13 夏の終わり
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「明日の朝、大阪に帰るわ」
唐揚げを食べながらそう言う服部。夏休みは明日まで。少し考えればわかる事だ。最終日に帰るのが普通だと。
(もう1日あると思ってた。そっか、今日が最後)
「おい、聞いとるか?」
「あ、うん。最後ならご飯もっと豪華にすればよかったね」
「あんな、別に最後ちゃうやろ。大阪に帰るだけで、またこの店には来る言うたやんけ」
「そうだね」
でも、閉店後のこの時間はなくなってしまう。今度服部がこの店に来たとしても、それはきっと営業時間中。
「そういえば服部、進路とかどうするの?大阪で探偵事務所開くの?」
「ああ、それな。迷ってんねん」
「え。探偵辞めちゃうの?」
「ちゃうちゃう。探偵はもちろん続けるし、それ以外やる来あらへんけど…場所がなぁ」
「大阪じゃ駄目なの?」
「駄目ちゃうし、それ以外ない思うてたけど…あの眼鏡の坊主がこれからもおんのやったら、東京に出てくるんも悪うないかと思うてな」
「コナンくん?」
「せや。あいつがもし、どっか遠くにでも行くなら迷わへんのやけどな」
服部の言うことは、よくわからない。でも冗談なんかじゃないのは彼の表情でわかるし、コナンくん絡みで悩んでるって事はわかった。
「すごいね」
「は?」
「人生を左右するような選択の判断材料になれるコナンくんも、そんな風に大切に思える人に出会えた服部も、すごい。精々沢山悩めばいいよ」
「…せやな。確かにすごいわ。あいつに会わへんかったら、きっとあんたにも会えてへんしな」
「だね。コナンくんは本当に客呼びの神だよ」
「そのうち神棚にあの坊主の写真とか飾り出しそうやな、あんた」
「いいねそれ」
「アホ。やめたれ」
ずっと生きる事に必死だった。姉とこの店があれば、それでよかった。今でもそれは変わらないけど。
「ありがとう、服部。今までで1番楽しい夏だった」
「そらよかったな。けど、人生これからやで。毎年更新せぇよ、1番楽しい夏」
「…なんて難しい宿題」
「どこがや。そもそも今年の夏、なーんも夏らしいことしてへんやろ?働いてばっかで」
「かき氷なら食べた」
「かき氷だけに夏を背負わすんは荷が重いで。海とかプールとか花火とかBBQとか祭りとか、もっと色々あるやろ。夏っぽいこと」
「…どれもやった事ない」
「はぁ?!ホンマかそれ!」
「うん。育ててもらってる上にどっか行きたいとか言えなかったし、店を継いでからは生きるのに精一杯だったから」
私と姉がテレビやSNSを見ないのは、それも大きな理由のひとつ。娯楽の誘惑に負けない為だ。
「もっと早う言えや。いくらでも連れてったったのに」
「無念」
「まぁええわ。来年のお楽しみやな」
「え…」
「祭りやBBQや花火なら夏以外でも出来るし、他になんかないんか?やりたいこと」
「あ、えっと…文化祭、行ってみたい」
「文化祭か。ほな、大阪来たらええわ。案内したんで」
「あ、うん。ありがとう…」
「なんや、微妙な反応しおって」
「や、その…来年の夏も、一緒に過ごしてくれるんだって思って」
この夏が、特別なんだと思ってた。きっと服部が東京にいたのは大きな事件の為だろうし、偶然黒羽と知り合ったおかげの、一時のご褒美みたいなものだと。
「アホ。夏だけとちゃうで。これからいくらでも、一緒に過ごせるわ。友達やろ?」
「…うん。ありがとう、服部」
とても嬉しい言葉なはずのに、友達って単語になんだか少しモヤっとした。
「ごちそうさん。美味かったわ」
「はーい。ね、服部。ここってこれで合ってる?」
「え?ああ、ここな。合うとるで」
「どうかした?ソワソワして」
「あー、その、なんや。俺もなんだかんだ楽しかったし、飯美味かったし、た、たまたま!店の前通りかかったら、安うなってたからやな」
「えっと…何の話?」
「これ、やるわ」
言いながら服部が1輪の花を差し出す。綺麗にラッピングされたそれ。花の甘い香りが鼻をくすぐる。
「え…い、いいの?」
「べ、別に変な意味ちゃうからな!世話んなったし、お礼や!お礼!」
「服部って花とか贈るんだ…」
「おいコラ。喧嘩売っとんのか」
「ごめん、ちょっと意外で。嬉しい。ありがとう」
「おー」
照れくさそうに視線を逸らす服部。これが最後じゃないとか言いながら、ちゃんとお礼を用意してくれていたのか。可愛らしい白い花。明日ちゃんと花瓶を買って来て飾ろうと思った。
夏の終わり