターっちゅうやつやろ」
「何そのフィルター、凄。彼氏になったら勝手にかかるの?え、どのタイミングで?神が授けるの?」
「知らんわ。そこ深堀らんでええねん」
「ちなみに、服部は?私が光って見えたりしてる?」
「おー。そりゃもう。ピッカピカや」
「ええ…。どうゆう仕組み」
嬉しそうにも、幸せそうにも見える。初めて見る柔らかい顔。服部は彼女にこんな風に笑うのか。
(…私だけがいいな。この顔を見るの)
ふと、カウンターに置いてあるたこ焼きがまだ残ってるのに気付く。いつもなら一瞬で食べ終わるのに。
「もうお腹いっぱい?それとも飽きちゃった?」
「ああ、ちゃうちゃう。余裕で食えるし全然飽きてへん。ただ、これ食うたら帰らなあかんと思うとなかなか箸が進まへんだけや。けど、さすがに帰らなやばいな。明日に支障出るやろ」
「うん…。明日も、会える?」
「その顔やめぇ」
「え。どの顔かわからない…。そんな変な顔してた?」
「変とちゃう。可愛すぎて理性が負けてまいそうになんねん」
「が、ガッテン承知」
そんなこと言われるなんて思ってなくて。嬉しいやら恥ずかしいやらで、何を承知したのか自分でもわからない。
服部がようやく手を離して、ひょいひょいとたこ焼きを口に放り込み、あっという間に完食する。
「ご馳走さん。明日も来る。多分、黒羽と」
「うん。待ってる」
「ほな、帰るわ。また明日」
「ま、また明日…」
立ち上がって、ぽんと私の頭を優しく叩いて服部はお店を出て行く。見送りたかったけど、手を振るのが精一杯だった。